―――お別れを告げるための声ならば、いっそ壊れてしまえ、と願ったとき。


 何日、何回、何度の朝、そして夜。貴方へ向けるための言葉を探して、感情を彷徨わせたことか分からない。さようなら、お元気で。要はそれだけの話だったのに、大きな何かが足りない気がしてどうしても言い出せなかった。今までありがとう、どうか幸せで。貴方に、女神様の加護がありますように?どれも心からの祈りに違いないのに、この透明な感情を欠落だと感じてしまうのはなぜだろう。
「マルク、さん」
「あれ、アリエラさん?こんにちは」
その違和感が正常なのか異常なのか、それは人としての自然であるのか私としての排除すべき感情であるのか。愛を歌ってきたくせに分からないのはそれがあまりに、漠然としない強い情だからか。ああ、ごめんなさい。
「……春が、来る前に。この島を発ちます」
「え……?」
「でも、私……私は」
 真綿のような祈りの奥から、欠けていたものが突き出てくる。どんな言葉を代用したって足りるはずがなかったのだ。
「貴方に、引き留められたい……っ」
初めから、別れを伝える言葉を覆す手を望んでいたのだから。
 硝子を割ったように涙を零す両目を塞いで、驚いたように見開かれる翡翠の眸から目を隠した。何も見えない沈黙の中で、引き寄せてくれた腕は、一人しかいない。


[ 16/19 ][*prev] [next#]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -