「いーさく!」
「なまえ!」

ふわふわとした髪を見つけて、後ろから抱き着けば伊作はぱっと顔を明るくさせ、ふわりと笑う。
この笑顔はそんじょそこらの女より可愛らしい気がする。気がするだけ。伊作にはフィルターが掛かってるからそう見えるだけかもしれない。まぁ、恋人は何しても可愛いけどな!

「なぁ、伊作。今日は恋文の日なんだって。」
「恋文の日?」
「ああ。5月23日。つまり、こ、い、ふ、み、だ。」

一旦伊作から離れ近くにあった木の枝で地面にガリガリも文字を書くと、伊作は納得したように数回頷き再び笑顔を浮かべた。

「なんか素敵な日だね。」
「だろう?で、だ。」

指をぴっと立てにい、と口許に笑みを敷けば伊作は首を傾げ、瞳を輝かせた。
そんな姿は俺の胸に早鐘を打たせる要因で、案の定さっきまで落ち着いていた心臓はどくりどくりと脈を打った。ああ、なんで伊作ってこんな可愛らしいんだろうか。伊作の可愛らしさは罪だ。犯罪だ。

「俺と伊作で恋文を交換しよう。」
「いいね!」
「だろ?」

二人できゃっきゃっと騒ぎながら俺の部屋まで歩を進めれば、途中ギンギン野郎と会った。相変わらず暑苦しいギンギン野郎にイラッときたが今は伊作と一緒に居るためぐっと我慢してその場は遣り過ごした。
彼処で鍛練に付き合えとか言われていたら俺はギンギン野郎をぶん殴っていた。確実に。
部屋に伊作を招き入れ伊作用の座布団を出す。以前伊作と御揃いで買ったものだ。

「やっぱり一人部屋っていいな。」
「そうだね。でも、寂しくない?」
「伊作が来てくれるし平気だよ。」

五年になる時、同室だった奴が退学して一人部屋になった俺は人数の都合上今も一人部屋だ。
最初はぼっち感が半端なかったし悲しかったけど、今では一人部屋を感謝している。
こうやって伊作を気兼ね無く部屋に呼べるし、伊作が泊まりに来てくれるし、まぁ色々出来るし、同室だった奴には悪いが、退学してくれてありがとう。まぁ別に同室だった奴は怪我で退学したとかじゃなくて、実家を継がなきゃいけないから退学したんだがな。所謂行儀見習いだったんだ。

「さてと、早速恋文を書こうじゃないか。」
「そうだね。」

お互いに背を向け机と向かい合う。
机や箪笥は二人分の備え付けだから部屋は広く、使い勝手が良い。今更ながらかなり良い部屋だと染々思った。

文を書く間お互いに無言が続く。部屋には筆を動かす音と伊作と俺の息遣いだけが響く。何とも落ち着く空間だ。
暫くして筆を置き紙を包めば、伊作も終わったようなのでお互いに向かい合いにっこりと笑う。

「なんか、改めて恋文を書くと緊張するな。」
「だな。伊作の恋文が楽しみだよ。」

くすくすと笑いながら恋文を交換すると、伊作は小さく含羞みながら言葉を紡いだ。

「笑っちゃダメだからね。」
「、勿論。」





君を想う
目の前の存在が、堪らなく愛しい


 


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