「…、困ったねぇ。」
目に見えて怯えるまだまだ小さくて可愛い後輩たちを背に隠しぽつりと呟く。
のんびりとした口調だがその表情は僅かに焦燥が浮かんでおり、言葉に反し自身たちに危機が及んでいるのがわかる。
「勝ち目がないのはわかってんだろ?」
親玉らしき人物の発した言葉に、自身の後ろに居る後輩たちは小さく不安気に声を上げ、どうしようもない不甲斐なさに悔しくなった。
自身の直属の後輩である伊助に、ピクニックに行きませんか?と誘われたのはつい2日前の事。
その日は期限が迫っていた本を読もうと思っていたのだけれど、きらきらと期待に満ち溢れた瞳を向けられて断れる奴は居るのだろうか?否、居ない。もし居るのなら今すぐ私の前に連れて来て欲しい。有りっ丈の力を込めて殴ってやる。
話を戻そう。
可愛い後輩の伊助から誘われたピクニックには二つ返事で快諾し、ピクニック当日は朝早く、寧ろ明け方から起きてお弁当を作った。
伊助好みの甘くふんわりとした卵焼きにさくりと揚げた唐揚げ、じっくりと特性の垂れを染み込ませて焼いた肉団子に栄養素が偏らないように赤く熟れたトマトや新鮮なレタス等の野菜も入れて水筒や敷物を持ち裏裏山まで来て、伊助の友達の乱太郎、きり丸、しんべヱと五人で仲良く談笑しながら遊んだりご飯を食べたりして楽しい一時を過ごした。
空に朱が差し始めた頃、そろそろ学園に戻ろうかと疲れて眠ってしまったしんべヱをおぶり帰路についていた処、運悪く山賊に出会してしまったのである。
生憎実技はてんで駄目な私は一人で山賊を倒せる訳が無いし、仙蔵から貰った焙烙火矢も何故かしんべヱの鼻水で使い物にはならない。伊作の不運が移ったのでは、と疑いたくなる。
「っ!?」
錆びて使い物にならないであろう短刀が回転しながらザクッと木に刺さる。その際左肩を掠り皮膚が切れどろりとした血液が布に染みを作った。錆びている分綺麗な切れ口ではなく不規則な切れ口で、其れが余計に痛む。
見れば山賊は懐から短刀を取りだし次は外さんとばかりに嫌な笑みを浮かべる。
「…、私だけでは許してくれないかい?顔立ちは綺麗な方だと自負しているし、隠間茶屋にでも売ればこんな子供たちの私物よりも高値だ。何なら収入を君たちに渡してやっても構わない。」
別に隠間茶屋に売られようが何をされようが、この子たちを逃がせるならどうでもいい。
学園長に文を出して助けて貰うと謂う手もあるし何よりこれしかこの子たちを逃がす方法は無い。
ごくりと静かに唾を飲み込み相手を見ると山賊たちは何やらこそこそと話し合って、お頭らしき人物は納得したように頷き私に手を差し出して来た。
「さぁ来い。」
「その前に、この子たちを逃がしておくれ。」
「わかってる。ガキ、早くいっちまえ。」
嫌だ嫌だと言う伊助たちを諭し背中を押してやるときり丸が伊助やしんべヱに言い聞かせ私に背を向けた。
時折振り返っては泣きそうな表情をする伊助は、多分自分がピクニックに誘わなければこんなことにはならなかったのではないかと責任を感じているのだろう。
「早くしろ。」
「…急かさないでおくれよ。」
げらげらと笑う山賊にバレないように小さく溜め息を吐けば、もう一度伊助たちの方向を見てゆっくりと振り返る。
汚れた服に歯垢の目立つ歯やボサボサの髪や下品な言葉遣いはどうにも受け入れられず眉間に皺が寄るが、直ぐに柔らかい表情に変える。
きっとこの人たちだってちゃんとした職に就けたら幸せだろうに。なんと世知辛い世の中なのだろうか。
「……、」
山賊の側に寄れば縄で自由を奪われにやにやと意地の悪い笑みを浮かべながら言葉を掛けられた。
「あんなガキのために売られるなんて可哀想だなァ。」
可哀想なのはお前たちだよ、と返そうと口を開き酸素を肺に送った瞬間、山賊の頭に小石が四つ投げられた。
「…─!?」
振り返れば伊助や乱太郎、しんべヱにきり丸がきっと目付きを鋭くさせ山賊を睨んでいた。
「なまえ先輩を離せ!」
「お前たちなんかがなまえ先輩に触っちゃダメなんだからな!」
「そうだそうだ!」
「おれたちがなまえ先輩を守るんだ!」
伊助、乱太郎、しんべヱ、きり丸と続いた言葉に目頭が熱くなる。
「こんのクソガキがァ!」
「っ、やめ…っ!!」
伊助たちに斬りかかる山賊たちに向かって叫んだ言葉は思った以上に悲痛な声色で、ぽたりと目頭から涙が零れ落ちた。
「…っ!!」
こんなに小さな後輩も守れないだなんて、私は六年生失格だ。 忍たまの価値すらない。
「子供には優しくするのが基本だろ!」
刹那、山賊たちの周りに幾つもの苦無が降り注いだ。
困惑する山賊たちと伊助たちの姿を現したのは私の同輩でしんべヱの直属の先輩でもある用具委員会委員長の食満留三郎だった。
只でさえ鋭い目付きの三白眼を更に鋭くさせ山賊たちを睨むその姿は多分後輩たちには恐怖対象だ。
得意の鉄双節棍をカチャリと鳴らし山賊たちを伸す体勢に入った留三郎に伊助たちが頑張れと声を上げる。
「……すご…。」
あっという間だった。
親玉の頭を節棍で殴り気絶させ手下を怯えさせて、逃げ出した山賊に向かって苦無を投げ付ければピンポイントで首筋を掠め動きを止め、其れに怯えた残りの山賊たちは留三郎に向かって土下座して、留三郎が一発ずつ殴り山賊たちは逃げて行く。
なんてシュールな光景だろうか。
「なまえ先輩!」
呆然とその光景を見ていれば、伊助たちが目に涙を溜めて私の側に走り寄る。
「…っ!伊助、乱太郎、しんべヱ、きり丸!」
唯一動かせる足で四人に近づこうと足を動かすが、両手を縛られている故にバランスが上手く取れず崩れ落ちそうになる。
「…っ、」
「っと、大丈夫か?」
「…とめ、三郎…。」
ぎゅっと目を瞑り衝撃に備えていれば私に触れたのは暖かい熱で、顔を上げれば少し汗を掻いた留三郎が柔らかい表情で私を抱き抱えて居た。
こんなに近い距離に留三郎が居ると謂うのは初めてで、何故か胸がどきどきと高鳴る。
「ああ、大丈夫だよ。ありがとう。」
なんとかそう返せば留三郎は私を立て直し苦無で縄を切れば頬を伝う汗を拭いながら伊助たちに声を掛けた。
「大丈夫か?お前たち。」
留三郎の問いに元気良く返した四人は私と留三郎の足元に集まりぎゅう、と腰辺りを抱き締める。
「先輩、ありがとうございました!」
「お怪我はありませんか?」
「お腹空いてませんか?」
「山賊から何か奪えましたか?」
「っきり丸!!」
「なっ、冗談だよ!」
「今は先輩を心配しているんだからね!」
「そうだよ!」
「きり丸ったら…!」
何時もの調子の四人に口元を緩めながらも抱き返せば、四人は嬉しそうに抱き返してくれる。
ああ、またこの温もりに触れられるなんて私は幸せ者だ。
「よし、帰るぞ!早くしないと日が暮れてしまう。」
「…そうだね。さぁ、みんな帰ろうか。」
「「「「はぁーい!」」」」
これまた元気良く返事をする四人の頭を撫で留三郎へ視線を向けると、四人を愛しげに見る留三郎の頬には土が付いていており、その姿が先程の姿とは違いすぎて何だか可愛らしい。
「留三郎、此方を向いておくれ。」
「ん?」
留三郎の側に寄り、懐から出した手拭いで留三郎の頬に着いた土を拭ってやれば留三郎は薄く頬を赤らめ何処か恥ずかしそうに謝辞を口にした。
「サンキュ。」
「私こそ、助けてくれてありがとう。」
自然と交わる視線に、気恥ずかしくなりお互い笑えばしんべヱがぽつりと言葉を溢した。
「なまえ先輩と食満先輩って、何だか夫婦みたい。」
「ふう、ふ?」
「はい、なまえ先輩がママで、食満先輩がパパみたいです。」
ふにゃりと笑うしんべヱの言葉に伊助、乱太郎、きり丸の三人が同意するものだから、気恥ずかしさを通り越して可笑しくなった。
「夫婦か、留三郎となら悪くないかもね。」
「なまえ!?」
「ほら、四人とも仲良く帰ろうじゃないか。」
私が伊助で、留三郎が乱太郎と手を繋ぎ、四人を挟むように手を繋ぎながら茜色に染まる山道を下るなか、こっそりとは組用の矢羽音を使えば留三郎の頬は夕日の色とは別に赤くなっていて、留三郎が妻でも悪くはないと考えてしまった。
オトメンヒーロー!
(留三郎、さっきの君凄くかっこよかったよ。)
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お久しぶりです!
この度は企画に御参加頂きありがとうございました!
ノロマな上にリクエストにお応え出来てない気がして…、本当に申し訳ありません!
個人的に、イケマンはどうしてもオトマン(笑)になってしまいます(笑)
何故でしょうか、節介頂いたリクエストを台無しにするような私の思考回路。一回死滅すればいいと思います。
これからも謳歌共々よろしくお願いいたします!
返品書き直しは勿論可能ですので、遠慮無く仰ってくださいね!
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