―――喪失に怯える必要は、なくなったのだと知ったとき。


 失って初めて気づいたんだ、というために隠してきた日々だったと思う。君がいなくなったと聞いたとき、この胸に広がったのは静かな悲しみと、一滴の安堵。薄情ですねと、笑うだろうか。でも、きっとあまり怒らない。穏やかでぼんやりとしていたけれど、不思議に聡いところもあった君だから。少ない言葉の端々に滲み出ていた俺の本当の気持ちなど、俺よりも分かっていたのではないだろうかと近頃はよく思う。
「―――ヒカリ、星が、綺麗だよ」
 長い、あまりに長い時間を経て吐き出した言葉の意味を、知るのはきっと俺と君だけだ。もっとも君はもう、この声が届くような場所にはいないのだろうが。白い吐息が煙のように、澄んだ夜を散らして消える。群青に満ちる大気を吸えば、冬の底に眠る春を見つけられた気がした。
 失って初めて気づいたんだ、というために隠してきた日々だったと思う。決して足並みを揃えられないと知りながら認めるには、あまりに眩い想いだった。君の生涯に、祝福を祈った。絶えず染み出そうとする、たった一つの言葉に代えて。
 ヒカリ、君がいなくなってからどれくらい経っただろうか。もう何年、何十年と昔に数えることは止めてしまったが。それでも、遠くの星が燃えている夜は、君が生まれる気がしてしまう。ただいまと微笑んで、帰ってくる気がしてしまうのだ。今でも。


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