▼ なまえのなぞ



「傲慢のホムンクルスは、プライド。色欲が、ラスト」

「……そうね」

「強欲のグリードに、嫉妬の、エンヴィー」

「……うん」

「憂鬱の、メランコリー……メランコリー?」

「だからどうしたって言うのさ」

「……ずっと気になってたんだけどさ、どうして私は "メランコリー" なの?」

普段無口なメランコリーが何か突然独り言を言い始めたかと思ったら。
予想の斜め上を行く今更感しかない質問に面食らう俺を含めた兄弟三人。(もちろん何時もの如くプライドは仕事で地下には居ない)

「はぁ?」

「憂鬱なら"メランコリア"とか"メランコリック"といった名前が適当でしょう?何故メランコリー……」

「……遂に気付いてしまったのね……」

ラストはいつになく神妙な顔持ちで溜め息をついた。
何だかこれからとてもシリアスな展開が待ち受けているかのような微妙な空気に包まれ、俺とエンヴィーは同時に息を飲んだ。

「ラスト……」

「ここいらが潮時ね、…そうよね、グリード」

「えぇ!俺?!」

突然名前を呼ばれてビクッとしてしまう。隣にいたエンヴィーが不思議そうな顔でこちらを見ていた。

「あら、メランコリーが生まれる前、一緒に考えたじゃない」

「なにをだよ」

「名前よ」







……




『お父様、次に生まれるホムンクルスはどんな子ですか?』

『憂鬱の感情を宿すものだ』

『憂鬱かあー。女の子がいいなぁ親父殿』

『憂鬱のホムンクルス、メランコリア…だ』

『メランコリアね……何か長くて呼び辛いわ』

『え、俺は可愛らしくて良いと思うぜ?』

『それにしても長いわよ。プライド、ラスト、グリード、メランコリア。メランコリアって何よ長過ぎでしょう名前。ぜったい略されるわよ、コリアとかそんな感じで』

『確かにコリアはちょっとかわいそうかもな……それならせめてメランって呼んであげたい』

『呼び方は問題じゃないのよ。根本的な解決になって無いでしょう?』

『は?名前変えるって言うのかよ。そんなの親父殿が許すわけな…』

『呼び方に拘りはしない』

『マジか』

『お父様もそう言ってる訳だし、私たちで決めちゃいましょ』

『そうだな。メランコリーとかどうだ?』

『イイわね、決まり』




……






「……とまぁ上のような会話があって、貴方の名前は"メランコリー"になったの」

「マジで?俺が付けたの?名前…」

全然覚えて無かった。と言うか、よくもまぁそんな何年も前の会話を覚えてられるな。

「……確かそんなだった気がするわ」

「曖昧な記憶だなぁ」

「私の名前にそんな秘密が隠されていたなんて……」

微妙な空気の中。感激に瞳を輝かせているメランコリーに、約三名の切ない眼差しが向けられた。












END

……


地味に気にしていたこと。




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