justice



リオールの町を訪れたのはいつぶりだろう。
今は町全体が騒がしく、人々の叫び声が教会内にも響いていた。

横を歩くグラトニーが何かを探すような仕草をしている。
鼻をひくひくとさせて…食べるものを探しているのだろうか。
やがてグラトニーは倒れていたキメラを見つけ、私に「食べていい?」と聞いた。
答えるまでもなく、彼はその死骸を音を立てて貪るのだ。

「久しぶりに来てみれば何この騒ぎ。…困った教主様ねぇ」

動揺し狼狽える愚かな人間を前に失笑する。
彼の腕は醜く歪んでおり、"賢者の石"を嵌めた指輪はボロボロに崩れていた。
これが欲を貪った愚かな人間の末路。

「ねぇラスト、このおっさん食べていい?食べていい?」

キメラの足を齧っていたグラトニーが楽しそうに云う。
どちらにせよ、この人間はもう用済みだ。

「だめよグラトニー、こんなの食べたらお腹こわすわよぉ」

そしてこの男に嘲笑と軽蔑をくれてやる

「こんな三流…いえ、四流野郎なんか食べたらね」










教主だった肉塊が散乱している。
血のついた口を手のひらで拭うグラトニーは「肉がかたい」と言いながらも満足気であった。
さて…この状況をどう処理しようか。
先ずはお父様に報告して、エンヴィーあたりに事態の収集を手伝って貰おうかしら。

グラトニーが辺りを見回している。
何の気配もしないのだが、何か食べるものを見つけたのだろうか。

「ラスト、ラスト、ねぇ」

「何よ、グラトニー…」

「なつかしい匂いがするよ、ねぇ、ラスト

メランコリーの匂いがするよ…」















……




神を語った者の末路。神に縋った者の末路。


教会の前から人々が私たちを責める声がきこえる。
彼らは今、憤慨しているのか、それとも悲嘆にくれているのか。
恋人が蘇らないと知ったロゼは…絶望しているのだろうか。
私も人々を騙していた愚かな人間の一人に過ぎない。
なるようになれ、と云う思いの方が強かった。


意識を持った日から今まで、およそ100年は生きただろうか。
あの時から変わらない姿と、それ以前の記憶の欠如。
そして色の無い、身体。
そのあまりにも奇怪な容姿を享受し迎えてくれたのはコーネロたち、そしてこの町の人々だった。

数年間と云う短い期間だったとはいえ、私は幸福な時間を生きた。
例え偽りの愛情だったとしても、その事実は消えない。
鋼の錬金術師が暴いた真実は、残酷だが正しいものだった。
これからこの町の人々は現実を直視し、正しい方向に進んでいく。
そう思った。



















しかし現実は甘くなかった。
人民は怒り、武器を手に教会を攻撃し始め、
コーネロと、その部下たちは対抗して町の人を無差別に殺し始めたのだ。

ああ、なんと残酷な結果であろうか。


傍観するしかないこの憐れなアルビノの胸中を満たすのは、限り無い憂鬱であった。








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