be judged




硝煙の香りが協会の中にまで立ち込めている。
コーネロの部下たちが忙しなく動き回る中、肝心のコーネロの姿が見えなかった。
既に逃亡をしたのか、或いは激昂した信者に殺されたのか。

(ここいらが潮時か)

私は一人、コーネロの部屋へと向かっていた。
いつもならコツコツと響く足音は、銃声に紛れて聞こえなかった。
私はノックもしないまま、静かに部屋の扉を開けた。


……








外では愚かな人間共が懲りずに殺し合いをしている。
鋼の錬金術師のおかげで崩れた計画の穴埋めに呼び出されたとはいえ、国軍も交われば事態は簡単に収集がつくだろう。
まずは死んだ"教主様"に姿を変え、そいつの部下を煽ってやろう。そうして争いを荒立て、東の地に血の紋を刻むのだ。
ガタ、と後ろで音がした。建て付けが悪くなった扉が開く音だろう。振り返らずその人物の言葉を待つ。

「コーネロ…?」

女の声。信者だろうか。

「無事だったんですね」

「ああーー」

振り返ると、黒い修道服を着た小柄な女が居た。ベールに隠れて顔は見えないが、そこから零れた白い髪がやけに目立っていた。

「…こうなってしまってはもう、貴方の野望は砕けたも同然でしょう」

女はベールを取った。俯いた顔はそのまま、老婆のような見事な白髪と、同じく透き通るような白い肌。人間の色素欠乏…アルビノとは珍しい。

「まだ終わってなどおらん。まずは信者共の鎮圧を…」

彼女は静かに首を振った。同時に、遠くで銃声が響いた。

「私はこれから…信者たちに身を委ねます」

ふ、と目が合った。途端に、ある映像がフラッシュバックした。

「これまでです……さようなら、コーネロ」






( さようなら、メランコリー )






驚愕と混乱で頭の中が真っ白になった。
彼女の顔と声。それは紛れも無く、一世紀前に消えた筈のメランコリーの姿だったのだ。








…………






私は黒い修道服を着たまま、協会の外へと出向いた。
地下通路から礼拝堂へと続く道を通り、外に出た時、一人跪くロゼの姿を見た。
彼女の頬に絶え間無く流れる涙が、地面に染みを落としていた。

「……あなたも、わたしを騙していたんですか…?」

彼女の言葉は、もはや私に語られたものでは無かった。

「……あの人は、生き返らない……?」

彼女は、私を非難することもなく、侮蔑することもしなかった。
その目には拠り所の無い悲しみと絶望が映し出されていた。

「…わたしは、これから……どうすれば…」

後ろで、ロゼの声が聞こえる。返事をすることもなく、ただ信者たちの集まる協会の門へと向かって歩いた。

「……教えてよ………」






もうベールは必要なかった。裁かれる為には、顔を隠してはいけない。
この私が"贖罪のアルビノ"なんて笑わせる。罪を償うには、誰かに裁かれるしかないのだ。
自らに科す罰など、それは単なる自己満足でしかないのだから。
私の姿に気付いた民衆が何事かを叫んだ。
その瞬間、信者たちが私を取り囲んで、口々に何かを言い始めた。
私に対する憤りと嫌悪、そして殺意を感じた。
肩に何かの衝撃を受けた。地面に転がるそれを見て、石を投げられたのだと確信する。
それを皮切りに、人々の殺意は明確なものとなった。
私は身体中に突き刺さるような視線を感じながら、投石の痛みに耐えていた。
抵抗はしなかった。
武器を持った信者が私を目掛けて斧を振り上げた。
次の瞬間、遂に私は死ぬのだ。斧が振り上げられて落ちるまでが、とても長い時間に感じられた。
私は目を瞑って、往生の瞬間を待った。



何かが切り裂かれたような音。
人々の息を飲む気配、そして沈黙。



目を開けると、無傷の私の前に立つコーネロの姿があった。










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