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おれがスタンド能力を受けているのか、はたまた彼がそうなのか。
そういえばやけに眠そうだったから夢遊病を患っているのかもしれない。だったらおれは誰に見えているんだテ◯ラー・ス◯ィフトか? エ◯・ワト◯ンか??
いや待てだが確かにこの人はおれの名前を口にしたし……じゃあおれがテイ◯ーなのか…?(たいへん困惑してるおりまする)
「聞いてるのか?」
『…………。』
宝くじで億万長者になったり頭に隕石が落ちてきたりする確率はわからないけど、そう仮に、仮にだ。それより遥かに低い確率で、彼の心がおれに傾くことがあったと仮定しよう。
異性のように両想いですねじゃあお付き合いしましょうとはならないよな?
そもそもこのヒト既婚で子持ちで待てどういうつもりだおれを愛人にしようというのか…?!
「おい、また口が開いてるぜ。」
『……? ………????』
「どうやら舌を捻じ込まれたいようだ。」
『すっっっごい聞いてるゥ!!』
ヒィ〜!一回踏み外したらもう怖いものないぜみたいな態度ですねヤケって言うんですよそれェ!!
しかしこんな時すら涼しい顔して、なんなのだ!人生で赤面というものをしたことがないのか?!
終始ド赤面マックスのおれが下唇を突き出してむくれていると、彼の手のひらが頬を撫ぜて降りてゆく。
心臓が爆発しそうってこういうことだ。またキスされるかもなんて構えていると、行為の最中より余程身体が強張る。
その手が顎に到達したところでクイと顔を持ち上げられた。親指が突出した口唇を押し戻すようになぞって…… ああもう堪忍してくれよ、するならひと思いにブッチュといってくれ!
堪らなくなっておれは思わず目を閉じた。
「…勃起した。」
『ウッソだラァァアァァーーーッ!!!??!ブリスルゥ!戦闘態勢を取れェーーッ!!!』
「イヤよイヤよも何とやらですの。」
『テメーおれの精神エネルギーなんだから誤解されるようなこと言うなよ心底!心っ底怯えてますからねおれェ!』
勃起という単語に拒絶反応を起こしたおれは途端に双眸をかっ開いて手を振り払う。その腕は名残すらなく、パッと彼の横に戻っていった。
ウワアアアアよく見たらちょっと笑ってるこの人!ヤダァ!!勃起とかもおれを弄ぶ虚言だ!からかわれてる!信じられないこれだから男子ってヤダァ!!
平常心を取り戻せおれ。
完全に遊ばれてる。恋心をいいことに彼がこんな下衆な遊びを敢行するとは思えないがおれの見えていない承太郎もたくさん存在するしこの風貌で女遊びをしてなかったなんて言ったらうそだ。
クールになれおれ!
「しかし…野郎相手に反応するってえのは複雑なモンだな……」
『……? なんか今日ちんちんデカくないですか…?』
「勃起すりゃあ誰でもデカくなるだろう。」
『ぼっきぃ………?』
いや勃起してんじゃーーーん!!!!!!!
『な、なん、なんなななんなん』
「ナ◯シカか。あれはいい映画だ。」
『こんな時にオームの怒り鎮めるかァ!!!!!名作っすよアレァ!!!!』
何度もボキボキうるさくて申し訳ないんだが本当の本当に勃起をしている。ハイウェストでベルト留めてるからもうここぞとばかりに勃起している。ヘビー級王座ってかんじ。
それがつまり何を意味するかって、承太郎がおれに告げた“スキ”は性欲を伴うってことで、その“スキ”が紛れもなくこれまでの友愛とは異なってるってことで、つまり、
『お、おれとキスして…勃起、したんだ……』
「正確にはお前のキス待ち顔に、だな。」
『待ってねーでしょ?!やめてください事実を湾曲するの!』
「そうか。自分から目を閉じたように見えたが。」
彼が嘲笑に似た笑みを浮かべておれはイラッと指数の上昇と一抹の悔しさを感じたけど、でもこのヒト勃起してるしなと思うだけで不思議と優しくなれる。だってこのヒト勃起してるし。
あれだけおれが恐れていた事態にまさか承太郎が先に直面するとは思わなんだ。ネェいまどんな気持ち?いまどんな気持ちなのぉ??
「また今度は随分と余裕な面構えじゃあねえか…」
ウュヒィィ〜〜〜ッ!!!
低く囁くように言語を発するのはやめてもらえないか!ムズムズするというか腰に響くというかおれまで釣られ勃起しそうになる!(ここ数分でおれは10回弱ボッキと言っているがたぶんまだ言い続ける)
これぜったいオンナを落とすときに使ってるやつだチクショー男にも有用じゃねえか効果は抜群のようだ!
先刻初めて口唇を重ねたときと同じように、彼がおれと額を合わせた。
互いの吐息が混ざり、目前の深いエメラルドグリーンが確かな熱を持っておれを捉える。
ああ、おれってダメなヤツだ。
もう期待しかしてない。
異世界人だとか、同性だとか妻子があるとかそんなことよりも、この瞬間は間違いなくこのヒトの心がおれに向いてるんだ。
「そんな目で見るんじゃあねーぜ… 抑えが利かなくなる。」
『まいったな〜、そんな溢れ出すほどおれのこと好きになっちゃいましたか。』
「減らねえクチだな。塞いでほしいのか?」
距離が少しずつ縮まって、また鼻先が触れ合う。猫が戯れるように鼻の頭を撫で合わせ、くちびるまであと1センチもない。
「ン……!」
『…焦らさんでください。』
おれは泣いてしまいそうだった。
次いだ彼からの舌が溶けるほどに激しい口吻けは、感情のパラメータを見事ぐちゃぐちゃにしてくれる。陽が沈むのも気付かないままにおれたちは互いの口唇を貪り合う。
彼の眉間のしわ、紅潮する頬、熱っぽい吐息。それらが言葉よりもずっと分かりやすく想いを伝えてくるものだから、再び熱くなる目頭に気付き慌ててキスで塞き止めた。
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