濃淡は続く


 白から始まり、薄紅色へ。もう少し先へ行くと紅色、そして赤、紫へ。大きな生地を一枚染めたようなその花畑は、南東からの風に揺られて、ざあっと波打った。淡い香りを基調として集められているのが、偶然かそうでないのかは分からないが。尖った主張のない香りは混じり合い、一つになって、村を吹き抜ける風を仄かに色づけていく。
「……見事だね。他の町でも、ここまでの花畑はなかなかない」
 知らず、感嘆の言葉が漏れた。本当、と嬉しそうにはにかんだ隣の少女へ視線を移し、本当だよと頷き返す。一人で扱うには広大な土地に、絨毯を敷き詰めたように撒かれた花の種は、この数日間で一斉に蕾を開かせた。たまにはこういうのもいいかと思って、と村の広告塔を兼ねて思い切った行動に出た彼女の、誠実な世話と手入れの成果だろう。
 もっとも、彼女がこんな計画をしていたことは、村長でさえ聞いていなかったらしいが。野菜と違って勝手が分からないから、成功する自信がなかったんだもの、と嬉しそうに笑っていた彼女を思い出す。妙なところで大人しくて、秘密主義だ。内緒の話でも教えてくれたら、生育状態を見てアドバイスをするくらい、手伝うこともできたのに。
「あ、そうだカミルくん、こっちも来て!」
「え?」
「青系の花は奥に植えてあるの。カミルくんに貰った竜胆の種も、今朝咲いたんだよ」
 とはいえ、それをしなくても充分に育てきった辺り、この花畑は彼女の実力そのものだと証明されたわけだけれど。次があったら、もう少し頼りにされてみたいものだと内心に思って、そんな自分に苦笑した。
「今、行くよ」
 濃淡は続いていく。白から始まり、徐々に色を濃く、鮮やかにしていく花畑の中心で、彼女が呼んでいる。一歩踏み入れれば、淡くも甘い香りに飲み込まれた。ああ今日は、本当に穏やかな天気だ。


(カミルとサト)



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