「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!三郎次と陽介のおおばかぁ!」
「わ、悪い。」
「ごめんね?」

 ぼたぼたと丸く大きな瞳から止めどなく涙を溢れさせる四郎兵衛の鼻や目は真っ赤で、顔から出るものを全部出しているその様は何だか可愛らしくて、陽介は四郎兵衛にバレないように小さく笑っていた。
 先日の四年生との喧嘩にて肋に何本か皹を入れてしまった陽介と額が切れてしまった三郎次。陽介は全治1ヶ月で三郎次は一週間絶対安静。幸い完治すれば今後の生活等には全く支障は出ないそうだが、自主練も出来ず授業に出るのも控えた方がよいと言われた陽介と三郎次は今後のことについて考えていた。
 1ヶ月も怠惰に過ごしていれば筋肉は落ちるし、元のように戻すには倍の時間が掛かる。せめて軽い筋トレでも出来ないかと三郎次に相談していたところに、学園長からのおつかいを終えた四郎兵衛がやって来て、冒頭に至る。

「なんで、なんで喧嘩なんかしちゃうの!?馬鹿なの?死ぬの?四年生に敵わないなんてわかるじゃん!」
「…あの、えっと。」
「言い訳はいいよ!ばかろうじ!」
「あ、はい。」

 存外口の悪い四郎兵衛に三郎次は肩を縮こませ只官頭を下げる。
 そんな二人を陽介は布団に入り上半身だけ立て、四郎兵衛の新しい一面が見れたと場違いなことを考えながら何も言わず見ていた。

「…シロ、三郎次の目が死んでるよ。」
「陽介は黙って!それに陽介も陽介だよ、なんで三郎次を止めなかったの?陽介は学級委員長でしょ?三郎次の御守りでしょ?」
「え、ちょ、どういうことだよシロ。」
「ごめんね、ぼくもちょっと我慢出来なかったんだ。」
「…っ、心配したんだからね!」
「心配かけてごめんなさい。それと、ありがとね。」
「次こんな事したら食堂のおばちゃんにピーマン中心の定食にして貰って鉢屋先輩にはるちゃんの秘密教えるからね。」
「うん、鉢屋先輩の件は真面目に嫌だから絶対しないよ。」

 にっこりと笑う陽介につられてか、四郎兵衛は真っ赤になった瞳で緩い半弧を描き鼻をずびずびと啜りながら陽介に笑いかけた。

「…本当に大丈夫?」
「うん、大丈夫。」
「一人で寂しくない?」
「保健委員が居るし、左近がなるべく一緒に居てくれるらしいから大丈夫。」
「…委員会とかがある日は来れないけど、それ以外は毎日来るから。」
「無理しないでね?」
「うん。それに、はるちゃんのためなら無理してでも来るよ。」
「もう、シロのお馬鹿さん。」
「はるちゃんもお馬鹿さん。」

 にこにこにこにこにこにこ。
 すっかり二人の世界を作り出した陽介と四郎兵衛に蚊帳の外状態の三郎次はぼんやりとした目で二人を見つつ、大きな溜め息を吐いた。
 先程まで自分に暴言擬きなことを吐いていた四郎兵衛はもう跡形もなく消え去り、変わりにふわふわとマイナスイオンを撒き散らす普段の四郎兵衛が居た。




「…おれのこと忘れてないか?」





笑ってればいいんだよ
笑う門には福来るってね!


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