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危機だ。




おれはこのまま情事まで及ぶ気はさらさらない。ただ、どうにかこうにか彼を踏みとどまらせたい…それだけだった。


『(そんなにチンコが限界なのか…?!)』


だがしかし切羽詰まった風でもない。
むしろやけに落ち着いた様で真っ直ぐおれを見つめている。いかにも腹は決まりましたといった風だ。





つまりどういうことだ……

このヒトは本気でおれに抱かれてもいいと思っているのか? 抱かれたいって雰囲気は1ミリだって覗かせてなかったのに、おれがそうしないとコトに及ばないと告げたくらいで腹って決まるのか??

そんなにおれとチョメりたいのか…それともおれのマーケティングが功を成したのか。









『(ーーー…ちがうな。)』




望まない役に徹してもいいと思うほど、おれにフォーリンラブ……なのかもしれないぞ。
(この危機的状況に耐えかねたおれのメンタルがプッツンいった訳ではない)





出会って間もない。
想いを伝えあって間もない。

どこか未だに信じきらずにいて。言葉や頭で理解が及んでいてもその片隅、ダメになったときの保険を掛けずにはいられなくて。

俺氏、などとぬかしており。







『承太郎さんッ!!!』



世紀のバカやろうだな俺氏。

立ち上がって高らかに彼の名前を呼びながら勢い任せに両肩を掴むと、見開かれた双眸の真ん中にあるが僅かに面積を拡げた。







『正直にお答えいただけると嬉しいんですけどッ…… 承太郎さんは、おれを、…だ、だ………だ……!』


「ああ、抱きてえ。」
『躊躇いがないッ!男らしいなァーーー!!』





態度では重々お伝えいただいていたが、こうして彼の口から抱きたいなどと告げられるのは初めてで、なんというか……



なんというか、なんだろう。

応えてあげたくなってしまったのだ。
このヒトに求められると、出来うる限り与えてあげたくなってしまうのだ。


だけれど、現実はそう簡単じゃない。

抱かれたいと思ったっておれの尻は濡れないし拡がらない。彼の気持ちに応えるためには、相応の準備が必要で。






『ふ、2日ください。』

「無理強いするつもりは、」
『いえ! …いえ、おれが受け入れたいんです。承太郎さんの気持ち、嬉しいから… だから、時間ください。』






数秒目線を交わし合って、承太郎がゆっくりと首を縦に振る。





よぉしこれで猶予ができた!

なんて手放しに喜んじゃあいられない。執行が確約されたのだ。むしろケツの穴が縮まる思いだ。(縮まってはならない開けケツの穴)
そうと決まればおれはネット回線のあるところでハウトゥーをggり学ばなければならない。今すぐ元の世界に戻りたい今すぐ。







『そういや承太郎さん、テレポーテーションが使えるんですか。』




あまりに勃起の姿勢を崩さないものだから忘れかけていたが、あの登場は明らかにテレポートのそれだった。どこからともなくシュン!って感じ。リープオン!って感じ。

矢に射られて新たな能力でも身に付けたのか。時を止める上に瞬間移動はさすがにチートが過ぎるぞ。





「世話になっている財団のスタンド使いだ。アメリカに出向く際はよく手を借りている。」

『便利ですね。』
「どうだかな…当人は移動できねえし、能力を使う度にマップを開いた電子機器をひとつぶち壊さなけりゃあならない。」




なんだその初期のハーミットパープルみたいな設定は…大丈夫だよきっと話数を重ねるにつれて工程が簡略化されるよ出来ることもどんどん増えるよめげないでね…!

しかしそうやってスタンドありきで雇用しているのかSPW財団…優しいな雇用の幅が広がるな…下手したら暗殺の手引きしててもおかしくない能力だし、お前ってやつぁサイコーだよSPW!!!いいヤツだなぁ!!







さてさて、疑問を解消できたところでおれもテレポーテーションをしなくちゃあならない。

なぜなら今日バイトだし!あんまり遅くなるとお母さんが起こしに来ちゃうかもしれないしね!
おれと承太郎はディスティニーアベック説が正しければ、この場で寝こけるだけでもれなく自宅へ帰還できるはずだ。






『あの、せっかく帰ってきてくれたのに申し訳ないというか何というか、名残惜しいというか、………さみし…んですけど…』

「…………。」

『うわ顔こわ顔がこわいゴメンなさい。』





トンボ帰りする必要なかったじゃねーかチクショーっていう怒りですか?!お出掛けになられる前に明日バイトだっておれ言ったよねだから夜にお話しましょうってェ!

おれが蛇に睨まれたカエルの如く立ち尽くしていると、彼は額に手を当ててわざとらしく大きな溜め息を吐いた。やれやれだぜといった風なその動きに、緊張感はより一層高まる。

いやだからね……おれ昨日ちゃんと…!ちゃんとねぇッ…













「可愛い…………」

『ハ……』






なにその推しが尊いみたいな……


思い出し尊いなのか? チンアナゴ満喫中の徐倫を反芻していたのか?おれとの会話の真っ最中に??

お前が親バカでほっこりな気持ち半分、ヒトの話聞けよって怒り半分だよ無駄にビビって謝っちゃったよッ!






『そーんなに可愛かったですか。』
「…2日は待つが、少し自重してくれると有難い。」


『ヤダおれぇ〜〜? ウソォ〜〜〜???』







えっ??



おれ???







『バッ…なに言っ…どこで覚えんですかァそーゆうのぉ!!!!も〜〜ッ!もぉぉおぉお!!!』

「こっちが訊きた」
『違う!バカップルみたいな掛け合いがしたいんじゃあないんですよ!!さては承太郎さん恋人をとことん甘やかすタイプでしょそうでしょ?!おれが承太郎さんナシで生きていけなくなったら責任取れるんですかッ!!!』


「無論だろう。」

『だから違うんですってぇえぇ!!こんな面映ゆい流れにしたい訳じゃないんですってえ……!うっうっ…………』





羞恥心で目頭がギュンギュンしている最中にも、おれの脳みそはまことしやかにドーパミンを分泌している訳で。

そりゃあそうだ。あの承太郎になんであれ可愛いなんて言われてしまったらハピネスホルモンくらい流れ出て当然だ。なんだよこのヒトおれのこと大好きじゃん自惚れていいヤツじゃん!!!




『おれ今日バイトなんでもう寝ますけど、寂しくても昏睡状態のおれにイタズラしちゃダメですよ。』




そうと分かれば即座に開き直る俺氏。こんなお戯れも口に出来てしまうのだ!

KUAAAA…ちゃんと両想いなんだぁ……なんて噛み締めてみると、くすぐったいけど、胸がじんわり温まっていく。

しあわせだ。すごく。







「……ああ。」

『なんですかいまの間!するならおれが起きてる時にしてくださいよ!!ていうか寂しいの否定しないんですか可愛いヒトだなもう!』





おれが感情の起伏そのままに地団駄を踏むと、その様を見ていた彼がふと柔らかく目を細めた。

なっ……んだよその顔ぉおぉぉ…!
もしかして承太郎も"しあわせ"ってヤツを感じてしまったのか。この心臓の血管が伸縮を繰り返すようなキュンキュンを共有しているのか。





だめだゾッコンラブにも程がある。

こんな調子じゃ3日と保たないぞおれ。それどころか初夜の前に生涯の累計心拍数を叩き出してお陀仏しそうだ。







『もっと…ぞんざいに扱ってもらえますか……』

「難儀な性癖だな…」





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