黒猫 | ナノ


▼ 共同生活

鬱陶しいスマホのバイブ音で目が覚めた。布団に顔を埋めたまま、手探りでスマホを探し、布団の中へ引き寄せる。時刻は午前11時。酒飲んだ次の日にしては早起き。そういえば昨日は変な夢見たなあ。浦島太郎みたく、虐められていた猫を助けて…………それから、……あー駄目だ、眠いわ。今日はバイトも無いし、二度寝しよ……。
スマホのアラームを午後1時にセットして、再び布団に顔を埋める。冷える足先を縮こめて、左側にごろんと転がると、大きな黒い瞳と目があった。
「……おはよう、かおる」
「んーー、おは……おやすみ…」
「………」
「………」
「うぇええ!?」
「うわぁ!?」
びっくりして飛び起きると、大きな目をしたそれはびくっとして瞳をぱちくりとさせた。
「…夢じゃ、なかった……」

スクランブルエッグの乗った皿を机に置くと、エンヴィーは待ってましたとばかりに瞳を輝かせた。表情は変わらないが、尻尾をパタパタと振っていて、彼の心境が言われずとも伝わってくる。一挙一動が子供っぽくて、可愛らしい。…そういえば。
「エンヴィーって何歳なの?」
「え……知らない」
口の周りにケチャップをつけてスクランブルエッグを頬張っている。猫というよりーーハムスターっぽい。
「あっつ!!」
「あぁ、ホットミルクできたてだから熱いでしょ…フーフーして飲みなね」
マグカップを両手で囲って、フーフーと息をかけている。あぁ、息子を持つって、こんな気分なのかな…なんて。
「ねぇ、これからどうするの?」
「んー……」
耳をしならせ、尻尾を丸めた。考えているのか、それとも…
「わからない」
暫くうちに置いといてもいいかな…とも考えたけど、捨て猫を拾ってきたのとはワケが違う。家出少年を一人匿うようなものだ。それも訳ありの。しかし外に放したとして、また乞食のような生活をさせるのもかわいそうだ。それに、もしこの姿を見られたら…あの時より、もっと酷い扱いを受けるかもしれない。実験動物として生涯研究室生活…サーカスに売り飛ばされて見せ物に……なんてこともあり得る。少し考えすぎか?
「どうしよう……」
大きな黒目をうるうるとさせて私をじっと見つめている。そんな目で見ないでよ。私、こう見えて情に脆いんだから…
「暫く、うちにいなよ」
「でも……」
「他に行くとこないんでしょ?狭いけど、もう一人くらい住めるスペースはあるからさ」
「いいの……?」
耳をピンと立て、尻尾をパタパタさせている。喜んでいるみたいだ。
「拾ってきた猫は、責任持って育てなきゃね」

…とは言ったものの。1Kの小さな部屋に二人暮らしはキツい、かも。私が学校に行ってる間の電気とか、食費とか、洗濯とか…。バイトがある日は帰宅が夜遅くになるし…。
「かおる、これ何ー?」
「あぁ、これはPSP。ゲームだよ」
「ふぅん?」
ま、なるようになるか。


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