O6
『も、もういいですッ!』
お昼になりました。
衣服を買い揃えた頃には俺の身なりはスッカリ小綺麗になったし、今着てる服以外にも一式コーディネートした上にロンTまで数枚買ってもらった。
(下着も忘れず買ったよ!)
のに、まだ買えと言うのだ!
一週間あるんだぞと。短いようで長いんだぞと。
「だが一週間を」
『着回し出来ますからホンット十分です!有難うござ…あ。空条さん、アレ』
何か他に行くところでもないかと目を遣った道路の向こう側には、今朝わざわざ俺に服を届けてから学校へ行くと足早に帰っていった彼の姿。
高校って定時制だよね。
不良だよ、アイツ。
あのアトムチックなリーゼントで不良じゃありませんとか言われても目からビーム出すけど。
「サボりだな。」
『ですね。何か脅かせないですかね、あの暢気な若者。』
「…年齢の件、根に持ってんのか?」
『…違います。』
そんなケツの穴ちっこい男じゃないんですよ俺はァ!!
悪気なんて欠片もない様子で俺をディスった承太郎に恨めしい目線を送ってから、もう一度道路の向こうへ目を遣る。
『空条さんの高い高いって、街中で披露してもいいものですか?』
「…何の話だ?」
『俺が来たときに、指へし折るでワレェ(竹○力張りに)って言いながら持ち上げたアレです。』
「…そんな風に言った記憶はねえが。」
『もっと怖かったです。』
「それも根に持ってたのか。」
『それもって何ですか!』
だから俺はそんなケツの穴ちっせryですよォォ!!
本日二回目のディスりを受けて声を荒げてしまった。危ない、これで仗助に俺たちの存在がバレたら全部おじゃんだぜ!
そしてハゲがアデラ○スのビルを横目で見るがごとく素早く彼を盗み見すると、
うわうわナニアレ…
仗助の足元をトイレットペーパーサイズはある蜂みたいな昆虫らしきものがすり抜けて行ったよォォ!!何この世界スタンド以外にそんな生き物までいんのかよォ!
『いま、スゲェでかい虫が甥っ子さんの足元にいましたよ。こんなの』
両手を目盛りにして虫の大きさを少し大袈裟に伝える。
俺も見たと言う承太郎に、あんなデカい昆虫が彷徨いてるのかとか、この街では普通なのかなんてブー垂れといた。あまりに彼が動じないので、本当にごく当たり前の風景なのかと少し怖くなった。
「‥‥‥。」
『あ、そういや空条さん高い高いの話。』
「…やらねえぞ。」
『デスヨネー…どっかに生卵とか落ちてないかなぁ…』
あるはずもない生卵を求めて足元に遣った目は、まさか俺の周りにもクソデカい昆虫はいないよなと直ぐ様目的を変更。
ふあー良かった…とりあえず俺の周りにはいないっぽい。虫はキライだ。
『あっちの通路は虫が繁殖してるとか、ないですよね。』
「さてな…1匹居たんなら、100匹は居てもおかしくねえぜ。」
『ゴキブリの法則ですか…その時は緊急なんで、高い高いお願いします。』
行きましょう!
そう言って承太郎の脇の下から手を通し、まるで恋人同士が歩くかのようにピタリとくっつく。
なんだこの手はと言わんばかりの目線を向けられたが、気付かないフリで前を見て颯爽と歩を進めた。
そう、これぞ物理攻撃がダメなら精神的ダメージを与えてやろう大作戦だ!!
ネーミング云々はこの際どうでもいいのだよ。
膝カックンしようも俺のタッパが足りないんだ!!それどころか多分コイツ等の人間離れした察知能力で返り討ちにされそうなんだッ!!
何も言わずに手を貸してくれてアリガトウ承太郎。
「あ、承太郎さん。ち〜ッ‥‥‥、」
ウッホwwwww
ち〜ッスとか古臭い挨拶の最中、仗助が明らかな動揺を見せてくれたので興奮で鼻から糸コンニャクが出そうだ。
ウ・ケ・ルゥ。
『空条さんの甥っ子クンだったよね、こんにちは。』
「アンタは何で腕組んでんスか?」
『はぐれたら困るんだもん。甥っ子クン、きょわい…(怖いをかわいこぶった結果)』
我ながらキメェ。
にしても俺の迫真のカマッ子演技にタジタジじゃないか仗助くゥ〜ン。
…実際には若干眉をひそめていらっしゃる。
まぁ気分良くはないよな女々しい男子。いくら温厚なヤツとは言え内心ナンダコイツくらいは思うだろ。
その精神的苦痛が俺の復讐!!(決してケツの穴の小さい行為などではない)
「ちっと離れましょうよ、承太郎さんが困るッスよ。」
『うん、ごめんね。』
「やめんのか?」
『やめます…』
ものの数秒で心が折れた。
だってコイツ全然ダメージ受けてないんだよ。
あんまり人を寄せ付けない承太郎が腕を組ませてる(しかも男に)なんて、さぞ衝撃的だと思ったのにッ!!
むしろ一回り年下の子にやんわり諭されて俺が精神ダメージを負ったよ。
「…何だったんスか?」
『追い打ちかけんなよ!!こんにちは苗字名前ですッ!』
「はァ…どうも。」
『いや名乗ってくれよ!何なのケチなの?!』
「脈絡ねースよ…」
「やり切れねえんだろうよ、酌んでやれ。」
「俺、何かしましたっけ。」
『イエ何モ?早くお名前聞きたいな〜スゴくイイ名前なんだろうなァ〜!』
早く名乗れよさっきから名前呼べなくていつポロリするかハラハラしてんだ!
もう復讐なんてどうでもいい…悔い改めたよ、フフ。
いつか絶対ギャフンギャフンと言わせてやるけどな見てろ若造が!サザエさんが!!
「あ〜ッ、朝のを根に持ってたんスね!」
『別にキミの方が大人びててるしキミの方がタッパもあるしキミの方がカッコいいし気にしてないけどね、全然。』
「その節はどうもすみませんス。え〜っと…東方仗助、ぶどうヶ丘高の一年です。」
何でお前はこの流れで若さアピールをすんの?年齢的な流れに持ってくの?バカなの死ぬの?
高一なんだ若いねー大人っぽいなーと営業張りの笑顔を貼り付けて握手を一回。
そうだ、これぞ大人の対応ってやつだよな俺!
『!! …空条さん。』
頭をぽんぽんと二回あやすように叩く、でっかい温もり。
哀れんでくれるのか承太郎…
「仗助、お前はここで何してたんだ?」
「あッ、そうなんすよ聞いてくださいよ!!昼休み入ってすぐに校門前に呼び出し喰らって」
「僕の実験に付き合わせていたんだよ。」
『‥‥‥。』
なんてヤツを引き連れてるんだ仗助。
俺たちの真横にあったスーパーから出てきたのは、ギザギザバンダナが素敵だねおデコがまるで運動場のよう!な岸辺露伴。
万が一にも彼にヘブンズドアーを使われれば、俺はここまでなんとも都合良くいっているこの平穏をぶち壊される。
コイツだけは近寄らんぞ。懐かんぞ。
.