「せ、先輩!」

きゅっと赤い唇を結び、白い肌を赤く染め上げる姿は大変愛らしく、食満は胸がどくりと脈打つのが判った。
用具委員会直属の後輩であるなまえは用具委員会唯一の四年生で有り、他の四年生のように人格が斜め上にかっとんでいる訳でも無いのだが、雪国出身で有るがために立花とはまた違った白い肌に黒い艶やかな髪は印象に残り、アイドル学年の名に恥じない容姿なのである。
基本的になまえはあまり口数が多い方ではないがにこにこと笑う姿や優しい様に、後輩から苦手意識を持たれる訳でもなく、大抵の後輩からは優しい先輩だと好かれている。(三年生が苦手意識を持つのは仕方がないのである。)

「…あ、あの、コレ…!」

ぐっと腰を折り差し出された物は、【食満先輩へ】と綺麗な文字で書かれた一通の文。なまえは震える手を必死に押さえ、食満へ文を渡した。
食満も其処まで鈍感ではない。
なまえの様子や雰囲気からこの文が一体なんなのかと謂うことは理解出来る。

なまえが自身に懐いているのは十分に理解していた。
直属の先輩と謂うことで話しやすかったと謂うことも有るのだろうが、其れとは別になまえは食満を贔屓目にしていたし、食満を見る瞳は周りと違っていた。

「…ありがとな。」
「い、いえ!」

にっと笑い頭を撫でてやれば、なまえは更に顔を赤くさせ首を振る。こんなに初な反応をする後輩も滅多に居らず、食満は口許をだらしなく緩ませた。

「誰にも、見せちゃいけませんよ?」

ゆるりと首を傾げるなまえを見ていた食満は色々と我慢の限界であった。
抱き締めたい。この小さな後輩を力の限り抱き締めてやりたい。
食満はぷるぷると小さく震えた。

「あ、あの、食満先輩?」

不安気に瞳を揺らすなまえを視界に捉えた瞬間、食満の中の一部理性は崩れ落ちた。

「あ、え、あう、」

ぎゅうぎゅうと抱き締める度に口を鯉のようにパクパクとさせ、顔を蛸のように真っ赤にさせるなまえの姿に、食満は堪らなくなった。

「(ああ、可愛いなぁ。)」

抱き締めたなまえの心臓はどくどくと早鐘を打っており、更に口許が緩んだ。

「先輩、お返事、お待ちしております。」

ぐい、と離された身体に名残惜しさを感じつつも、なまえから告げられた言葉にこくりと頷く。
なまえは小さく含羞みながら食満に一礼して足早にその場を去った。
食満の手には、先程なまえから受け取った恋文が少し縒れながらも大切そうに握られていた。


この後恋文を読み文の可愛らしさに悶え伊作から冷たい視線を向けられたのは余談である。






幸せは直ぐそこ
君の手を取り駆け出すの


 


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