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『なんか飲む?』

「いや、いらねっス。話終わったら学校行かねーとなんで。」




登校中にいらしたのね?

学校帰りに来た方がゆっくりできたろうに、よほど切羽詰まったお願いごとなのだろうか。

ソファにヤンキーが横並びで座ってるのモヤシ代表のおれとしては心穏やかじゃいられないので、なるはやで用件を済ませてお引き取りいただきたい。






「単刀直入に言いますぜ。
コイツの親父の病気、治してやってほしいんス。発病するより前まで戻せませんか?」

『展開はや………』





そういえば虹村兄が殺される前に、治せるスタンド使いを捜すなら協力するって言ってたか。

何もなかった頃まで巻き戻せば治すことになるんだろうけど、親父さんが肉の芽を埋め込まれたのは10年は前の話だったはずだ。

この世界でそんなに戻せるのかおれ!



そしてなにより、






『(この世界の未来を、おれが捻じ曲げていいのか?)』





一見なんにも関係がないようだけど、億泰の人生は確実に別物になるわけだし、そうなれば仗助や周りにだって影響がでる。

でもいい方向に変わることもあるわけで、もしかしたら幸せ大団円になるかもしれないわけで。作中で描かれない先の話を心配したところで徒労でしかない。




結論!

手の届く範囲なら助けるべきだと思う!
ただし、その後については無論オール自己責任とし、おれは一切の責任を負わないこととする!





『けどおれ、出来るのかな。』

「いち個体なら年単位で戻すことはできますの。でも、10年ともなるとボクにも分かりませんの。」

『うう〜〜〜んそっか。日を分けてやる感じかなぁ…』




ぬるりといつの間にやら顕現しておれの頭にしがみ付いているブリスルは淡々と応答する。

能力の限界はやってみないことには分からんようだ。










「ぐ、グレート…!なんつーか…お、お似合いのスタンドっスよぉ〜……」
「ダハハハ!クマちゃん!ファンシィ〜〜ッ!!」




そしてこのヤンキーどもは、自分の置かれた立場というものが分からんようだ。





「脳みそだけランドセルを背負ってた頃まで戻してやりますの。」

『いや待てブリスル、むしろお前がなにもしないことこそ報復だ。
この話はなかったことにしようね。アア〜〜親父さん助けてあげたかったナァ〜〜〜ッ!』






おれがニッコリ満面の接客スマイルで高らかにそう告げると、対照的に笑みを失い顔を合わせる男子高校生。

露伴の反応が初々しく思えるほどに腹立たしいリアクションだったよ。おれ根に持つよ。






「きったねェーッ!大人げねースよアンタ!」

『おれのこと大人だと思ってくれてたのぉ〜ッ?10代だって疑って止まなかったのに。』





下唇をググッと噛み締めていまにもプッツン来そうな剣幕でおれを睨んだのは刹那。すぐに目線を逸らして、さっきまで巻き込んでいた下唇を今度は尖らせている。

こんなことで拗ねてんなよいい大人がよぉーッとでも言いたげな顔だなァ!大人だって拗ねんだよ分かったかアアア!!!






「謝りますよそいつも含めて!」

「おれは謝らねえぜー仗助! まったくケツの穴の小せえヤツだぜ。」
「バ〜カ!お前こそ謝るんだよォ〜〜ッ!……フリでいいんだフリで。」





聞こえてるよ。聞かせてるのかってくらい聞こえてる。(もしかして俺ってば地獄耳なのだろうか)



大人げないか?!大人げってなんだ!子供のワガママを笑顔で受け流すことが大人げか? それがケツの穴がデッケェ行為か??!
義務教育終わってんのになにが子供………

アレ、こいつら一年前まで中学生だったの?
赤ちゃん同然じゃん… いや怯むなおれ…ッ!






『素直で嬉しいなぁ〜。
でもさ…見た目でヒトを判断するのは仕方ない、とは言いたくないけどよくある事だよ。でもおれの容姿がモヤシでスタンドがファンシィ〜なお人形だと、カーストはキミ達より下に位置付けされるの?
まぁ最悪本気でそう思ってるとしても、今回はおれの能力を頼りに来たんだよね。取るべき態度ってもんがあると思わない?』





チンチロリン後のバンダナ先輩を彷彿とさせる物言いだけど、おれは別に年上を敬えとかそんなことが言いたいんじゃないんだよ。
端っから馬鹿にしたような態度はいかがなものかと問いたいの!

おれが承太郎さんについて回ってクネクネしてるからか?!鴨肉の誘いを断ったから根に持ってんのか?!!






「「‥‥‥‥。」」

『………。」





両者睨み合ったまま動きません!
(初代ポケモンコロシアムにおけるコマンドを入力しなかったときに実況されるアレ)




悪いが今回は折れないぞ!
どことなーく小馬鹿にされてんの分かってるからなおれ!別に尊敬されるような人間でもないけど、他人に笑われるような人間でもないつもりだし!

ノリ悪〜い!とか言われたって知るもんかヤンキーとパリピとは無縁の人生なんじゃこちとらァ!!
カラオケでおしぼり振り回さないでくださァイ!!!











「おれが悪かったァッ!!!!」
『ひっ……』




無駄にだだっ広い室内に怒声が木霊する。

いや怒声のつもりはないんだろうけど地声が怒って聞こえるんだよ。だけどヤンキーと言えば高木さんではあるよなクワバラクワバラ。




なんて思ったおれの思考が幽☆で遊☆な白書まで遡っている間に、億泰の顔がみるみる歪む。

するとおもむろに額をテーブルに擦り付けて…何をしている匂いを嗅いでんのか?テーブルに承太郎さんの匂いは残ってな……


あっ。





『あ、頭なんて下げないで!協力したげるよヤメテヤメテ!』

「許してくれんのかぁ…?」





半泣きで上目遣いにおれを見る虹村弟。

なるほど愛くるしいじゃねーの!もうその顔も怖くない!大型犬と同じ愛くるしさを覚えたよ!
彼は自称するほどのおバカさんらしいし、この表情を素でやってのけてると思うと…罪だなぁ〜〜ッ!!!庇護欲煽るなぁ〜!





『許すもなにもコレとソレとは話が別だし… けど、思い直してくれたなら良かった。』




そう告げたおれの言葉を反芻しているのか、少し間を置いて次第に億泰の口角がふよふよと緩みだした。

なおも半泣きには変わりないけど、その涙の原因はきっと違うものだろう。








「じょ、仗助ェ〜〜!」

「億泰ゥゥ〜〜〜ッ!」





ガタイのいいヤンキーふたりが、がっしりと抱き合う。
ありがちに頭をワシワシしないのは互いにヘアスタイルを重んじているからか? 肩口に顔を埋めた億泰の背中を、仗助が少し乱暴に数回叩いてあやす。




そんな手放しに喜んでくれてこっちまですごく嬉しい気持ちになるのだけど…だけど……

これほどの悲願を抱えておれのもとに来てくれたのに、いらん講釈を垂れてしまったんだろうか、とか思ったり。






いや!!!!!心の中に全肯定承太郎を住まわすのだ!!!!!!!!!
[そうだぜ…… 全く以ってその通りだぜ。]




やや勢いが足りないな。全肯定ポルナレフのほうがいいか?
[そうだぜ!!!全くもってその通ぉ〜〜〜〜〜とうおるるるるるるる!るるるん!]





『えっなに!ドッピオ??!』

「電話、鳴ってんぜェ。」
『あ、はい。…もしもし。』



「まだいたのか。そっちで変わったことはねえか?」









ジョッ………………ッ………ッッ…………






っぶねービックリしすぎて呼吸忘れてた。
たった一夜空けるってだけで生存確認していただけるとは思わなんだ。

心配してくれたのかな…んふふ。
もしかしておれの声が聞きたかったとかーーッ?!寂しくなっちゃったとかァ?!!



……ん。
(ひとりでテンアゲして現実と妄想の狭間から静かに自我を取り戻しました)





『どうしたんですか、電話なんて。なにかありました?』




ちなみにこちら、変わったことは大いにあったしそのせいでおれはバイトに行けそうもないよ!

嘘なんて吐きたくない!吐きたくないけど露伴がここに泊まったことを告げてしまうと、芋づる式に以前のおれの失踪計画まで明かされてしまいそうで!!!質問を質問で返すしかないのぉ!!

ここはやはり今夜と明夜の検証を終えて、整理してからにしよう。





「いや、声が聞きたくなった。」

『う"ぉぇえぇ………ッ!』




朝ごはん食べる前で良かったアアア!

意外とデレるタイプなのか承太郎…… 一向に耐性がついてないからもっと優しめのジャブから頼む…!




受話器を手にえづくおれを見て、和やかハッピーモードだった男子高校生が何事かとこちらを見ている。

違う…おれがプッツンしてる訳じゃあないんだ……ちくしょう弁解したくてもできやしない……さっきまでモラル振りかざしてたくせに初対面の相手がいる場でヴオエェェとかいって全部承太郎のせいだァ!!!ごちそうさまです…ッッ!






「あーー… おれたちそろそろ、」

『あ、うん!行ってらっしゃい!またゆっくりお話聞かせて。』

「ッス。」
「名前さーん!またなァ〜〜ッ!」





おれたちは互いに手を振りあって、部屋に再び静寂が戻る。

なんだあの人懐っこいヤンキー推せる。






「億泰が?」
『はい、あと甥っ子さんが。
事後報告になっちゃいますけど…億泰くんのお父さんを治す手伝いをすることに。』

「…そうか。
彼の父君に関しては、おれにも責任の一端がある。何かあれば協力しよう。」





なにを言ってるか!承太郎が悪いことなんて、なにもないだろ!?
形兆の言っていた通り、すべては自業自得だ。それなのにアンタはいつものように感情をおくびにも出さないまま、心の中で静かに懺悔していたのか。




きっと救ったはずだなんて、思っても口に出せやしない。だって肉の芽を植え付けられてDIOの操り人形にされた先に、幸福な未来があるとは到底思えない。

ああ、電話越しで助かった。
きっととんでもなくやり切れない顔をしてる。






『それにしても承太郎さんの優しさって分かりにくいですよね。人知れず人の為になってるの、徳高すぎません? 来世においては人間道を脱する気ですか?』

「‥‥‥‥‥。」




えっ怒った?
それともおれの減らなすぎるクチに呆れた?

電話で沈黙って表情見えないし怖すぎるんだけどいまどんな顔してるの? 水族館で怒られたときの人殺しそうな顔とかしてないよね??(あれは一生忘れられそうにない)







「どいつもこいつも、おれの蒔いた種だ。」







時計の秒針まで聞こえるような静寂の中、受話器から届いたその声はひどく悲しそうに耳に響いた。




凛として強くて、ひたすらまっすぐ我が道を行くようなこの人も、意外と完璧じゃあないもんだとこの数日でおれは知ってしまった。

ただ不器用なのか意地なのか、なかなかそれを表に出してくれないんだよなぁ。






『はぁ… 抱きしめたい。めちゃくちゃに抱きしめたい。』
「なら朗報だぜ。いまからそっちに戻る。」

『違うんですよぉ… ジャストナウで抱きしめたいんですおれはァ!』






そう電話口で声を荒げた刹那。ほんとうに刹那。





今度は野生の承太郎が現れた。





何を言ってるのか分からねーと思うが… おれも何をされたのか分からなかった……

ただ忽然と、目前に、承太郎が現れたんだ。
そうとしか言いようがない。






『ゆ、幽体離脱…?!』



恐る恐る人差し指を近付ける。

すり抜けたらすり抜けたで怖すぎるんだが…いやまて幽体になったところでここまで秒速何キロでいらっしゃったんですかって話だ。

なんて明後日の方向に考えを巡らせている間にも彼に迫るおれの人差し指。





「……おい、どこ刺してやがる。」

『乳首がある… えっ…ホンモノ……?!』





白いシャツから浮き出た起動ボタンを押すと、承太郎が言葉を発した。

というか!触れた!こわぁ!なに!

知らない間にハンターでハンターなそれとコラボレーションしてリープオンできるようになったのぉ?!おれにもカードちょうだい!





「抱き締めてくれるんじゃあねえのか?」





彼がすこぶる優しい声色でそう告げて、おれに向け控えめに両手を広げる。



その瞬間にふわりと鼻腔をくすぐるコレは…紛れもなく、承太郎のフレーバーッ……!

おれがこの香りを間違えるわけがない。
ただ、全くもって召喚された原理がわからなくて混乱しているのと、先ほどの甘いボイスに全身の鳥肌がスタンディングオベーションで身体がうまく動かない。




そうか。抱きしめていいのか。
戻ってきてくれたんだ。過ちと悟って彼が去ったわけじゃなかったんだ。






本当はすこし怖くて、もう戻らないかもしれないなんて考えをあれやこれやで有耶無耶にして。

信じきれなくてごめんよ…
いやべろちゅーキメた後に急用とか言って出て行くこの人が悪いむしろ謝ってほしい。




ああもういいんだ動けおれの手足!

抱きしめていいんだってばァ!







『おがえり、なざ……!』





ああどうして近頃そんなに泣き虫なのだおれよ。
ついについに呆れられてしまうぞおれよ。

仕方ないだろこんないっぱいいっぱいで恋愛したことねーもんとっくにキャパシティオーバーなんだよ文句あるの?!間近で喰らってみろよジョースターの微笑みをよォ!!!





ゆっくりとしたテンポで床を叩く靴の音。
凍ったように動かない四肢を溶かす体温。








「ああ、ただいま。」





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