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- ナノ -

33










『ハアアァァ〜〜〜〜ッッぁぶ、ゴボッ、ガッ…!』

「………。」





驚愕のままに腹の底から響かせたハァァの勢いはおれの喉チンコを揺らしに揺らし、それがどうにも擽ったくて咽せ込んでしまう。

目の前にある控えめに言ってもミケランジェロの彫刻ようなご尊顔へダイレクトに唾液が飛んでいったが、いまはそれどころではないし今回のアミラーゼスプラッシュの全責任は彼にあると言って過言ではないので甘んじて受け入れていただこう。







『バカじゃないのか!バカだ!承太郎さんはバカ!!!』

「照れ隠しか。」

『ちっげェーーますよ!!!アナタねぇ!おれの純情を弄ぶのも大概にしないと痛い目みせますからねェッ!?』






怒声を浴びせながらもおれは彼の顔面にぶち飛ばしたアミラーゼ液を、自らのシャツの袖でポンポンと叩くように拭き取る。
ゴシゴシすると乾いて臭くなるかもしれないから… おれの体液によって汚された背徳感とかないからァ!

第一アンタが言ったんだろーがよォッ!こっちの世界におれの生きるべき時間はないって、こっちで生きるのは道理に反するみたいな、おれの居場所はないみたいな……平気なフリしたって傷付かないワケなんてないんだぞお前!ああもう腹立ってきたよ今日の承太郎らしからぬ承太郎に〜〜〜ッ!!!






「失言だった。」

『撤回が早いなぁーーッ?!』






ぬか喜び…いやいや喜んでもないけど!失言どころか虚言だよわかってたよ勿論!
おれもこの人も当然ゲイじゃないし、ましてや承太郎さんに至っては妻子だってあるわけだし、わかってるんだよ!

つまりはそうか!そういうことか!!





『名残惜しく、思ってくれるんですね…?』





おれの思い違いだって考えようとしても、彼の所動が全てを物語ってしまう。

ただ一言、別れが惜しいと言葉にしてくれたならいいのに…変なところで照れるんだなぁ。(もっと恥ずかしいことはズバズバ言うくせにな!)

おれも彼も、頭では互いに特別に想うことは不毛だとわかってて、それでも脳みそに気持ちの糸が絡み付いて上手いこと身体が動いてくれなくなってるんだ。







「すまん……格好がつかねえな。」

『とんでもねーです、スゲー幸せです。
…ね、承太郎さん。』





眉根を寄せて目線を逸らす彼はまるで子供のようで、おれは押さえ込みのきかない笑みを零しながら彼と額を合わせた。

気持ちが同じと知れたなら、さっきまで縺れて絡まって千切るしか術がないような糸だってスルリとほどけてしまう。






『異世界人な時点で規格外なんだし、型に嵌めなくたっていいと思うんです。名前のない関係でも、隣に居なくても、承太郎さんがおれを想ってくれるんですもん。』

「………そう、か。」

『そーです。…自惚れてますかね、おれ。』





目を伏して告げた言葉は思い返すほどに恥ずかしくて、クエスチョンを自分で投げかけたにも関わらずおれは彼に目線を戻せない。

そうそうそう自惚れてるよおれェ〜〜!
余裕が生まれた気がしたけど気のせいだよいっぱいいっぱいッ!!心臓も脳みそもオーバーワークだよぉッ!!!

あっ…デコに冷や汗が滲んできたマズい………








「いいや、足りねえくらいだな…… おれを買い被ってるんじゃあねーか?」





額がぬるつくまえに身を離そうとしたおれの意思は叶わずに、後頭部に回された彼の掌に力がこもって更にその距離を縮めてしまう。

ただでさえ額同士がくっ付いたその距離が狭まれば自ずと鼻先が擦り合わせられて、次いで触れ合うのは、







『んーー! ん"ん"ーーーッ!!!』

「くち、開けろ……」

『ちょ、ふざけ…っむ、ン……んふー!』






信じられない。

なにをしてるんだこのオヤジ。



後頭部を鷲掴まれたのでは後ろに退くことも許されない。滑り込んできた舌を噛んでやればこの行為は終わるんだろうけど、それを躊躇ってしまうのは彼を傷付けたくないからであって、決しておれが名残惜しいからとかそういう訳ではないのだ…!

ああくそ…歯裏をなぞる舌が、ぶ厚い口唇が、熱い吐息が、すべて心地好い。

流されたくない。流されてしまいたい。







『…め、ッ……らめれふ、ってば…!』





言の葉は否定を意味しない。

本当に望まないのなら拒む方法はいくらだってあるのに、そうしない理由はおれだって分からなくもないさ!ああそうだそうだですよッ!

だってこんなチャンス滅多にないじゃない!(ワンチャン脳) 承太郎とキッスどころかベロチューなんて、こやつの気が違ったとしか思えない!!最初で最後のベロチューに違いないッ……違いないけど………








『(ブリスル。時間を、)』
「時を戻しても」





スタンド能力を発動するより先に、名残惜しげに銀糸を引いておれと彼の口唇が離れる。

心を読まれたようで思わず双眸を丸くするおれは漸く彼と目を合わせたのだけど、初めて見る熱っぽいその視線に堪らずまた下を向いた。







「さっきみてえに否定はしねえぜ。
時を戻したって、何度も。」

『ン、』





再び、くちびるが触れ合う。





「何度も。」

『あの、ン…ッ』





啄ばむように、慈しむように、ゆっくりと互いの口唇を重ねて、離れていく。







「何遍だって、おれはテメーにキスするぜ。」








たすけてくれ。

承認欲求を極限まで満たされた多幸感でおれの脳みそは完全に思考をストップさせている。

なにがどうなって承太郎スキスキ光線ラビューヤッホーをお気持ちだけ受け取らずとも拒まれずな状況が、お気持ちもお身体もまとめて受け取っていただく運びになった??





『どうして。』





おれは悩みたい。考えたいのに。

もしかしてなんて頭をチラチラ過ぎってる、この解答だけは有り得ないのに。












「好きだ、名前。」









あなたが口にしてしまったんじゃ、どこにも逃げられない。



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