▼ 危機 3
衝撃と共に、頭の中が真っ白になる。
痛みは直ぐに消える。しかし、慣れることはない。
「貴様の他に仲間は何人いる」
「……」
「答えろ」
首を締められる。窒息は辛い。
苦しみはやがて消える。私は一体何度死んだのだろう。
抵抗はしなかった。
無駄だと解っているから。
他の人間が手を出さないのは、私が非力であることを知っているからと言うより、私が抵抗しない為だろう。
リーダー格の男が一人で私を弄ぶ。
その光景は、はたから見れば異常だろう。
「黙秘か。それも良いだろう」
「ーーゲホ、はっ……」
地面に膝をついて、荒れた呼吸の音を聴く。
時間は稼げているだろうか。
たった数分な気もするし、もう何時間も経過した様な感じもある。
苦痛は時間感覚を失わせるのだ。
「吐く気も無し、抵抗も無しか。だが」
びき、と頭に激痛が奔った。
髪を掴まれ、強引に顔を上げさせられる。
「研究材料くらいにはなるだろう」
「……!!」
両手を掴まれ、紐で固定される。
突然の事に驚き、逃げようともがくが遅い。
足を撃たれ、その場に倒れ込むと、あとはもう彼らの力でどうとでもなった。
「っひ、ぐ…!!」
「驚いたな、服も身体の一部か」
首の下から腹をナイフで一直線に切られた。
黒いワンピースと一緒に身も裂ける。
赤い液体が流れて跡になり、暫く経つと灰になる。
彼らは驚愕と好奇心に満ちた瞳を向ける。
「嫌…だ、離し…」
「やっとまともに喋ったな。ホムンクルスでも苦しいか」
「うああッ!!」
胸元を強く掴まれ、痛みと不快感で涙が溢れた。
「形はしっかり人間だもんなぁ、コイツ」
「化け物でも見た目は女だしな」
「それなら、"穴"は使えんのかよ」
ワンピースを肩まで捲られる。
ぞわぞわと寒気がした。
下着に触れられる。
その感触にピクリと反応すると、彼らは笑った。
その表情を見た途端、私の中で何かが弾けた。
「ーー嫌ぁ!!!やめてっ……!!!」
叫んだのと同時に、背後で大きな破裂音がした。
「エンヴィー…?」
砕けて舞う壁の破片の背後に、大きなシルエットが映っている。
緑色の歪んだ身体に、大きな口。賢者の石の具現の様な、吹き出た人間の思念がその背に蠢く。
それは紛れもなく、エンヴィーの本性だった。
「…クソどもが!貴様ら全員踏み潰してやる!!」
………
一筋の血が床を伝い、彼女の足に印を付けた。
メランコリーは呆然とこちらを見ている。
「メランコリー…」
「エンヴィー、どうして…」
彼女を拘束していた紐を引きちぎる。
何も言わず、ただ見つめ合う。
少年の姿では、彼女と目線が近くなる。
「……帰ろう」
踵を返して、先程自分が破壊した壁穴へと向かう。
足元に散らばる人間だった肉片など見向きもせずに。
「まって、」
後ろで、彼女の声がした。
「なに」
「……立てない、の」
「……は?」
「力……入んなくて」
はぁ、とため息を吐いた。
メランコリーの手を引き、背に乗せる。
彼女はおぶさったまま、小さな声で「ごめん」と呟いた。
「ムリするからそーなるんだよ」
「だって…」
「なんとなくそんな気がしたから、戻ってきた」
「……エンヴィー」
「なんだよ」
「ありがとう」
お父様(とラスト)に怒られるまで、あと少し
END
……
強がり vs あまのじゃく
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