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『えっなに…なにこれ溶けた…… これは、なぁに…?』






夕飯なう。




皿の大きさに対して料理の占める面積が少なすぎる感じのシャレオツな料理が運ばれてきて、そもそもテーブルマナーとは?なおれにはとても難易度が高かったのですが

「誰も見ちゃいねえ、好きに食え。」

との神の一声をいただき謎の切り身にナイフを通したのであります。





肉……ではない…

白身魚が焼かれたものだと思ったけど違うぞ…溶けた…… いや最高級の白身魚は溶けるのでは……ッ?!!

なんと! まさに未知との遭遇ッ!








「フォアグラだろう。」

『えっ…… ア....ファア………… 』






フォアーーーーッッ!
おれ知ってるよフォアグラがどうやって作られるか… なんかで見たよぉ…

どうせおれの人生でお目にかかる機会なんてないからと思ってたけど… そっかぁ……思わぬところで遭遇してしまったなァ………



ゴメンね… おいしいよぉ………
残さず食べるからねェ……!








おれはひとり抗えない世の摂理に心を痛めながら、命あることに感謝をする。

ところでおいしくて…… この近くに添えてある意味わかんない赤茶色のドレッシングがかかったオシャレな形の葉っぱもおいしくて…意識がそっちに向いてしまう……

おれはもっと感謝しながら噛み締めたいのにおいしい…… くそぉ……ッ!






『承太郎さん食べ慣れてますね、こーゆうの。』





表情ひとつ変えずに手慣れた美しい所作でナイフとフォークを操る目の前のそのヒトは、ただ黙々と食事を口に運ぶ。

ただ無言で咀嚼を続け、アレ無視された??と思った頃に嚥下してゆっくりと口を開いた。えらい……ホリィさんの躾が行き届いてるネ………きっと小学生くらいのときの…







「食にそれほど拘りはないが… うまいものを食べた方が気分がいいからな。」

『じゃあいまハッピーなんですね! おれも承太郎さんとウマい飯食えてハッピー!』

「‥‥‥‥。」





この無言は、いいから黙って食えってヤツだ。
だが伊達にこのヒトと過ごしてないからねおれは! そんな攻撃は屁でもないねッ!(無言スタプラが一番こわい)

おれは性懲りもなく「でも食費がえぐそう。」なんて、彼の金で飯を食いながら続けざまに言葉を投げかける。






「金は使うためにある。」
『ヤダかっこいい抱いて………!』


「‥‥‥‥。」






……さーーて、黙って食べよう。

二度目の無言と眉間のしわは、さっきと違う意味合いを孕んでる気がしてなんとも気まずい。

もちろんジョークだよ承太郎もそんなの分かりきってるだろうよ、でもあれだけ熱いベーゼを交わした後の抱いてはアカンおれアカンよぉ… 軽率すぎるよアカンッ…!

ひとり気恥ずかしく思うおれは目を伏して、その後彼に倣うように黙々晩餐を続けたのであった。












ーーーーー……






さて、予期しようもない怒涛のハピネスストーリーを経てお忘れかもしれないが(まさにおれがお忘れだったが)おれはまさに今夜、失踪計画を立てていた。

おれ約束は重んじるタイプだし先約は先約だと思うんだけどさすがにコレはイレギュラーっていうかさぁ……!





『ン"ン"ゥ〜〜〜……』

「懲りないなお前も… テメーのキャパシティくらい分かるだろう。」

『おれは、おれの限界を… 超えるッ…!』






今回ばかりは腹がキツくて唸ってるわけじゃあないんだよしぬほどキツいけどォ!

しかしベネだぞ。いい勘違いだぞ承太郎。
これで苦悩に満ちた顔を隠す必要もない。おれは机に伏して、尚もうんうんと唸り続ける。

すると、ソファに腰を沈めていた身体をおもむろに起こし、彼がおれの目の前に立ちはだかった。






『なん……』
「悪いが諸用でここを空ける。」




はい?





『急ですね?!!』

「明日の夜には戻る。食事はこれで適当に済ませてくれ。」

『ヒィッやめてください現金手渡しなんて冷め切った親子みたいな真似!ていうか今からですかッ?!』

「ああ、すぐに出る。」






待て待て事もあろうに万札を渡すんじゃあないよどこぞのボンボンだお前はァ!!

おれは心底イヤそうに目を細めて、ふるふると顔を横に降る。
が、彼はそんなの御構い無しに裸の福沢諭吉をおれの前に置き去りにしていく。

ホテルの一室で万札渡されていまからいかがわしいことするみたいだなぁ…… とりあえず、変に突っぱねてこの諭吉がここに残され気まずい感じになるのは避けたい。





『その時がきたら使いますあざす。』




おれは礼を告げて諭吉を手に取ると、小さく4つに畳んで、部屋に飾られている陶器で作られた白馬の下敷きになるように隠し込んだ。

おれがいなくなった後に置き去りにされたら大変だから「ここに隠しときます!」と声高らかに伝えども返事はなし!まーた無視ッ!











『あの、』





どこへ行くんだろう。


出会って数日、この人がおれに行き先を告げずどこかへ行くことはなかった。話す必要があるかないかって言われたら別にないし、単なる安心要素でしかない。そして承太郎の気遣いに他ならない。

どこへ?誰と?なんて嫉妬深めの束縛系彼女みたいな思考回路は持ち合わせてないつもりだったし、なにがこんなに引っ掛かってるんだおれは… やめてくれこれ以上は自己嫌悪に繋がるぞ悔い改めよおれッ…!そもそも彼女ってなんだよふざけんな一回二回ちゅーしたくらいでおれェ……ッ!!!








「…名前?」





言葉を続けないおれに、怪訝そうな声で名前を呼ぶ。




どこへ行くんでもいい。誰と会うんでもいい。
ただ、夢のようなひと時の後に突然距離を置かれるようで。この人に限って、なんて思うけれど、後悔してるんじゃないかって。

なかったことにしたっていい。なんなら時間だって戻してあげるから、どうか離れていかないでほしい。



自惚れたくはないけど、確実に先の行為でおれの気持ちは膨れ上がっていてどうにもダメなんだ。ドロドロと女々しい想いが漏れ出しそうになる。










『お土産はありますか!』





そんなおれの感情には、ちんけなプライドが懸命に蓋をしてくれていた。いいぞがんばれ、こんな汚いものを晒してしまったらそれこそ本当にドン引かれてしまう!

それにおれにとってはタイミングが良いことこの上ないじゃないか!決行は今夜なのだから。






「仕方のねえヤツだな… なにか見繕ってこよう。」

『キャーッ、良いオトコー!』










そして承太郎は言葉通りに、本当にすぐホテルを後にした。

入り口ドア付近に置かれたレザートランクは、おれが戻ってきた頃には既に用意してあったのであろう。全く気付かなんだ。






ひとりになって、それはそれは深い深呼吸をひとつ。

ホテルに戻ったときの確固たる意志は何処。揺らがないワケがないじゃないッ!誰が予想できたよこんな目眩くホモをよぉ!!!
好きとか言われたらこれからも傍に居ていいんじゃないかって思っちゃうよねェ?!わかんねーヨォ〜〜〜ッ!!!逆に妻子持ちにこれ以上道を踏み外させないためにもキッスを最後の思い出として身を引くべきなんでしょうかでも自分がカワイイ無理〜〜ッッ!!







『ブリスルゥ〜… ここで露伴に助言を求めるのはルール違反?』

「なんの助言をしてほしいんだ?」




『そんなもの承太郎さんと両想いかもしれませんどうしたらいいですかに決まってんだ………ろ、はん…さん……」






お前まーたスタンド使ってキー奪ってきたんか!
普通に来てくれたら入れるよもうヘブンズドアーされるとか警戒してないよ!

いやじゃなくて…… え、うそこのタイミング?
こいつクレイジー過ぎない?







「へぇ、あの朴念仁と色っぽい展開でもあったのかい?」
『いや、あの、なぜ』



「いいぜ、聞かせなよ。」






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