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『うう〜〜〜〜ん んん〜〜〜ん…』

「唸ってねえでさっさと決めろ。」






パンケーキ案を一蹴されたおれは晩ごはんをどうするか悩みに悩んでいる。

ヤンキー設定によくある実は甘いものがスキとか小動物ラブみたいなの全然ないよなアンタさん。その素で漢(オトコ)貫いてるところがグレートだけど。







「明日も外食がしてえなら、今日の晩飯を3秒で決めるんだな。さん、にい、」

『せせせっかちが過ぎる!ファミレス!ファミレス行きましょう!!』





その明日がないから悩んでたっていうのに!

だがナイスな提案だおれ!パンケーキを食いながらハンバーグもステーキもパスタも食える!!
承太郎の肥えた舌には物足りないかもしれんが、いや、マック食ってたしな。心配ないな。






『秒数刻み出したから指へし折られるかと思った…!』

「また根に持ってんのか。」

『また?!俺がいつなんときドコでどう根に持ったっていうんです?!だいたい根に持つってヨォ〜〜!根っていう部分はわかる。スゲーわかる。土の中の暗ァ〜い場所で人知れず伸びとるからな。だが根を「持つ」ってのはどういう事』
「折るぞ。」





カウントダウンのトラウマだけじゃ飽き足らず最後までおれに恐怖を植え付けてくれるぜ承太郎!(だけどいい意味ではシビれないから優しくしてほしい)

今日飛ばされたりなんだりで色々あったし、ホントならホテルでまったりご飯食べたかった… 寝て起きて復活したのか? 寝呆けるくらいお疲れだったのにたった数時間の仮眠でフルチャージしたのか?

やはり戦場を駆け抜けた男は違うな。
すぐ人の指折ろうとするしな。違うな。







『ご、ゴリラの血液型はみんなB型なんですよ。』

「俺がゴリラだと言いてえようだ。」

『ひぇ!じょっ、承太郎さんB型なのは初耳でして!有益な情報を与えたら許してもらえるかと思いまして!!!決して承太郎さんのことをゴリラ呼ばわりなど!』






別にゴリラを蔑むわけでもないが、人類の至高である貴方さまに対して短気ゴリラ呼ばわりなんてするはずないじゃない…ッ!

なんとか雰囲気を和らげようと頭の中のメモをめくったのが良くなかったこんなにピンポイントで裏目にでるとは思わなんだ…





居た堪れないおれはそそくさと彼に背を向けて玄関の扉を開き、召使いのように廊下で扉を押さえて待っている。

ちらりと覗いてみたら、なんて事ない顔をして玄関先にかけていた帽子を深くかぶり、旅に出る主人公っぽくロングコートをバサァッと羽織ってこちらへ歩いてきた。(たぶんシャツを下からガバァッと脱ぐのと同じように、コレもやらないとイケメンは死ぬんだと思う)
おれが戸を閉めると、一呼吸置いて彼がポケットからルームキーを取り出す。







「………。」

『承太郎さん?』





静止したまま一向に鍵穴に差し込む気配がない。

怒っている風でもないし、なにを考えているのか見当もつかないぞ。
ゴリラとの共通点を見つけすぎて己がまことに人類であったか不安になってきたのだろうか。ゴリラもチンパンジーもマンドリルもホモサピエンスも同じようなものだよ承太郎。



なんて生暖かな目線を注いでいたら、








「今日は部屋で飯にしよう。」

『へ、でもご飯キャンセルしたって…』
「作らせりゃいい。」






そう言うと彼は再び扉を開けて、まるで巻き戻しのように玄関先のハンガーポールに帽子とコートを掛け直す。




なんだなんだ、なんだって言うんだ!

なにか察したんじゃないだろうな… まさかゴリラのくだりで?ゴリラにそんなヒントあったかな?!人がなにか嘘をついている時はゴリラの姿が頭に浮かぶとかいう深層心理があったりするのか?!!

おれに有無を言わせず早速とばかりに内線でルームサビースを頼む声が聞こえる。動揺のあまり小刻みに震えだす膝に喝を入れて、彼に倣うよう部屋に戻って扉を閉めた。







『なんで急に…?』

「なに、ゆっくり話してえと思ってな。
俺がこの街に居られるのも、もう僅かだ… 今後の話をしとかねえとマズい時期だろう。」






タイミングェ………!






『きょ、今日は色々あったし、今後の話は明日にしませんか?』

「時間が巻き戻ってんのがテメーのブリスルの仕業だった以上、明日からは時が流れるんじゃあねえのか?」

『じゃあまた戻して…』
「名前。」





鋭い眼差しがおれを射抜く。

足の裏が床に貼り付けられたように動けず指先まで固まったおれの身体の、誤魔化しにと吊り上げた口の端だけがピクリと痙攣し動いた。







「テメェには、テメーの世界がある。生きるべき時間はここにはねえ。」









わかってるようで、わかってなかったこと。

所詮おれは向こうの世界の人間で、彼はここの世界の人間で。

おれが生きるべきは、元いた世界に他ならなくて。






きっとバカなおれにもわかるように、わざと突き放すような言葉を選んだんでしょ。

おれが承太郎のこと大好きで、どんどんのめり込んでるの知ってるから、そんな言い方したんでしょ。





そしておれが、泣くと思ったろ!








『それもそうですね! 明日おれバイトなんですけど、夜も話せそうにないですか?』

「あ、ああ… そうだな。空けておくぜ。」





離れる覚悟は少し前にできてるんだよ!
見誤ったな承太郎ォ!!!

わかってるますともこの世界に執着すべきじゃないこととか、ましてやこっちのために元いた世界の時間軸ズラしまくるのは利己主義がすぎるぞテメーの地球じゃねーんだよって!

でもおれはとんでもなく貪欲で承太郎のいるこの世界と一分一秒でも長く繋がってたいし、出来ることなら母親を連れ出してここに住みたい。(とてつもねーエゴイストである)






『あーーあ、早すぎるッ! 寂しいです承太郎さんと離れんの。』





くるくると身体を回転させながら移動するおれは、もっふもふのお布団に勢いよくダイブをキメる。

おれの様子が変なせいなのか、はたまた夢(現実だけど)のせいなのか、承太郎の挙動がかなりおかしいよな?!不安しかない。おれは無事任務を遂行できるのだろうか…!

ベッドからはみ出した足をバタつかせてみても脳みそは急に回転を始めちゃくれなくって、流れに身を任せるしか選択肢はないようだ。







「おい…埃が立つ。それに布団に入るなら靴を脱げ、だらしねえ。」

『はーい。個人的には部屋に入る時点で靴脱ぎたいんですけどそれも慣れてきたし、承太郎さんに染められてゆくゥ〜〜… 』






俺は靴を脱いでベッド脇のシューズボックスに差し込む。

ああ〜〜〜今日ホントに濃すぎて床に就くとドッと疲れが押し寄せてくる… まどろみ……




寝ちゃダメだと分かっていても身体を起こすこともままならぬ…目蓋はどんどん重くなって、瞬きもままならぬ…お布団がふかふかすぎるのがいけないのだ…けしからん………

おれが数秒後には意識を手放そうというその時、ベッドのスプリングが盛大に上下した。おれの身体もそれに合わせて跳ね上がったけど、その程度では我が眼は開かぬ……なにかベッドに投げ込まれたのだろう…しかし眼は開かぬ……







「少し休め。疲れたろう」

『ヴォエエェ……ッ』






前髪を掻き分けられる感覚におれの全身の鳥肌がスタンディングオベーション。

反射に近いかたちで自らの両目をひん剥いたら、案の定キラキラしたイケメンが深い緑色の瞳を真っ直ぐこちらに向けて横になっている。



ちょっとぉぉ!!!!いい加減にしなさいよおお男子ィ〜〜ッッ!!!!!!
トキメキとかを超えて心臓に針を刺されてるみたいな生命の危機に見舞われてんのぉぉぉ!!!!うぉぇ…ッ!







『なんのおつもりなんですか…ねぇ…!』

「労ってやってるんだぜ。不満か?」

『意味がわからない……こんな労りかた知らない…もしかしておれたち付き合ってる……?』

「そうだな、付き合うか。」








は?








『ハアアァァァ〜〜〜〜ッッ??!?!』





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