黒猫 | ナノ


▼ 同居人


「じゃ、学校行ってくるね。3時には戻るから。お腹すいたらその皿の上のパスタ食べてね。あとキッチン…コンロに触っちゃだめよ。あんまり物音たてないようにね、それから…」
「はぁい!行ってらっしゃい」
エンヴィーと暮らし始めて一週間が経った。洗濯も掃除も教えたことはすぐにできるようになったし、青白く不健康だった顔も血色が良くなり、怪我も痣も大方治った。私が学校に行ってる間に掃除や洗濯はしてくれているし、暇な時は雑誌や本を眺めたりPSPでモンスターを狩ったりしているらしい。わりと安定した生活を送れている。
「ねぇかおる、最近楽しそうだねー!彼氏でもできた?」
「別にー、あんたこそ、最近機嫌良いよね」
「わかるー?昨日さぁ、彼氏が…」
「あーもう惚気はいいって!」
「何よぉ。あ、かおる、今日飲み行かない?医学部の人たちとコンパの約束とりつけたんだけどさぁ、急だけど、今夜、どう?」
「えー遠慮しとく。私、あんたみたいな浮気性じゃないしねー」
「やっぱ彼氏できたんじゃーん!おめでとー!」
「だから違うってばー」
そういえばあれから、友達と飲みに行ってない。理由は明白。ペットもとい同居人の面倒を見なければならないからだ。それこそ食費とか光熱費とかは飲み会だの遊び事に使わなければ気にかける程の出費ではないし、バイトは週5くらいで入ってる。自慢じゃないけど、高校生くらいからコツコツ貯めてたお金はそれなりに残っている。それにエンヴィーが来てから、毎日が少し、楽しい。
「弟ができたみたいだ」
…………

「かおる、おかえり」
うちに帰ると、エンヴィーが玄関先で尻尾を振って迎えてくれる。猫というより、犬みたいだ。
「ただいま」
午前2時。こんな遅い時間でも、私が帰る時には必ず起きていてくれる。居酒屋でこき使われた分、エンヴィーの"おかえり"の癒しパワーは計り知れない。
「ちゃんとご飯食べた?」
「食べたよ!お湯入れて、3分待って、食べた!」
「お風呂入った?」
「入った!」
「歯磨きした?」
「あ……まだしてない」
「よーし、じゃ、今日のまかない、食べていいよ!」
「まかない?」
「今日の余り物のからあげ、いっぱい持って帰ってきたんだ!」
手に持った白いビニール袋をエンヴィーの前で広げる。
「うわああ、おいしそう!」
「おいしいよ!だって私が揚げたんだものー!」
レンジでからあげを温めている間、エンヴィーはお皿とコップを用意してくれていた。机の側にちょこんと座って、からあげが温まるのを待っている。
「おまたせー」
大きめのからあげをエンヴィーの皿に乗せると、目をキラキラさせて尻尾を振った。
からあげを掴んでもくもくと食べている姿を見て、ふと、気づいたことがある。
「髪、邪魔じゃない?」
長い黒髪が顔にかかって、見ていて食べ辛そうだ。男の子だし、切ってあげようか…とも考えたが、折角の綺麗な長髪を散髪してしまうのは勿体無い。美容室に連れて行く訳にもいかないし。…そうだ。
「ヘアバンドつける?」

黒いスリムなヘアバンドをつけてあげると、髪は先程よりもすっきりした。本人も気に入ってるみたいだ。エンヴィーには黒い色が似合う。端正な顔立ち、白い肌に、大きな黒い瞳と、黒髪。それに黒い毛並みの耳と尻尾。
人間だったら、きっとモテモテだったかもしれないな、なんて。
「かおるは、からあげ食べないの?」
「私はいいよ、気にしないで食べて」
夜中に食べたら、太っちゃうから…


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