つまらないつまらないつまらない。


明日はテストだから、勉強会を開こうと昼食の時に三郎先輩から伝えられて、張り切っていたのに先輩たちが構うのは一年二人ばっかりで、一年二人もぼくじゃなくて三郎先輩と勘ちゃん先輩ばっかりに勉強を教わって。
一年が可愛いのは二人を見ていて判るし、二年のぼくより五年の優秀な二人に聞いた方が解り易いのだってちゃんと理解している。しかし、つまらないものはつまらない。幾ら一年と二年の仲があまり宜しくないからってこんなの酷い。
三郎先輩はにやにやと気持ち悪い笑みを浮かべて庄左ヱ門の頭を撫でているし、勘ちゃん先輩も楽しそうに彦四郎を褒めている。
庄左ヱ門は嬉しそうに笑って、彦四郎も照れながら嬉しそうに笑う。
なんだよ、ぼくだけ仲間外しなんて酷いじゃないか。
ちょっと前までは三郎先輩も勘ちゃん先輩もうんとぼくを可愛がってくれたのに、一年が入った途端僕をほっぽって一年を構い始めてさ、浮気だ浮気。久作の所の不破先輩は一年が入っても久作を可愛がってくれているし、三郎次ん所の久々知先輩だって三郎次を信頼しているし、左近の所の善法寺先輩だって左近を頼りにしているし、シロん所の七松先輩なんて一年が入って一層可愛がってくれている。(シロのバヤイ生死に関係するかもしれないが。)
しかも三郎次たちから聞く話に依ると一年も其れなりに三郎次たち二年を頼っていると聞く。
庄左ヱ門や彦四郎が優秀で頼りになるのは判っている。庄左ヱ門がしっかりしないときっと土井先生の胃に穴が開くだろうし、彦四郎はい組だから其れなり優秀だし。
でも、でも、でも、少しくらい頼ってくれてもいいと思うんだ。
ぼくも一年の頃は同じ委員会の二年を頼りにしていたし、少しだけだが甘えたりしていた。庄左ヱ門も彦四郎も頼りにしないし甘えても来ない。全部五年の二人にいっちゃう。

「はるちゃん、解らない所はあるか?」
「…ありません。」

何時もより幾分機嫌の良さそうな三郎先輩が僕の手元を覗き込みながら問い掛けるが、僕にしては珍しく無愛想に答える。
顔を反らし三郎先輩の顔を見ないで手元の課題を埋めていく。
元よりぼくの頭は悪く無いし、寧ろ座学だけならい組寄りだ。今回は特に苦手な科目だってないし先輩方に聞かないでもこんな問題解る。ちょっとだけ応用に躓くだけでちゃんと出来るもん。

「…陽介?」

勘ちゃん先輩が何処か困惑したように呟くが知らん振り。一年にでも構ってろよばーか。今更僕に構わないでよ、集中力が途切れちゃうじゃないか。

「休憩にしましせんか?。」
「あ、あぁ、そうだな。」
「お茶請けは陽介の好きなお団子にしよう。」
「陽介先輩、休憩しましょう?」
「四人でお先にどうぞ。」

手元から視線を離さずピシャリと言えば彦四郎がうっと息を呑んだのが判った。ダメだよ彦四郎、こんな事で感情を揺さぶられたら。だから一年い組は実践に弱いんだよ。…感情云々はぼくが言えたことじゃないけど。

「皆さんがお茶をするなら僕は邪魔ですよね。今日は帰らせていただきます。」

筆と硯と課題を纏めて腰を上げると、先輩や一年が吃驚したように此方を見た。何なんだ一体。お茶をしたいなら早くすればいいじゃないか。

「…陽介、先輩?」
「なに?」

何処か不安そうな庄左ヱ門に少しきつく返すと庄左ヱ門は眉を少しだけきゅっと下げて悲しそうに瞳を揺らした。

「(う…っ、)」

彦四郎に続き、滅多に不安そうな表情を見せない庄左ヱ門までこんな表情をしたら、流石に罪悪感がふつふつと湧いてくる。
ぼくだって初めての後輩の庄左ヱ門と彦四郎は嫌いじゃないし、寧ろ一年にしては好意的な方だ。
ちゃんと挨拶はしてくれるし、庄左ヱ門は三郎次の揶揄を軽く往なせる貴重な一年生だし、彦四郎は立派な委員長になろうと日々努力する姿が凄く可愛いし、二人とも可愛い後輩なのには変わりない。

「庄左ヱ門、彦四郎、お茶を淹れて来てくれないか?」
「、わかりました。行こう、彦四郎。」
「は、はい!」

部屋から去っていく二人を見送ると、三郎先輩がぼくの目線に合わせるように屈んで声を掛けていた。

「どうしたんだ?陽介らしくない。」
「……なんでもありません。」

ぷい、と顔を反らして答えると三郎先輩は困ったように笑うのが雰囲気でわかった。

「…何か嫌なことでもあったのか?」
「団子食べるか?」
「おい勘衛右門。」
「え?」

二人の会話に先程までの苛立ちが再び膨らみ始めて、きっと二人を睨みながら少しだけ声を荒らげて言葉を返す。

「みんな、みんなぼくを仲間外しにするからいけないんじゃあありませんか!一年ばっかり構って、二人とも今回のテストは二年が一番難易度高いのだって、わ、わかってるくせに、意地悪、したのは…、先輩方じゃないですかぁ…!」

すらすらと出ていた言葉は徐々につっかえていき、最終的には涙に咽びながら、つっかえ気味になった。
ぽたぽたと目からは涙が止めどなく溢れて、折角纏めた筆や硯等が地面に落ちて床に黒い染みが出来た。

「…陽介、ごめんな。」

手で涙を拭っていれば三郎先輩が申し訳無さそうに眉を下げながらぎゅっと抱き締めて来た。

「せ、先輩のあほ、まぬけ、おたんこなす…っ!」

びいびいと情けなく涙を流すぼくと優しく抱き締める三郎先輩と見守ってくれる勘ちゃん先輩。
それと、障子の向こうに影を潜めて心配そうに此方を見つめる庄左ヱ門と彦四郎。
なんだ、嫉妬してたぼくがばかみたいじゃないか。




たまには泣きます
嫉妬だってしちゃいます


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