Yield


 秋がきたから遊びに来いと、どこまでも唐突かつ抽象的な彼女の誘いに僕が乗る気になったのは、偏に仕事までの時間がちょうどよく空いていたから。その程度の理由で、言ってみればせっかくだし散歩がてらたまにはだとか、そんな気まぐれの結果だったのだ。もっとも近頃の僕は彼女に対して気まぐればかり起こしているようにも思うけれど、そんなことは今となってはどうだっていい。秋がきたから。なんて抽象的なと呆れていたが、これは確かに。
「ふふ、どうですか?」
「……秋、だね」
「でしょう」
見渡す限り黄金色の彼女の牧場を一望できる切り株に二人並んで腰掛け、近くの木で育ったという林檎を貰って齧りながら、僕はそんな抽象的な感想を漏らした。しかし彼女はその反応がお気に召したらしく、くすくすと笑って小麦の束に頬を寄せている。溢れ返る豊穣の秋というものを、初めて目の当たりにした気がした。ああ確かに、この世界は眩しくって、優しい。

チハヤとヒカリ



[ 25/26 ][*prev] [next#]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -