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39









「起きろ。」

『しずか…に………』





「起きろッ!!!」
『あん!』





容赦無く頭を叩かれた。
脳みそが揺れて否応無しに意識が覚醒する。







『っにすんだラァーーーッ!!!』

「説明してくれ。」




こいつバンダナ付けたまま寝て、おでこ痒くなかったんだろうかというのが一発目の心の声。

二発目は射し込んでくる陽の光で、ああ朝か……そうか昨日カーテン閉めないまま寝たっけすげー眩しい………あれ。






『アレレェ……?』

「説明、してくれるね?」





『おれたち、何でホテルに居んの?』






周りを見たら、寝る前とそっくりそのまま同じ空間が広がってる。

けど確実に時間は経過していて外はすっかり日が昇っているし、掛け時計に目を遣れば針はちょうど6時を指していた。







「てっきり僕を謀ったのかと思ったが… そうかい、不本意ってわけだ?」



『‥‥‥‥。』
「おい、しっかりしろよ。
なにか条件でもあるんじゃないのか?ソファで寝たのが悪かったとか。」

『う、ううん… ここ来た時はソファで寝てたから…それは、ない……』






いつかこっちに来れなくなるかもって恐怖はあったけど、帰れなくなるなんて思ってもみなかった。

どうすれば。どうしたら。



このまま戻れなかったらどうなるんだろう。向こうは同じように時間が流れているんだろうか。おれの身体はどうなってるんだろうか。ていうか今日バイトなんだけど無断欠勤になる。いやその前に母さんが起こしにくるからおれの異常に気付く。

どうしたら。どうしたら。どうしたら。








『ろ、ろは…… おれ…ど、どう……』

「…毎日戻っていたんだろ? たまたまじゃないのか?」

『でもいままで、こんなこと、』
「キミが来てまだ一週間も経ってないんだぜ? 判らないことが山程あるように、これから判ってくることだってある。」






出来ることなら今すぐ寝直したい。けど、とても眠れそうにない。

震えの止まらないおれの手に、露伴が上から包むようにして自分のそれを重ねる。優しくゆっくりとした口調で、諭すように、あやすように言葉を紡ぐ。




震えが止まらない。












『うっうっ……離してぇ…気色悪いよぉ………』
「さすがに殴っていいね?」



『どうじよぉ〜〜〜ッ!向こうで心停止したおれが発見されて火葬されてボオォーッてなって今のおれがギャアアッてなったらどうじよぉぉーーーーッッ!!?!?』

「キミってほんと大したタマだよな燃え死ね。」






さっきまでの優しくヌメヌメした声とは一変。
すぐさま手を離す露伴。

いや帰れる帰れないとかより生きるか死ぬかの問題の方が重要に決まってんだろどうすんだおれがいきなり燃え出したら優しく諭すのかテメー!



こっちで生きていかなきゃいけないって確定したならしたで働き口見付けて強く正しく朗らかに(小学校時代の校訓)生きていくよ!!

でも死んだらどうしようもないだろーがヨォ〜〜〜ッ!!!!!







「心臓は止まっちゃあいないんじゃないか?」

『なんでッ?! 理由を述べてよぉ!!!』





おいおいおい溜め息ついてんじゃねーわよ早くアタイを安心させてよぉッ!!!!

何を根拠にそんなこと言ってんのねえねえねえーーッ!!!不安に押しつぶされそうだよねえねえねえねえ!!!!!






「キミは何度も元の世界に戻ってるんだろ? 死んだ身体で目覚めたなら、何かしら異常があったろうさ。2時間もあれば顎、首、内臓…半日もすれば全身硬直しているはずだ。」





『すげーーー!…けどなにその知識怖すぎない?』

「まぁ職業柄ね。良かったなぁ、植物状態なら10年は猶予がある。」

『でもそれ延命措置し続けてくれたらの話だよね。えっヤバい待ってヤバい……あっでもおれ生命保険入ってるイエーーーイ!』





ハイタッチを求めると明け透けと心底嫌そうに眉根を寄せる露伴。

離せと言った直後にハイタッチとか良くなかったねごめんね、そんなに怒らないで…せっかく励ましてくれたのに好意を踏みにじったのは理解してるけど、お前耳もとでスーパー優しく喋るから本当に吐きそうだったんだよ許して……









「空元気は却って痛々しいな。」

『…別に元気なフリしてるつもりないけど。』

「そうは見えないぜ。」





居た堪れない気持ちになって目線を床に落とす。

そう見られたのがどうにも恥ずかしい。まるで表に出さんとしている心の焦りを見抜かれているようで、やめてほしい。




おれが言葉を紡がない代わりに沈黙が訪れる。

居心地が悪いけれど、なにを言えばいいかわからない。ヘタに喋ればまた元気なフリでもしていると捉えられてしまうかもしれない。それはなんか嫌だ。







「この岸辺露伴や空条承太郎がいて解決できない問題なんて、そうそうあるものじゃない。そう思わないか?」

「たった一度戻れなかったくらいなんだよ。」

「キミは僕を異世界に連れて行ってくれるんだろ?そうでなければ割りに合わない。」






静寂の中に淡々と言葉が投げ込まれる。

おれは本当の本当に、無理をしていたつもりも強がっていたつもりもないのだ。
なのにじわじわと目頭に熱いものが込み上げてきて、これはいかんと抑え込んだら代わりに鼻水が湧き出てきた。

おれは鼻を垂らしながら露伴に向き直る。








『あじがど。』





どういたしまして、と彼がおれの鼻にティッシュを当てる。

ふん!と勢いよく鼻をかんだら、水鉄砲が如く勢いよくティッシュを突き破った鼻水が露伴の手をべっとりと汚した。





ワッハッハ、ざまぁ!




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