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つい先刻まで、泣き出しそうだったおれ。






『うぶっ……ぐう、ぅ………!』






そして絶賛泣き出しているおれ。



承太郎は少し困惑した表情で、何も言わずにおれの頭を撫でている。そんなもの感情の昂りを助長する以外の何者でもなくて、おれはベッドサイドにあったティッシュボックスを胸に抱き、せっせと紙を引き抜きながら既に真っ赤になった鼻をかみ続けるのだ。

キスなんかで涙が止まるかバカたれッ!!
鼻水出てくるのに口で呼吸できなくて危うく酸欠になりかけたわ!!!







『おで……おでぇ…! 居なぐなんなぐで、い、いいんで…ずが……っ!ごの時間で、じょっ…だろざんと、生ぎてで……いんでずが…!!』





「さっきは何でもないって顔をして、気にしてたのか?」

『気にじないわげないだろ!あんなっ、…あんな、言いがだされで……酷いひどだ…うっうっ……』

「ふっ…悪かった。意地の悪い言い方をしたな。」






ハイィィ〜〜〜ッ?!!なんだその薄ら笑いの悪かったは謝る気あるのかアァン?!?!!



まぁでも… たしかに突き放すような言い方だったけど、あれはいたって正論で、そしてこのヒトの本心に他ならないんだろう。
ここ数日、おれはこの世界を主軸に動いていて(そもそも元いた世界で時間が経過しないせいだけど)少しはしゃいでいた自覚はある。依存に片足突っ込んでる感は大いにある!

フ……恋は盲目…って、いうだろ?







「……? なんだ、泣き止んだのか。」

『ウス……』





おまえは泣かないもんな!
戦友が命を落としたって流れることのないそれは、きっとおれがどうこうした位で拝めるものではないんだろーなぁ…

そんなおまえが心配だぞ承太郎! 涙を流すって行為は、その起因が何であれストレスの解消に繋がるんだと聞いたことがある…
感情の起伏が少ない節はあるな? その割に女が騒ぐとキレがちだった気がするけど……




マズい。

そんなヒトがあんな切羽詰まったキスしまくってきたのかと思うと頬が緩んでしまう。くそーーかわいいなクソーーッッ!!!








『…承太郎さん。』

「どうした?」





ちり紙で鼻の下までくまなく拭き取り、山になった使い捨てのそれらを両手で掬ってゴミ箱にイン! これでおれと彼を遮るものはなくなった!

急にそそくさと動き出すおれを不思議そうにただ見据える承太郎さん。あ、ちょっと待ってねティッシュの箱も邪魔だから。





『よしよしよし。』





鼻と目尻が未だヒリヒリするが泣くのはこれでおしまいだ! せっかく晴れてハッピージャムジャムサイコー両想いなんだから満喫しないとバチが当たるよねェ!

おれは彼の片腕を持ち上げていそいそとその胸の中に入り込む。分厚い胸元に顔を寄せると、上から息を吐くような短い笑い声が降った。

よかった、イヤじゃないみたいだ!
ヤッタぜこれで心置きなく……










『スハァ〜〜〜〜〜ッ……スゥゥ………っだハァ〜〜……』

「離れろ、いますぐに。」






引っ剥がさんばかりにおれの上着を引っ張る彼の力に容赦はない。

久方ぶり(のような気がするが確か今日の昼間にも一度味わった)に芳醇なフレーバー分子を鼻一杯に詰め込めたのは嬉しいんだけど、悲しいことにさっきの号泣のせいで鼻が詰まりかけてて薄っすらとしか匂いを感じることができなんだ…… 悔しいッ…どれくらい悔しいかって誤って推しのSSRを合成させてしまったくらい悔しい……ッ!!!

(大切なカードには必ずロックをかけましょう)







『おれたち結ばれたんですよねェ?!!』

「こんな許可を出した覚えはねえ…
ったく… 匂いを嗅ぐたびに舌を捻じ込めば少しは大人しくなるのか?」







『…………なぜご褒美を?』

「見上げた順応力だぜ…」





確かにさっきは完全にキャパシティオーバーです満員御礼ありがとうございましたって感じだったから動揺して拒否したけど嬉しくないわけないだろ?!なんなら穴という穴に舌を捻じ込んでもらったっていやそれはぶっコロスッ!

脱力したようにおれを引き剥がすチカラは弱まって、しめしめとまた彼の胸に潜り込む。ハッピィ……ジャムジャァム………







「ひとつ癪なんだが、」

『スハッ… はい? スゥゥ〜〜……どうし、ッンハァ… ました?』








「おれのナニを勃たせておきながら、テメーが無反応ってのが腑に落ちねぇ。」

『…おれと承太郎さんは純潔のキズナで結ばれたのでチンコの話は忘れてもらえますか。』






子供みたいなこと…いやこんなこと言う子供いたらイヤすぎるけど。そんな理不尽なこと言うようなヒトだったかアナタ…?

たぶん本人的にも予想外でよっぽどショックだったんだろう。逆の立場で考えても絶望は計り知れない……ましてや片想い拗らせのおれと違って好きですちんちん勃ちましただもんなププ… 泣けるよなァ……!プークスクス…





しかしその話題あまり掘り返してほしくない。

万が一おかしな展開になっても困るし、おれはいままで慎重にその事例を回避してきたので今になって大打撃を受けるのはシンプルにご遠慮仕りたい。

茶化そうと見上げた先になんとも解せない顔が映り込むもので、マジレスするしか回避の術はないなコレは……





『動くセクシーの承太郎さん相手にいちいち反応してたら気が狂いかねないんで、却ってよかったと思いますけど…』




そもそも抱き込まれながらチンコがどうとか真顔で話すような関係に、そんな色気要素が芽生える方が不思議だと思うけどどう!?
おれだって承太郎が全力フルパワー120%で誘ってきたら反応不可避だよ!!!でもそんな展開ないんだから腑に落ちないとか言われても困っちゃうよ!!!!!

(なお、全力フルパワー120%についての妄想は被害を最小限に抑えるため行わないこととする。)







『プラスチックラブってやつです!』

「プラトニックだ。」






間髪入れずに差し込まれるツッコミに、そーともいう!と返しておれは彼から身を離し、上体を起こす。

別におれは彼とチョメチョメしたくないし、たぶんこの人もまったく他意はなくって、ただただ自分だけ反応をしたって事実が腑に落ちないんだろう。





キスはしたけどこの関係性は未だ謎で。
型にハマらない、名前のない関係でいいって言った手前、今更おれってあなたの何ですかとも訊けないし……!

過度な期待は身を滅ぼすッ… 少し距離が縮まったくらいに考えておこう。そうだ利口だぞおれ。







「日が暮れたな。飯にしよう」






ベッドのスプリングを軋ませて、彼が同じように身を起こす。

その刹那におれのくちびるを奪って、なんてことなくフロントに電話を入れに行った。









『 〜〜〜〜ッ!!! なんだそれシビれる憧れるゥーーッ!!』

「やかましいッ!
あぁすまん、連れが……… 」






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