Xylography


 形あるものはいつかなくなって、どんなに優れたものだって永遠に残すことはできない。けれども僕は永遠でなくていい、ただ、できるだけ長く残したいものがこの世に一つだけあった。野心は比較的薄いほうだった。身を焼くような熱も、狂気も持ち合わせてはいなかった。優れた芸術家は気の触れたような生涯を送ることも少なくないと聞くから、きっと僕はそういった、世界で何人に入るような天才ではないのだ。だから僕の作品は、後世に語り継がれるような栄えあるものにはなりえないだろうし、僕はそれでいい。けれどそんな僕に、唯一の願望を抱かせたのが彼女だ。野望というにはあまりに淡く、切望に限りなく近い夢。
「何、描いてるの?」
「あ、動かないで」
「え?」
「貴女を描いてるんですから」
この町に、どうか、少しでも長く。僕の手で彼女の名前を残したい。僕らの愛した町を、まっさらに近い状態から想像の限りを尽くして創造してくれた人。芸術の女神が微笑むというのなら僕の指でなく、僕がいつか描くであろう絵の中の彼女に、その愛を注いで。

アギと女主



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