定点より君へ告ぐ


 出会いの頃、僕の点は確かに小さなものだった。彼女の置いた点に比べてひどく冷ややかであったし、堅苦しく、丸みのない黒曜石のような点であった。しかし僕のそれは、徐々に線になり、緩やかに捻れ、輪を描く。そういうものだった。深く知り合うにつれて、僕の点は形を変え、こっちこっちと引力を放つ彼女の存在を受け入れようとした。線は、結ばれることを望んだ。だが、彼女はどうだったろう。
「ギル、聞いて聞いて。今日ね――」
 デスクの向こう側でどこからか椅子を引っ張ってきて、跳ねるように座った彼女を見つめる。他愛のない話に相槌をひとつ打つだけで華やぐ声も、判を押す手元ばかり見ている僕に向けられているのであろう笑顔も。雨の日も晴れの日も、変わることがない。出会ったときから、彼女はそうして僕に接していた。そして、今も。
「……アカリ、前から聞きたかったことがあるのだが」
「何?」
「君は、僕ばかりが変わったことをどう思っているのだ?」
「え?」
 一言では分からないと聞き返すような返答に、走らせていたペンを置いた。
 彼女は変わらない。変わらず、朗らかに転がる点のままでここにある。線を伸ばす僕に触れることもなく、遠ざかることもなく。出会ったときからずっと、彼女は彼女のままだ。そんな歪みのないところを好きになったのだと言えばそれまでだが、特別になりたいと、たった一度でも思ってしまえば。
「――アカリ、僕は」
 定点へ、手を伸ばす。見開かれる硝子玉のような眸。初めて触れた頬のひやりとした温さに、保たれてきた距離が崩れた気がした。
 嗚呼、声を張れ。定点から、眼前の彼女へ届くように。


(ギルとアカリ)



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