「大変だ!陽介と三郎次がが中庭で四年生と喧嘩してる!」

 突然開かれた教室の戸からは、陽介と同じろ組の生徒が焦ったように声を上げた。
 告げたられた言葉に耳を疑うが、先輩にも物怖じしない三郎次に温厚そうに見えて四年があまり好きではない陽介。四年特有のアイドル云々や自重を知らない性格等を考えれば喧嘩をしたって可笑しくはない。

「左近、行くぞ。」
「あぁ。」

 読んでいた本をぱたりと閉じ机の端に置く。
 きゅっと唇を結び難しそうな表情の久作の後に続き中庭に向かえば既に小さな人だかりが出来ていて、人だかりの中心からは四年生の怒鳴り声と三郎次と陽介の反発する声が聞こえた。

「取り消せよ!」
「あぁ!?」
「生意気だぞ!」

 人の間を縫って前に出れば、三郎次は四年生に向かって声を張り上げ、陽介は唇を噛みながら悔しそうに四年生を睨んでいた。
 三郎次と陽介は装束を含めぼろぼろで、四年生もぼろぼろとまではいかないが争った形跡がわかるくらいには汚れている。
 二人の頬には殴られた後がくっきりと残っており三郎次は口の端に着いた血を装束で拭うと四年生に飛び掛かる。

「やめ…っ!」

 誰かが三郎次を止めようと声を上げるが言い終わる前に三郎次は四年生から殴られ地面と熱い対面を果たした。
 ジャリッなんて可愛い効果音ではなく、ドカッとやけにリアルで痛々しい効果音が鼓膜を刺激する。
 ひゅう、と息を呑む声が何処かから聞こえ下級生は緊張感と恐怖に支配された。
 それもそうだろう。
 まだ体も十分で出来上がっていない未熟過ぎる二年生を上級生と部類され実力も付いてきた四年生が手加減無しで殴ったのだ。怖がって当たり前だ。

「ごほ…っ!」
「っ、陽介!」

 四年生は今にも殺してしまいそうな表情で三郎次を殴ったかと思えば地面に伏せた三郎次を小馬鹿にしたように鼻で笑い陽介を蹴り飛ばす。
 隣に居た久作は堪らず声を上げ腹を押さえて呻く陽介と三郎次に近付き四年生を睨み、怒鳴った。

「ふざけないでください!ぼくたちはまだ二年生です!四年生が本気で蹴り飛ばしたりしたら、どうなるかお分かりでしょう!?」
「生意気言ってんじゃねぇよ!」
「そうだそうだ!最初に喧嘩売ってきたのは二年だぞ?売られた喧嘩を買って何が悪い。」

 小綺麗な顔を意地悪歪ませそう言った四年生に沸点の低い久作はキレ殴り掛かろうとする。
 久作は馬鹿なのだろうか。久作が殴り掛かれば久作が負けるのは目に見えている筈だ。三郎次や陽介に続き久作まで怪我をしたらシロが泣くなんてレベルじゃ済まない。きっと泣きすぎて過呼吸を起こしてしまう。

「待て久作!先ずは二人の手当てが先だ!」

 久作に大きな声で制止を呼び掛ければ久作は意思の強そうな眉をこれでもかと云うまで寄せて悔しそうに唇を噛む。

「久作!」
「、わかった!」

 取り敢えず三郎次は血を流しているから止血をしなければいけないし、陽介は多分腹部の骨を折っている。
 近くの生徒に善法寺先輩を連れて来て貰うよう頼み三人の元に駆け寄れば四年生が苦々しい表情でぐちぐちと何か言っていたがそんなのに構っている暇は無いためフル無視(シカト)だ。

「大丈夫か二人とも。取り敢えず三郎次は久作に保健室まで連れて行って貰え。保健室には数馬先輩が居るから。陽介はぼくと一緒にここで善法寺先輩を待つんだ。多分骨をヤってるから下手に動かすと骨が内臓に刺さる恐れがある。」
「…っ、わか、った、」
「乗れ三郎次。」
「なるべく急いで。」
「ああ!」

 三郎次の止血のために破いた頭巾の残りで陽介の傷を止血したりしていれば、陽介は更に苦しげに息を吐く。
 額にはぶわりと汗が浮かんでいて相当苦しいのだと思う。

「頑張れ陽介、あと少しだ。」
「…んっ、」

 無理して笑う陽介に胸がぎゅうっと苦しくなった。
 ぼくがもっと有能だったら陽介の手当てを出来たのに、ぼくがもっと強かったら四年生をボコしてやったのに、ぼくがもっと頑張っていれば陽介をこんなに苦しめることはなかったのに…!

「左近!」
「っ伊作先輩!」

 覚えてろよ四年生。
 ぼくの大切な親友を怪我させてただで済むと思うなよ。
 怒っているのは久作だけじゃなくて、ぼくも一緒なんだからな。








ごめんね
なみだはにあわないよ


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