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「話をしよう。」






急に改まってなんだ。
そんな装備で大丈夫かとでも言い出しそうな切り口で。



今しがたおれの鼻水で元来しっとりめの手のひらを更に潤した岸辺の露伴は、どういうわけか手を洗いにも行かず拭き取ることもせずそのまま話し始めた。

怖すぎるんだけどなに嬉しいの?
おれの鼻水、芸能人との握手みたいなそれなの?







『お前それ』
「他人の鼻水に触れたことはあるかい? いままでにない不快感、絶望…」
『いやその』

「ぜったいに許さない。」






こ、こわ〜〜〜〜ッ!

顔とか威圧感とかそういう外面的な怖さより、マジで一生根に持ちそうなコイツの歪みきった精神が怖いよォ〜〜ッ!



持ち前のハングリー精神はどうしたんだよ!
クモの体液よりおれの鼻水の方が100倍マシだろ他人の鼻水の味を知っておくために舐めるくらいしろよ!!!

…ジョークだやめろおれのメンタルが無事では済まない。








『ぶ、ブリスル……』
「ボクは人生のリセットボタンじゃありませんの。」
『深いこと言うね… でも見て。アイツがいまも手の中におれの鼻水握り込んでるのキモすぎない?キモすぎるの。』



「言ってくれるじゃあないか。尚更こうしていたくなってきたね」
『悪かったから手ェ拭けよ話できねーだろ!』
「僕の手が汚染されているとできない話でもあるのか?」






言い方ウッザァ〜〜〜ッッ!

なんなのだったらお前おれがいまこの場で怒責をかけ始めても何でもない顔して今後の方針について語り合えるの?!

それはメンタルが強いとかそういう話じゃなくって最早異常者だと思う。いや常々そうだとは思っているが、鼻水の件で殊更そう思っているが。








『もー大事な話するんだっての!ほらティッシュやるから手拭け』
「‥‥‥‥‥。」
『次はだんまりなの?!お前ほんと』






「いまそのクマが喋ったのか?」






気付くのおっそ。

職業柄、メルヘンへの耐性が強くて人形が喋りだすくらいじゃ動じないのかと思ったけどそうじゃなかったんだね。




おれはコイツが硬直しているのをいいことに、時間の経過に伴ってやや粘つきを帯びてきた鼻汁をティッシュで拭き取る。

その間も露伴はおれの隣に腰掛けたテディベアを瞬きひとつせずに見据えている。なにを思ってるのやらブリスルも微動だにせず人形のフリをしているようだ。








『なーークマじゃなくておれと話してほしいんだけど。』

「ぬいぐるみに生命を与えるスタンド使い… いやまさか、ヒトをぬいぐるみに変えるスタンド使い…?」

『おっとぉ…?』






仗助より物騒な路線できたねえ!

ブリスルの見た目がただのキュートなぬいぐるみなせいでろくな能力だと思われないんだけど!!
あっでも能力がわからないって厄介だよな、そう考えたら合理的なのかもしれん。




ともかくおれはホビホビの実を食べてないしこのままじゃ話が進まないので、

















「ほら、出せ。」




露伴が再びおれの鼻にティッシュをあてる。

おれは2度とあの悲しい事故が起こらないよう、お礼と共にティッシュを受け取ってから鼻をかんだ。







(『もう少し気を付けよう…コイツのことも、能力のことも。』)




ブリスルの言う通り、この能力を人生のリセットボタンにするのは避けたい。

ブリスルに許可を煽るのは、こいつが進んで使ったならおれのエゴじゃないなんて逃げだ。

スタンドが使えるようになったらお金稼ぐくらい朝飯前だろうになぜしないのかと首を傾げていたあの頃のおれよ!
ひとの道徳心はキミが思うよりずっと強いのだ!!!(犯罪をおかせるほどの心意気がないとかそういう事ではないんです)









『向こうに行けなかった原因なんだが、びっくりするほど覚えがないッ!』

「そうパッと思い返せるもんでもないだろ?
時間帯、場所、服装……あとはそうだな。普段持って歩いてたものを持ってなかった、とか。」

『それが全部バラバラなんだよなー…寝りゃいいんだと思ってたし。』






「だったらその世界自体、キミの幻想だったんじゃあないか?」
『お前こっえーこと言う………』






ねぇ、おれのことどのくらい信用してるの?
もしかして空想少年のサンプルとして見られてた? 妙に飲み込み早すぎたのはそういうこと?!

この実際に試してみたらリープできなくておれが困惑してるとこまで現在進行形でサンプリングされているのか?!!?!








「ほんの冗談だよ。この世の全てが敵みたいな顔で僕を見るのはよしてくれ…」

『お前って信用していいのか。』

「信用なんてされたかないね。あくまで僕の目的のために協力はする、それ以上でも以下でもないさ。」







ふむ、変に取り繕うよりずっと安心できる答えだ。

合格!実におれの中の露伴のイメージを壊すことのない絶妙な回答でした!理由のないドヤ顔(たぶん地顔)も大変カチンときます!

やはりこいつは悪いやつではないのだ!
万事解決ワッハッハ!










『なわけねーダッッロ!!!!』

「デカい声を出すな。
ともかく、要因が外的にしろ内的にしろ気付けるのはキミだけだ。これは僕じゃあ検討がつかない。」



『根掘り葉掘り事情聴取しないの。答えるよおれ。』
「僕は事情をまるで知らない訳だが…1から教えてくれるのか?」
『え〜〜ヤダァ!』






そうかコイツが勝手に勘付いてくれたお陰でおれの身の上については深く話してないのか!

1からって言われると面倒くさそうすぎて一蹴してしまったけど、おれのお世辞にも賢いと言えない頭で考えるより話して協力を仰ぐほうが早いのでは…

うーーんうーーん!
でもそうなると1日目はここでこうして寝ましたとか、元の世界で目覚めると時間が経過してなくてとか、承太郎さんを連れてまた元の世界にいってブリスルがウワアアアアもうめんどくさーーーい!








「キミ、整理して話すの下手そうだしな。ま、空条さんが戻ったら相談してみるといい。」

『お前のこと話さないとダメ?!!』

「必要ないんじゃないか? キミの世界に行けない要因が僕にあるってんなら……待てよ。」







ウン待つよ。

バンダナ小僧が急にしかめっ面して考える風なので、おれも深刻そうな面持ちを作り上げて彼を見る。

リープできなかった時こそ取り乱したが、時間の力は偉大である。
おれはもうなんくるないさー精神全開なのけれど、こやつが真面目な顔をするのでへらへらしている訳にもいかずに、わざと顔を強張らせています。健気。















「空条承太郎じゃあないのか?」









『なにが。』

「キミのリープとやらに足りないものだよ。
ここに来てから、彼がどこか他所に行ったことは?」







なんですその運命的なヤツ。

さすがにそんな四六時中一緒にいる訳じゃなし、ジョセフとどっか行ってたこともあるしおれひとりで出掛けたこともあるわい。



ある、けど…………?










『そう言われてみれば… 寝るときと起きるときは、いつもいたかな……』







思い返せば、おれが初めてこの世界に来たときから必ずあった存在。

まだ一度きりの失敗であれやこれやと早計ではあるが、条件があるとしたら足りないのはそれだけだ。
(またはバンダナ小僧の存在が悪い)








「検証の必要がありそうだ。
仮に今夜うまくキミの世界に戻れたら、明日の夜は僕の家へ泊まりにおいで。」

『えっなんで。』
「…質問は自分の頭で考えてからした方がいいぜ。」






やだ短気こわーい!

泊まりにおいでって発言でゾワッときて思わず語尾に"いやだ"と付けそうになったのを飲み込んだんだむしろ褒めてほしい。

お泊まりの理由が確信を得るためってのは分かってたけど素直にウン行くとは言えなかった。








「真偽はすぐにわかるさ。
あーあ、僕の忠告通りになったじゃないか。言ったろう? 帰れなくなった時のことを考えた方がいいって。」

『あーハイハイ大正解やったー。
せっかく可能性見えてんだから、いらんこと言うなよもうー…』





「その可能性も僕が見出した。」

『ざーーーす! 露伴パイセッマジざーーーっすッ!!!!!』








まだ、あくまで可能性なのだが、確かにおれのキュートなサイズ感の脳みそでは見出せていたか怪しい。

それに関しては感謝せざるを得ない。






どれくらい広いもんかは分からんがこのジョジョの世界で、おれが承太郎さんのホテルに落っこちてきたことが偶然ではなく必然だったなら。

そんなもの、彼に惹かれるのは道理で、彼もおれに惹かれ(たよな?)るのは道理で。

あくまで1つの仮説に過ぎないのに、点と点が繋がったような気持ちがおれの中に芽生え始める。













『(なーんだおれ、あなたに会いに来ちゃったのか。)』





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