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あの後、露伴はおれに合鍵をくれた。




「今夜、待っているよ。」




おれは別に、のらりくらりとしたくて1日の猶予を望んだわけじゃない。どうにも名残惜しくて、あと1日だけでもって、そんな未練から望んだことだ。

言い訳をするなら、逆にさ!断ち切るための今夜失踪決行だとして、それで最後の思い出を残せなくて一生後悔するってのもあるかもしれないじゃん?!おれってば終わり良ければ全てオーライなとこあるし!





『意地悪してるって感じでもなかったしなー…』





本当に良かれと思って言ったんだろう。
それにこれからはアイツに面倒をみてもらうんだ、それなりの誠意は見せなくちゃいけない。


きっと、おれは試されてる。








『まだ寝てっかなーー承太郎さん。』





そうだ、選択肢なんてないじゃないか。

承太郎に迷惑かけないって決めたんだから、おれが最後の思い出作りしたいからとか下らないワガママで覆すなんて有り得んのだ。

露伴の家に行くのは承太郎が寝てからだし、まだ今夜一緒に過ごせる時間があるだけいいだろおれ!ポジポジ!!














『ただい……ひぇへィィィ…ッ!』

「テメェ…」




部屋の扉を開けるなり、むにゃむにゃエンジェルだった外出前の彼はいずこ。すっかり身なりを整えた承太郎が般若のような形相(いやよく見たら真顔だから真顔が般若なのか)でおれを見下ろす。

えっバレてる?!!盗聴器とか仕掛けられて泳がされてたとか!?








「何時だと思ってんだ…!」


『えぇ………』





嘘だろこの歳になって門限がどうとかの話?
ひとりでどこほっつき回ってんだとかならまだしも、帰宅時刻が遅くて怒られているの…?!

そんなに遅くなったろうか。まだ日は沈んでいなかったはずなのに。そんなに寂しい思いをさせてしまったのだろうか。(いかん少々ニヤけてまいりました)

そう思って壁に掛かった時計を流し見ると、





『いや5時半!!!!小学生ですかおれは!』




おっきくなった徐倫にこんな過保護な真似したら嫌われるよパパァ!おれ相手にコレって愛娘となればもう、やれ何処に行く誰と遊ぶ親は何の仕事をしている挨拶しておくから連絡先を教えろとか言いかねないぞ…!

(モンペ化待ったなしって思ったけどその美貌でただの親バカほっこりな展開になりそうだから、暴れ出す前に奥さまどうか彼を止めてください)








「夢の中で、」

『ほ…ッ!』





かっかっかかか壁ドンだあーーーッッ!

この時代にも存在したのか…! さすがマッマの世代からおれたちの世代、更には中高生にまで、世代を超え幅広く愛されているだけはある。

そのイケメン指数や計り知れず空条承太郎ォ!(混乱がすぎるがゆえの解説)






「予感がすると。自分がいなくなったら、元の世界に戻れたと思ってくれと…お前が言った。」




いやっ、それ夢じゃないな??

あれだけハキハキと受け答えしておきながら盛大に寝惚けてたのか承太郎。願わくば、その前置きにあったおれの乙女すぎる欲望の垂れ流しタイムも夢と思っていてくれ。






「起きて姿が見えねえんだ、気が気じゃあなかったぜ……」
『ヒィ?!!』




おかしい。なにこの状況ぜったいおかしい。

承太郎がおれの頭に頬を寄せようとしてくるものだから思わず身を捩ってかわしてしまった…! だって怖いこんな現実あるわけない…ッ!!

ハッ…もしかして夢遊病なのでは?!
いやでも夢を見たとか起きてどうとか言ってるし、もう正直おれが夢であってほしい。いつもと様子が違いすぎてて甘い言葉を囁かれたところで恐怖しか感じていないよおれ。キュンとか皆無だよ。








「……逃げんのか?」

『いや、あの、逃げるというかですね…承太郎さん、なんか、とても……変、ですよ…?』






ねえ、気付いてんの!?
だとしても知らんぷりして黙って見過ごすヒトだと思ってたのに、嬉しいし厄介だし、複雑な誤算だ…!

おれが散ざっぱら欲望を飲み込んでるっていうのに(思い返してみたらそうでもなくて布団に突入したり何だり、結構欲望のままだったけどそれは置いておこう)、どうしてお前から仕掛けるようなマネをさぁ!!!



おれとセックスする覚悟があってそんなマネしてんのかぁ?!

おれはなぁ〜〜ッ!
そんな覚悟はねェーーぞぉぉ!!!!








「お前が悪ィ………」




らしくもない魂の抜かれたような弱々しい声でそう零した彼が、おれがせっかく身を捩って空けたスペースをなんて事なく埋めて、おれの頭のてっぺんに額を寄せた。

んおぉぉおぉ……?!!






『うわ見て鳥肌立ちました見てゾワゾワァ〜ってほら』

「…黙ると死ぬのかテメーは。」





そうだよいま黙るとたぶんお前に殺される。

おれがこの雰囲気に呑まれたらおしまいだ…可及的に話を逸らしていきたい。というかこの絶世の美男児によるアタックに対して果敢に対抗してるおれ本当に凄い。語彙力が低すぎてアレだけど本ッ当に凄いと思うおれ…!

しかし如何にしてこの壁ドン包囲網から逃れるべきか。








『あ、もうすぐご飯の時間ですね?』

「それなら、帰ってこねえかと思ってキャンセルしたところだぜ。」

『えっウソ待って夢でおれが変なこと言ったからって!あんまりです!現実のおれを見てよぉッ!!』





現実のおれが言ったんだけどぉ!

そして現実のおれは更に今宵、お前の不安を現実にせんとしているよ。こんなに承太郎が取り乱してくれるとは予想だにしなかったから、実行前から既に一抹の罪悪感に見舞われている…!

可愛がってもらってる自覚はそこそこあったけど、おれが考えてたよりもずーっと大切に想われてたんだなぁ。






『(でもね…おれもアナタが大切だから。だから、)』






口にできない懺悔の代わりに彼の背に手を回すと、鼻の奥がツンと痛んだ。

顔に出したら聡いこのヒトは気付いてしまうから、隠すように胸に顔を埋めるとおれの大好きな香り。忘れないようにたくさん吸っておこう。









『すはぁ〜〜〜…っだぁはぁぁ〜〜……』

「嗅ぐな。」






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