―――必要なのは愛ではなく、秘密だったと気づいたとき。


 その恋を隠そうと決めたのは、もうずいぶんと見え透いてからのことだった。元より思慕の情ごときを恥じらうような青さでもない。それは彼も同じだったから、私達の間には惹かれ合う互いの距離さえ可視のものとして存在していて、いつかこの手は触れ合うだろう。そう確信していた。何年後か、何十年後か分からないが、いずれ。それさえ見えているならば、焦る必要は何もない。一方的な想いでもないとなれば、尚更目に映ることを恐れる必要もない。
 隠し持つつもりは別段なかった。だが、隠し持つことには意味があると気づいたのだ。私達は永い時間を生きる。それこそ愛にも飽きるような、永い時間を。
 退屈は、私と彼を殺す。人間でもないが神や精霊でもない私達には、あるときは人と同じに、娯楽が必要だ。愛は手に入れてしまえば血液のようなものだが、恋は嗜好品になる。そして恋は、報われれば愛に変わってしまう。だが、結末さえ手に入れなければ。
 永く永く、貴方を愛そう。一方通行に、青く、切なく。告げなければ、恋は続いていく。いつまで経っても、この身を焦がす熱になる。言いたい、言えない、言わない。それも秘密にしてしまおう。その暗黙は、私の人生を焦がす砂糖になる。
 そう気づいた瞬間を境に、私は恋を隠し持った。彼もまた、そんな私の思惑に気づいて乗ることを選んだのか、私との関係は変わらないが、以前と違ってその距離を読ませなくなった。意地悪ね、と唇を尖らせる。その胸の奥が、歓喜に震える。
 ああ、やっと、片恋を手にした。もう一生、誰の目にも触れさせない。


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