熱伝導式


 どれほど二人、笑い合っても、愛らしい約束を交わしても。熱を上げているのは彼だけで、本質的な私には何の変化もない。ただ少し思い通りになって、見た目が悪くなく、それなりに退屈しないから。椅子やテーブルと同じ、貴方は恋人という名のインテリア。私の生活を彩るための、道具に過ぎない。そのはずだったのに。
「ごめんね、ミシェル」
「な、に」
「――可愛いなって思って、つい」
 キスをされた。それだけのことに動揺している、そのことに動揺した。子供ではないのだ、まことの恋でなくとも恋を模った関係ならキスくらいする。その程度が、何だというだろう。傍に置いておくことで勝手に尽くしてくれる対価に比べれば、こんなものの一つや二つ、いくらでも与えられる。それなのに。
「……いで」
「え?」
「触らないで」
 拒絶したのは、悲しかったからではない。今更嫌気が差したわけでも、申し訳なくなったわけでもない。ただ偏に、私は怖くなった。熱に浮かされた彼の唇が私の唇を通して、無垢な愛を与えようとするとき、私の中に生まれかけた熱があった。私を見る彼の眼差しに似た何かが、あの瞬間、確かにあった。それが怖くなっただけだ。


(ミシェルとハルト)



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