迷夢


 取り留めのないこの感情を、風に吹かせてどこへ流そう。否、それは俺の意思で動かせるものではないかもしれない。試しに呟いて、この声がどこへ消えていくか確かめれば、いっそ少しは笑えるだろうか。君が好きみたいだよ、と。
「君は、落ち葉みたいな子だな」
「何ですか、それは」
「風に吹かれたみたいに入り込んできて、いつまでもあったり、そうかと思うといなくなっていたりする。何にも抵抗しないように見えて、何にも縛られていなくて」
「……詩人ですね」
「下手なりに、ね」
 いきなり何を言うかと思えば、本当に何を言っているんですか。照れ隠しにも、答えをはぐらかすことにも。或いは話を逸らすことにも見える笑いで、彼女は俺の言葉を宙に落とした。そしてそのまま、煙たがる素振りもなく、再び手元の原稿用紙に目線を落とす。
 いつの間に引っ張り出したのか、それは確か俺が昨夜、半ば転寝をしながら綴った記事という名の日記だった気がするのだが。取り上げる気にならないのは、大したことを書いてはいないからというだけの理由ではあるまい。
 黙々と、ただ静かに。何を話すわけでもなく、原稿用紙を捲っている彼女の横顔から俄かに目を背け、苦笑する。確信のない恋というのは、深みに嵌ると簡単にいかないものだ。縛りつけた覚えのない落ち葉が、妙に懐いて傍にある。まともに考えればもしかしてと思うはずなのに、先に惚れた自覚があると、自惚れが怖くて思考が鈍る。
「リオちゃん? そろそろ、それ読むのやめない? おっちゃんにも一応、羞恥心ってものがね」
「だめ?」
「……駄目じゃないから。そんなに気になるなら、食事でもしながら話そう」
 字面を追いかけていた視線が、ようやくこちらを向く。藍色の双眸の奥、かすかに揺らいで見える熱が、想われているのではないかという錯覚を強くさせた。ああ、それが錯覚なのかどうか。果てしなく繰り返す薄曇りに似たこの迷夢を、そろそろ晴らしあえたら楽になれるのに。


(センゴクとリオ)



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