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『連れていってやろーぞッ、おれの元の世界!』






前にコイツが押しかけてきたとき、どうやらそれが目的でおれに近付いてきたようだったし、さぞ両手を挙げて喜ぶだろうと思った。

のに、

ふっかふかのソファーに腰を沈めて腕も足も組んだセレブスタイルの露伴は、おれの提案に眉をピクリと動かしたきり固まっている。

なんだなんだァ〜〜ッ?? 言葉も出ないレベルでハッピーかァ!!






「……僕も、行けるのか?」

『うん、物体だけかと思ってたら人もイケるっぽい。今朝空条さん巻き添えにした』

「それはいいね。」






おれの返答に気持ちが悪いほどにんまりと満面の笑みを浮かべる。

(喜んでくれるならおれも嬉しいけど、見慣れない笑顔に心が動くどころか少し怯えてるから感情を抑えていただきたい)






『お前本気で信じてるんだなー、おれが異世界人だって。』

「スタンド使いなんてモンがごまんと居る世界だぜ。むしろ僕はキミだけじゃあないと思ってるくらいだが?」


『……説得力あるネ。』
「だろ? ま、特異なことには変わりない。」





未だに漫画の世界に入り込んだって固定観念が捨てきれてないせいか、その考えはなかった。この世界なんでもアリだった時空だって飛ばせちゃうんだったッ!!!

おれの世界はスタンドの抵抗?がないらしいからスタンド使いこそおれだけでも、飛ばされたのまでそうとは限らんわけだ。





えーヤダーーー!

特別感薄れるゥ〜〜〜ッ!







『おれは唯一無二のスーパービヨンドマンでありたい!』

「そういうエゴが犯罪を生むんだろうね。」





さっきからもっともっぽいこと言ってくるの、なぜか最高にイラッとくるネェ〜〜〜ッ!

なぜかじゃないな、いつもの理由だ。
このサイコ野郎がどのツラ下げてってやつ!!!常識人ぶりがちなところあるよねお前さぁ!!






「それで、方法は?」

『え? ああ、寝るだけ。』



「……確認なんだが」
『就寝。』





ぜってー言うと思ったよこの破廉恥バンダナ!
承太郎とチョメチョメしたから向こうの世界に連れてっちゃったわけじゃねーよ!

今さっきサッと引いていった露伴の血の気がサッと戻ってくる。
良かったなおれも心底良かったよ安易な条件で。





すると何を思ったのか、おもむろに足を上げてソファーに横になる破廉恥。

欧米かテメェ靴を脱げ腕を吹っ飛ばすぞォ!







「空条さんはいつ戻る?」
『明日の夜には戻るって言ってたけど。』



「十分だ、早く行こう。」

『えっ、いまから? 準備とかないの? カメラ持っていかないの?』





ファンタジーみたいに「世界の均衡が崩れるゥ!」とかないと思うから好きにしてくれていいんだよ。

なんならおれ明日のバイトだし、お前に構うヒマも案内するヒマもないし。
昼休みにでも帰してあげるから二度と会うことのない女子高生とかナンパして処世術を磨くがいいよ。






「たった1回なんてケチなこと言わないだろう? さ、急いでくれこっちは眠いんだ。」

『うそ眠いの?!いまこの状態で眠いのッ?!!
待って動揺しておれは眠れそうにないもうお前そのまま寝て…どっちにしろ寝てもらわないと連れていけないしウン…』




「キス…するなよ……」
『しねーよしねよ。』





どうやら本当に眠かったらしい岸辺露伴はクソ腹立たしい遺言を残してあっさりと意識を手放し、すぐに穏やかな寝息を立てる。

そんなスイッチのオンオフみたいに元気ハツラツからおやすみなさいモードになるのなんなの気持ち悪い!



って思ったけど割とおれもそのタイプのいつでも眠れるマンだったね。
(でもおれはもう少し眠たい雰囲気を出すから、おれは気持ち悪くない)









『いい……のかな。』



なぜ一抹の罪悪感があるんだろう。

おれの世界にリスクを持ち込むとかそういった部分は全く心配してない。
というか露伴をリスクとして考えてないし、承太郎さん以外に唯一おれの境遇を知ってることもあって正直、気の置けない理解者…なんて思ってないこともない。

いいじゃないか。なにを躊躇うのだおれ。







脳みそを回転させても晴れそうにない心のモヤをそのままに、部屋の明かりを消していざ参らん。
ソファに寄り添うように床に腰を下ろし、死人のよう微動だにせず眠る男の手を握る。

(決して握りたくて握っているわけではなく、あくまでコイツと連れて行くために致し方なくである)






『ウワァしっとりしてる…』


前におれの手汗がどうとか言ってきたくせに手のひらしっとりしてるゥ!!! 後でからかってやろうプププ。





しかし。しかしな。

コイツが訪ねてきたから、ちゅーしたあと承太郎がいきなり出掛けてって戸惑いMAXだったのは紛れたし、承太郎のとこに留まるって覚悟も固められたしで…

感謝の気持ちなんてものがじわじわとくすぐったく湧き始めて、思わず口の端が緩む。




『んふ……』




ありがとう露伴、向こうで会おう!


心の中でそう高らかに告げると、脳内のおれは背筋を伸ばして敬礼し、ドボンと眠りの池に飛び込むのであった。




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