どうしようもないまでに好いていた。私の持つ全ての感情を捧げてやるくらいに、愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して恋して恋して恋して恋して恋して恋して恋して恋して愛して愛して愛して愛して愛して愛して恋して恋して愛して焦がれていた。

ウェーブのかかった髪やあまり変わることない表情や、土が付着した頬、ぱっちりとした愛らしい瞳、意外と筋肉質な腕や、嫉妬深いところとか、全部全部愛しかった。
歪んだ愛だと云うのは理解していたけれど、どうしようもなく愛しいので仕方ないのだと思い、もう彼なしでは生きていけないくらいに依存していたのだ。
お互いに家を継ぐ予定はないし、両親もニコニコ笑って付き合うことを許可してくれたしこれからもずっと一緒に居られると確信していた。
私は忍者になる予定もないし、彼とひっそり静かに暮らしたかった。彼もそれを肯定した。

だから、何故彼女に惹かれてしまったのか本当に意味がわからなかった。

ふわふわとした髪も愛らしい顔立ちも白い肌も、総じて彼の方が魅力的だったのに、何故彼女が欲しいと思ってしまったのだろうか。
好きか嫌いかで問われれば好きだったと胸を張って言えるが、恋慕とは全く違う感情だった。
今は、ただ申し訳ない気持ちで一杯だ。










ザクリ、ザクリ
昼下がりの長屋に響く土を掘る音に、時折聞こえる息を整える声。
午前の授業が終わって直ぐに始まった作業はもうこの数年ですっかり見慣れてしまい誰もツッコむ者は居ない。たまにい組の平滝夜叉丸やろ組の田村三木ヱ門が程々にしろよ、と注意をするくらいで、他は特に咎めることもせず、またかよ、とけらけら笑い呆れながらも通り過ぎる。

「なまえ。」

不図聞こえた声にぱちりと意識を戻し返事をすればぱっちりとした大きな瞳をぱちぱちと瞬かせて自身を見ている喜八郎にふにゃりと笑いかけた。

「、喜八郎、頬に土がついてるよ。」

なんとか手が届く範囲だったため、自身の懐から手拭いを出し喜八郎の頬を拭おうと身を乗りだし手を伸ばすと、喜八郎は私の腕をぐい、と引きタコ壺に引き込んだ。
けほけほ、と舞い上がった土に噎せ数回咳をすれば喜八郎は無表情ながらも何処か嬉しそうな雰囲気でお決まりの「だぁいせぇいこぉ。」と云う台詞を紡いだ。

「喜八郎ったら…、いきなり引っ張ったら危ないでしょ?」
「でもなまえは嬉しそうな顔してる。」
「そりゃあ大好きな喜八郎の側に居られるんだから嬉しくない筈ないでしょう?」
「ならいいじゃないか。」
「…全く。」

くすくすと笑いながらそう言葉を紡げば、喜八郎は口許に薄く笑みを敷き普段の無表情とは違う少しだけ柔らかい表情になる。私は喜八郎のこの少しだけ柔らかい表情が大好きで、基本的に私以外には見せないこの表情をこれからもずっと私が一番近くで見ていたいと願っている。
勿論、喜八郎が私から離れて違う人の側に寄り添うと言うならば私は喜八郎に嫌われたくないので身を引くが、きっと私は喜八郎無しでは生きていけないので自害するのである。喜八郎が好きで好きで仕方ないのである。

「ねえなまえ、今日の晩御飯は何かな?」
「今日は組が兵庫水軍に行ったらしいから、魚介類なのは確実だよね。」
「今の時期は、鯖?」
「そうだね。最近PTAからお味噌を貰ったらしいし、もしかしたら鯖の味噌煮かも。」
「なまえは鯖の味噌煮好きだもんね。」
「うん。喜八郎は好き?」
「なまえの好きなものは全部好きだよ。」
「じゃあ授業も好きなんだね。」
「……授業は、あまり面白くない。タコ壺を掘る方が楽しいよ。」
「授業は嫌いなの?」
「……なまえの意地悪。」

ぶう、と頬を膨らませ拗ねたように視線を下げる喜八郎の頬をふにふにと触る。存外柔らかい頬は触り心地が良くて、このままずっと触っていたいとさえ思う。

「…ねえ喜八郎、体を綺麗にしてからテスト勉強をしない?」
「勉強しなくても解る。」
「私は解らない。」
「…解る。」
「解らないってば。」

そんな下らない言い合いをしていても表情は柔らかいし雰囲気も普段通り。ただちょっとした暇潰しみたいな会話なのだ。
それでも喜八郎の綺麗な声を聞けるのは嬉しいし、触れている箇所から伝わる熱も心地良い。

「…なまえ、今日はご飯までターコちゃんの中に居ようよ。」
「ターコちゃんの中に?」
「うん。眺めもいいし、今日みたいな小春日和にはお昼寝だってしやすいよ。」
「小春日和はあと一月、二月先だよ喜八郎。」
「……知ってる。」
「…まあ、お昼寝もいいかもね。」

ぎゅうぎゅうと強く抱き締め合いお互いの体温を分け合い心臓の音を確認する。どくりどくりと少しだけ早い鼓動と、耳元で聞こえる喜八郎の息遣い。雀の鳴き声、下級生の燥ぐ声。ああ、何時も通り私の世界は廻っているみたいだ。
喜八郎が居て、愉快な同輩が居て、可愛くて生意気な後輩が居て、優しく逞しい先輩と教員が居て、全てが大切で、愛しい存在。勿論喜八郎が一等に愛しくて恋しいが、全てが上手く合わさって、私の世界は完成する。

「…喜八郎、一等愛してるよ。」「当たり前だよ。僕以外に愛したりなんかしたらターコちゃんに埋めてしまうから。」
「ふふ、私が喜八郎以外を愛せるわけないじゃないか。」
「それもそうだね。」


今日も私の世界は平和だ。





ぼくの体の愛と呼ばれるところ



何日か続いた実習から学園に戻り、久しぶりにおばちゃんの手料理を食べていると、前の席に座り私と同じ鯖の味噌煮を食べていた同輩である三木ヱ門がポツリと呟いた。

「…天女?」
「ああ、なんでも先日学園に来たらしく、タカ丸さんがふにゃふにゃとだらしない顔をしながら言っていた。」
「へえ。」
「滝夜叉丸が先輩を放って天女サマに美しい美しい言いながらピッタリらしいぞ?」
「ええ、あの滝夜叉丸が?」

うげえ、と顔を歪めてしまったのは仕方がないことだと思う。
自惚れならば学園一の滝夜叉丸が自身よりも他人を美しいと言い、更には私と喜八郎もうんざりする程でろでろに愛していた先輩を放って、天女サマだなんて非現実的な生き物に引っ付くなんて、想像が出来ないし出来ればしたくない。

「…なんだか、気持ちが悪いね。」
「だろう?もしタカ丸さんの話が本当なら滝夜叉丸には絶対会いたくないな。」
「三木ヱ門は普段から滝夜叉丸には会いたくないでしょう?」
「ははは、確かにそうだ。」

けらけらと軽く笑いながらも箸を進めていれば廊下から聞き慣れた先輩方の声に紛れて、甘い砂糖菓子のような声が聞こえてきた。
聞き慣れない声と気配に警戒しながらも、信頼する先輩方の声が聞こえるので、恐らくあの甘い声が天女サマなのだろう。

「…三木ヱ門。」
「わかっている。」

目配せをし、素知らぬ振りをして食事を続ければ、入り口から入ってきたのは亜麻色のふわふわとした髪を揺らし、細く綺麗な手で恥ずかしそうに顔を隠しながらもその指の間から覗く顔のパーツはどれも凄く整っていて、何時か見た南蛮の人形のようだと思った。

「…あ、」

パチリと合わさった私の彼女の視線。どくりどくりと心臓が煩く音をたてる。なんだよ、意味がわからない。
いきなり顔が熱くなって、箸を握る指先がかたかたと震えて、心臓が壊れそうなくらい早鐘を打つ。
ああ、どうしよう。
会って間もない、不審者かもしれない彼女がどうしてか堪らなく愛しい。

喜八郎、喜八郎、助けておくれよ。




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