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「実験?」
「ああ、嫌いなヤツと一日中一緒に過ごすのはどんな気分かと思ってね。
僕がキライなのは仗助だけだ、初対面の人間も疎ましいが嫌いという感情とはまた異なる。だからコイツに協力を煽ったのさ」
「珍しく頼み事なんて言うから来てみりゃあよぉ〜…今からコイツの家で飯食わされるんスよォ?!」
その前に面と向かって嫌いなヤツって言われてんだぞ。何なんだそのスルースキル。
俺も露伴の手料理は食いたくない。オニグモのスープとか見えるものならまだしも、その意味ワカラン探求心で変なもの入れられそう。
巻き込まれる前にこの場を去るに限る!!
いやでも承太郎がいれば100万人力くらいはあるか。頼りになるゥ〜ン!くねくね
「オメーなに作んの?」
「昨日届いた鴨肉を振る舞ってやるよ。期待していい」
「鴨ォ?…ってウメェのか?」
「余程じゃねえ限り美味いだろうな。」
昆虫のソースとか掛けなけりゃな、美味いだろうな。
クッソー鴨肉なんて生まれてこのかた数回しか食ってないぞ!!なかなか羨ましいじゃないか仗助ッ!
助け船なんて死んでも出さないけど!!ざまぁ!
「スゲェ行きたくねえぜー…いくらウマイ料理でもコイツと食ったんじゃ台無しじゃねーかよォ。」
「それは僕も同意見だな。ならば空気を緩和する要員も必要かも知れない。」
こっち見んな。
二人の獲物を見るような目に気付いた承太郎が俺に顔を向けてきた。
ふるると小さく首を横に降って断ってくれと訴える。…その間の仗助の目線がイタイ。
「悪いがそういう訳だ。」
「なぁ頼むって!俺達もうダチだろ〜?!」
『そんな空気の食卓死んでもぶち込まれたくない。鴨肉羨ましいな、オメデトウ』
「僕はどちらでも構わない。行くぞ仗助。」
「待てテメー、話がある。」
さっさと諦めた露伴の肩に腕を回して俺達に背を向ける二人。
見たかあの腕が回った瞬間の心底嫌そうな顔。
何もそこまで嫌わなくていいだろうに…ケツの穴小さい男よのう露伴。
にしてもコイツ等(主に仗助)…企む事はただ一つ、道連れを作る事だけだ。
想定出来るのは、露伴がヘブンズドアーを使って俺が誘いを断れないように書き込むこと。そこまでするかとも思うが、一応警戒しとこう。
「だが断る。」
「…ッ!声がデケェんだよオメーはよッ」
「いちいち頭を叩くな!!お前みたいに馬鹿になったらどうするんだッ」
「誰が馬鹿だドラァ!」
お前等だよ。
茶番を最後まで見届ける気にもなれず、行きましょうと小声で承太郎に告げる。
どうやら彼も飽きがきていたようで二つ返事に頷いてくれた。
「あーッ待って待って!待ってください承太郎さん!」
「往生際が悪いぜ仗助。」
「そっちはもう諦めました食いますよ…それより話があるんス。ここじゃあ、ちょっと」
ちら、と目線を向けられたのは俺で。
えええなになになに俺の話ってこと?!何か不審な態度取りましたか身に覚えがまるでないッ!
困惑する内心を押し隠して俺はきょとんとトボケ顔で承太郎を見る。
すると少し待っててくれ、と頭を撫でてから二人で細い路地に入って行ってしまった。
先刻から、なぜ撫でる。
こう見えて俺175あるんだぜ。195のダイナマイトボディからじゃ幼女みたいなモンかもしれないけどさ。
「キミ、どうして空条承太郎なんかと一緒にいるんだよ?」
『…訳アリで。』
「ふーん…答えたくないってか?別にいいけどな、キミの身体に直接訊くから。」
『…ッ!』
「‥‥何だよ、この手は。」
『き、綺麗な手だなーと思って。指長いデスネ!』
「離してくれ、他人に触れられるのは嫌いなんだ。」
『爪もお綺麗デスネ!』
「二度も同じ事を言わせるな。
ああキミ、手汗かいてきてるだろ!気持ち悪いな、早く離せよ。」
『ぬうううう…ッ!!』
お前に気持ち悪いなんて言われたくねええええよ!!!
ああ気絶する前に今あったことをメモしなきゃハスハスとか言って鼻血その他ブーブーしながら笑ってたヤツが、たかが!たかが手汗で気持ち悪いだとッ?!
これはいくらケツの穴のデッケェ(小さいの逆だからあってるよね)俺でも怒っちゃうぞ!!
『…顔近いです。』
人が逆ギレ起こそうとした矢先に何なんですかお前は。
近い近い。人が見てるぞ。
そんな事したってな手は離さないんだからなッ!多分本気出したらこんな抵抗クソ喰らえだと思うけど!離さないんだからな!!
「キミは僕の能力を知っているな。」
‥‥ほ、ほうなるほど。これが言葉責めというやつか。
あっ違うか!てへぺろっ★
『能力?…足速そうな顔してますよね。』
「そしてキミには知られたくない秘密がある。だから僕の手を離さない…そうだろ?」
『頭がファンタジーですね。何言ってんのか解りません』
背後から聞こえた仗助の声で投げ捨てるように露伴の手を離した。
それでも彼の口許は楽しそうに微笑みを讃えている。
なるほどうっおとしいじゃねーの…!!
素知らぬ顔でサヨウナラと告げて、俺はそそくさと承太郎の隣へ戻る。
とても落ち着きます。さすが承太郎、安心感が違うなぁ…
『…俺の、話です?』
「ああ。」
『後で聞かせてください。だいたい答えますよ、得意料理とか好きな女の子のタイプとか…実年齢とか。』
「…いくつだ。」
『ふふ、せっかちですね…耳貸してください。』
「‥‥‥。」
気になるのね承太郎、素直に耳なんて傾けちゃってカワイイ!きゅんッ><
でもお前デカイから首傾けるだけじゃ俺が背伸びしても届かねえんだよ!!
解んないでやってんだよね?!わざとだったら俺もう泣きながらズッダン踊るよ!!
爪先立ちでピンと背筋を伸ばしても僅かに耳まで届かない俺を見かねて、承太郎が少し屈んでくれた。
最初からそうし…いえ髪がスゴくいい匂いです。
『クンカクンカ…』
「嗅ぐな。」
『いい匂いするんです。』
「…言う気はねえのか?」
『そうでした。』
そっと彼の耳と俺の唇の間に手を添える。
わざと吐息をかけてみたけど動じなかった。それでアンッ…とか言われたらこの場が凍りつくわな。俺が極刑に処される。
『実は、』
あ、仗助と露伴がどっかいった。
俺達のイチャイチャオーラに怖じ気づいたな。
『二十歳なんです…』
「‥‥‥。」
『…無反応ですか。』
「昼は鴨肉が良さそうだな。」
『ホントにごめんなさい反省してます無理アレは無理苦しい苦しい空条さん大好き勇ましいたくましいムキムキ』
だってだってやんちゃしたい年頃なんだよォ!
恩を仇で返すようだけど仲良くなりたくて打ち解けたくてやってるんだよ!!
『あの…どちらに行くのでしょうか?』
急に歩き出した承太郎の後をおどおどついて歩く。
怒ってんのかな…?!
怖くて隣に並べない。般若みてえな顔してたら多分見ただけで失神する。
「飯に行く。食いたい物があるなら応えるぜ」
『!! 空条さんッ!』
「俺は食えねえ。」
『ハイ!お慕い申し上げております!!お腹空きましたね!へっへっへ』
「その笑い方はやめろ…」
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