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『逃げられたね。』





おれたちが詰め寄ると仗助はみるみるうちに顔を青くして、それこそ一目散という表現のままに逃げ帰っていった。

そんなに怖がるこたあないだろと思う反面、自分に置き換えると確かにめちゃくちゃ怖いよね。話の通じないサイコパスふたり相手にするの。(おれは決してサイコじゃないけれど仗助にはそう思われてることだろう)





「いいさ、また来るだろうよ。今日は泊まっていくんだろう?」

『あれ、いいの? おれ出直す気でいたよ。』

「ここまできてまた明日、というのも面倒だ。寝床を用意する必要もないし、構わないぜ。」




できれば直前まで考えたくない事案をぶちこんでくるのやめてくれないか。

またこいつとお手々を繋いでネンネかよ…
いやでも隣で寝るなら手繋ぐ必要なくない?足とか乗っけとけばよくない??





「風呂は?」
『んーん、シャワー浴びてからきた。』

「支度がいいな。なら僕もすぐに済ませよう、先にベッドで待っていてくれ。」
『ウンわかったけど言い回しマジで自重してね。ノンストップ鳥肌だから頼むね。』





寝室どっち?とスタンディングオベーションな鳥肌をさすりながら尋ねると、階段を上って右だと告げて、彼は浴室らしき方へ。

居心地はよかれど他人の家だし物色するほど岸辺露伴という男に執着もないので、おれは素直に部屋を後にして真っ直ぐ寝室へ。







寝室の扉をあけてすぐ目の前、見るからにふわふわの羽毛布団がもっふりと乗っかったベッドが現れる。そうしてお布団たんへの抵抗力がゼロのおれは誘われるようにダイブ。

埋まりすぎて息ができないほどに布団に沈み込む身体。
ありがとう露伴。おれはお前を待たずして眠りに就くよ。




『………? …………????

……ん…………??』




なんか、なんだ……?

なんだろうこの気持ち悪さ。いや、全身の力は抜けきって布団にもっふり埋まったこの状況。メッチャ心地好いしサイコーなのだけど…だけど、なにかがおれの行く手を阻害している…そうそんな感じだよ。



ベスポジを探して頭を動かしたり足を開いたりしてみれども、どうにもこうにもしっくりこない。
なにが悪いんだ隣に承太郎さんがいないからか?!知らず知らずに身体まであのひとナシでは居られなくなってたのかァ……ッ!







「ひとの枕に頭を擦り付けるの、やめてくれないか。」


『風呂はや。洗えよちゃんと。』
「シャワーで済ませたからな。感心しないぜ、他の男の布団にマーキングなんて。」
『キモくて目ェ覚めてきた終わりだ。』




つくづくキモいのエキスパートだよお前は。

出会って数日でこの会話の気楽さなんなんだよ。こいつがキモくて良かったとか思い始めちゃったよ。お前もしかしていいヤツかよ。認めたくないけどいいヤツだよ。




ガウン姿の露伴は戻ってくるなりベッドの右端に腰を下したので、ど真ん中に君臨していたおれはごろんと一回転して反対端に身を寄せた。

いつものギザギザハイセンスバンダナ(笑)がないせいで、じんわり湿った黒髪が彼の目線を遮るように垂れている。顔面が恵まれているだけに随分と艶っぽいその様が尚のことキモいので、おれは真顔で彼の肩に片足を乗っけた。





「…なんだこの足は。」
『おれの足、指ながくない?』


わきわきと足の指を動かしてみせると、振り下ろすでもなくじっと動きを見据える。

頬がくっつきかねないほど近距離に他人の足があるのに、おれの予想に反して随分と穏やかな反応だ。少し前は手を握っただけで心底嫌そうな顔をされたものなのに一体全体どうしたというのか。(好きこのんで握ったわけじゃないけど、あまりに拒否がストレートすぎて多少は傷付いたんだ。多少は。)




「言われてみればそうだな。」

『ギャ!』





指を動かすことをやめたところで、おもむろに彼がおれの(足の)指の間に(手の)指を滑り入れてくるなどして、足の裏とか弱点でしかない一般人類のおれは奇声とともに反射的に引っ込めた。

なにすんだテメーと怒鳴りたいところだが仕掛けたのはおれなので返す罵倒がない。
クソッ!!!安易に弱点を晒したおれの負けだよ!!





「色気のない声だ。」
『お前に出す色気がないだけです。』


「端から持ち合わせていないくせに、全く口だけはデカいやつめ。」

『わぁ、ケンカだぁ。』




売ってんだな?おれをプッツンさせたらワンセカンドベイビーだぞ?(英語力1年生)


いやでも色っぽい声出すねって言われた方が1000万倍攻撃的だから、こいつの言ってることはもっともだし、やっぱり不用意に弱点を晒したおれが悪いな。

おれは反省できる子なんだ。根がまっすぐだからさ。





『いっつもこんな早く寝んの?』



過去を颯爽と水に流して彼に問いかける。

ホントはそれよりも寝るとき毎回ガウン着てるの?ちゃんとパンツ履いてるよね?起きたらちんちん出てないよね?って訊きたいけど、コイツが毎回おれが自分に気があるんじゃないかみたいな発言をするから、餌食になりかねない発言は控えざるを得ない。




「まぁ比較的規則正しい生活ではあるが、小学生より早い時間に寝就きやしないさ。ただ、万が一にもキミの世界で過ごせるのなら、時間が惜しい。」

『億に一もないと思う。だっておれと承太郎さん運命だもん。』



「だとしても、キミには恩を返す義務があるんだぜ。その時は僕を真ん中に川の字で寝るんだな。」
『ハァ?承太郎さんの隣はおれ……いやそれ無理じゃない精神イカれない??』




いやもうイカれてるのか。
ごめんな。好奇心を満たすためなら何のそのだもんな。

確かに承太郎さんがキーマンだっていうなら他に手段がない。でもおれはいくら世話になったとは言え、承太郎さんの神聖なるベッドにキシベロ=ハンを連れて行くつもりは毛頭ないし、あのヒトのフレーバーを鼻いっぱいに吸い込んでしまおうものならコイツだって虜にしかねないマズい。





『そもそもお前、貸したものは返ってこないと思って貸す人間じゃんかー。』

「なんだよキミ、ほんと気持ち悪いな。」
『いま?!どこらへんが?!!』




恩義を返さないクズ野郎サイテーってこと?!

いや返すつもりだよつもりだけど現実的に考えて承太郎と露伴と川の字で眠れるわけないじゃんそもそもお願いできるわけないじゃん三人で寝たいですとか3Pが趣味のド変態ヤローだと思われたらどうするの生きていけないよ!!!!

もっとおれのスタンドで役に立てるような返し方させてくれよ。
異世界トリップはおれの能力でもなんでもないんだよ!(もしやスタプラの新しい能力なのでは?)




露伴に気持ち悪いなどといわれると無条件にハラワタの煮えくり返るおれが心中のた打ち回っている中、その彼はというと、なぜかジットリと訝しげに目を細めてこちらを見つめていた。





「そうか。キミの世界にも、僕が存在しているのか。」

『ひっ……』

「僕を知っているんだな?まるで旧知の友というような顔をする理由はそれだろ?」





漫画家という生き物は、ここまで夢と現実の境がないものなのか。
それとも、なまじスタンド能力なんかが存在しているおかげで、普通に生きてたんじゃまず有り得ないような選択肢まで浮かんでしまうものなのか。

原作を読破しているおれは、当然承太郎さんやコイツの性格は把握しているし、本人が知られたくないであろうことから、まだ身に起こってないであろうことまで分かってしまっている。(その事象がどこまで忠実にこの世界で起こるのかは分からないけれど)



マズいじゃん。

おれ絶対、承太郎さんにも同じような態度とってんじゃん…… 出会って間もないのにやたら理解ありすぎてホラーじゃんおれ…!





「顔が蒼いんじゃあないか友よ。言葉も出ないみたいだな、図星か?」

『おれが元の世界でお前と友達だったら、たぶんこの世界でも友達になろうとはしないと思うんだよね。』



そんなに顔に出ているのか、と口に出そうな疑問を飲み込んで、おれは承太郎さんすら欺いた得意のポーカーフェイスでなんてことなく言葉を返す。

それを見た露伴はこれまでのドヤ顔からスンと表情をなくして、無言のまま布団を被りはじめた。そしてピンと真っ直ぐな姿勢で仰向けに天井を見つめながら、ようやくおれに返事をする。



「存外、食えない男だ。」


少し不貞腐れたようにも見えるが、いったいどんな心境なのか。
おれも倣うように布団を掛けて、同じく天井を見上げる。





『冗談だよ。露伴さんがいてすごく助かってます。』

「………。」


なんでそこで黙るの? やめて恥ずかしくなってきた。

恐る恐る視線だけを横に向けるけれど、仰向けの体勢では横並びの彼の表情までは覗けそうになく。そのうちに、もそもそと背中を向けられてしまった。




『寝るぞ。』

「え、うん… おやすみ。」



ベッド横の小さなテーブルの上に置かれたリモコンで、露伴が部屋の電気を落とした。

おやすみ、と小さく返ってきた声が思いのほか優しかったのでどうやら怒ってはいないようだと安心して、二本きれいに揃えられた彼の足の上におれのそれを乗っけた。


「おい。」


低く唸る声を無視して、おれは先の違和感など思い出す間もなく眠りに就いたのであった。




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