Hello


 「おいでよ。僕が案内するから」
 自分が暗がりに追い込まれたと思ったことは、一度もなかった。人の立ち入らない鬱蒼とした森は慣れてしまえば静かなもので、お祭り騒ぎを好かない性分も相まってこれでも結構、気に入っているつもりだったのだ。音のない昼夜、鳥の鳴き声、星も見えないほどに茂る緑の天井。そこを時々すり抜けて落ちる、化石のような太陽の光も。全部全部この手で選び取ったものだったと思うことに変わりはなくて。
「何?」
「……別に。ただちょっと、眩しいなって思っただけよ」
それなのに、真っ青な空を見た瞬間繋いだ手の力を強くしてしまったのは、ただ少し明るすぎる世界に目が眩んだだけだ。棲み慣れた森を背にして立ったまま、そう、と微笑った彼を見つめて太陽から目を逸らす。どっちつかずの朽葉色の眼差しに、何だかとても深い場所で癒えるものがあった。それが憎らしい。

タケルと魔女



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