文字盤の上


 カチ、カチ、と一定の速度で、針は進む。今日は先ほどから何度、はっとしてこの時計を振り返っただろう。時間がどれくらい経っただろうと、振り返る間隔は段々短くなってくる。今だって、そうだ。よく考えれば前に見たときから、十五分しか過ぎていない。
「……はあ」
 知らず、溜息が漏れた。中途半端な掃除や片づけは手につかず、諦めてテーブルに座り込む。まったく、ここまでだとは自分でも思っていなかった。きつく瞬きをすれば、脳裏に囁くのは他でもない、今の状況を作り出したあの人で。
 ロマンチストで自信家で、細かくも折れない神経をした面倒な人。何の間違いか私の恋人だが、そんなところにまで惚れたわけじゃない。そう思っていたのに。
 ――今晩七時に、迎えに行くから。ちゃんと支度して待ってろよ。
 それでも私は私が思っていたより、あの人が好きなようだ。たった一言の約束で、文字盤の上の針にでもなったように、一分一秒を気にして心臓が忙しなく動いてしまう。
 約束の時間までは、まだ三十分以上ある。これから七時まで、はたしてどう過ごしたらいいだろう。何も手にできずに待ち惚けなどしてしまったら、気づかなかった恋の深さを覗くようで、面と向かって会える気がしなくなってしまう。ああそれもまた、あの人を上機嫌にさせそうで悔しい。


(リオとアレン)



[ 35/44 ][*prev] [next#]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -