×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

29











「待ってたぜ。」

『ヒッ……!』




出迎えてくれたのは目的のその人。

なんとも歓迎ムードな言葉と笑みでおれを迎える。家でもバンダナしてんだね、知ってたけど。






「ひとりで来たのは予想外だな… 仗助のヤツに場所でも聞いたか?」

『まぁそんなとこっす…… 親御さんは?』

「ここには僕だけ…ああ、独り暮らしの男の家は緊張するって?」

『ううん!腕吹っ飛ばすよ!』





脅しじゃないぞ、という目で睨んだところでこの岸辺露伴はおれのスタンドを知る由もないわけで、棒読みに「野蛮なヤツだ」なんて言いながら肩を竦めている。

招かれるまま彼の家に足を踏み入れると、外観通りの独り暮らしには有り余る立派な作りだ。掃除がえぐそう。(第一印象)






「そう家の中をジロジロ見られるのは気分が良くないな。」

『いや、だって、でけーし…… 寂しくないの?』




ひとり暮らしってことは家に帰ってきても承太郎さんがいないってことだぞ?

あっ!おれ以外みんな居ないのか〜〜!大変だなぁ心中お察しするなぁ〜!承太郎さんなしで生きてるなんてすごいや!(これから失踪せんとする者の発言である)



質問を投げかけたときの彼が真底理解が及ばないといった表情を見せたから、寂しさとは無縁と悟った。そんな一般人とかけ離れた感覚でリアリティとやらは表現できるのか漫画家よ。






そうして仕事部屋を通り過ぎて、真っ直ぐリビングに通されたおれ。

第1関門的な感じで目の前に原稿出されるかと思ったけど、本当におれの頭を読む気がないのか。設定が変わりに変わって原稿を見せる必要がないからなのか何なのか。







『猫飼おうよ、広いし。』

「断る。仕事の邪魔だし、毛も散らばる。百害あって一利なしだね」

『そっかー。猫飼っていい?』

「これからキミを飼うか飼わないかって話をするんだぜ? 生憎他のペットには興味がないな。」





飼うとかペットとかドラァッ!

おれだって住まわせてもらうことになったら原稿手伝ったり掃除したり…… でもこの人インクをペシャァ!ってしたらベタが塗れちゃう世にも恵まれた能力の持ち主だし、このだだっ広い家屋の掃除とか想像しただけで逃げたい。イヤだ。

そうだな。ペットってポジション幸せだな。








『承太郎さんが居なくなる前にさ、おれも居なくなりてーの。』

「言ってる意味がさっぱり分からん。」

『おれがね、元の世界に帰れたよって事にして、スッキリこの街を去ってほしいわけ。お人好しが過ぎるから、きっと何かしらの手を打っておれの面倒みようとするだろうし…』

「へぇ、随分と懐かれてるじゃないか。」





残念だったな懐いてんのはおれの方だライクがラブに変化しちゃうレヴェルで懐いている!!!うう…

彼の記憶は消したくない。
時間に風化されていっても、ほんの一欠片だけでも、彼の記憶の片隅にありたい。

……という結論に至りましたわたくし!






「いいぜ。結果としてキミが手に入るなら、協力してやるよ」

『エロ同人みたいな言い回しやめてよぉ〜〜ゾワゾワァ〜…』





「こんな色気のないオス猫に僕が勃起するって…?」

『そうは言ってねーだるぉあ!!
KUAAA!嬉しいけど悔しいッ!』





自分以上のイカれ野郎になに言ってんだオメーみたいな顔されるのホントに腹が立ちますね!

お前はまだ隠してるつもりかも知れんがおれは知ってるんだからな貴様の奇行ぶりをッ!…いや隠してないな初対面から結構気持ち悪かったわ。







「念のため確認しておくけど、ゲイじゃないだろうな。」

『仮にゲイでも露伴先生は抱けない。いやそもそもゲイじゃない』



「ああそうかい。てっきり空条承太郎にホの字かと思っていたけど」

『………。』






えっ、読まれてないよね?

未来から来たのかとかぬかし倒した時もそうだけど、常識にとらわれずに状況証拠から仮定を導き出す能力長けすぎでは??

脅やかされているよおれ。思わず言葉が出ないよおれ。







「沈黙は肯定と取るぜ。」

『よせヤメろ。おれの心のパーソナルスペースに踏み込んでくるんじゃない』

「キミは本当に隠し事のできないバカだな。一周回って好感が持てる」





アアン?!褒めてんの貶してんのぉ??!
誰を慕うも憎むも蔑むもおれの勝手でしょ?!

安心しろよバンダナは性癖じゃないからさぁ!それ以上バカにしてみろお前のバンダナ細かく縦に刻んでフリンジ仕様にしてやるからな!!ボヘミアン岸辺っていう売れない芸人みたいなアダ名で呼んでやる!




そう胸の内で罵声を浴びせたところでおれは深呼吸をひとつ。こんなサイコパス相手に激昂するのは徒労に他ならん。ゆえに、ここはおれが大人になろう…!







『ゲイじゃねーし、ただあの人が大切なだけ。茶化すなら茶化してどうぞ』

「付き合わないのか?」

『センセーのお付き合いの定義どうなってんの!? 交際ってね、基本的には両想いの男女がするものなんだよぉ!』






男女でもなければ当たり前のように片想いだし、お前はご存知ないかもしれないが彼には妻子がいるんだぞ??

自分が好きだから付き合えるって何そのハッピーな世界。もしかしてヘブンズドアーありきの話してる?!!こわーーー!








『取り敢えず明日の夜からお世話になりたいんだけどご都合いかがでしょーか。』

「今日だ。」

『強打? は? あ、兄弟? これからおれたちは兄弟みたいな??』





あっテメーー随分な態度取るじゃねーの!

お話になりませんわと言うように首を横に振っているボヘミアン岸辺。吹き替え入れんぞコラァ!「ンン〜〜〜ッ今日のバンダナは痒いなぁ織り交ぜたカナブンの足がチクチクするなぁンン〜〜!(頭ブンブンカナブンブン)」






『んふ…』

「キミってどこか僕のことバカにしてるよな。
決行は今日だって言ったんだ。付き合う気がないなら、さっさと慕情なんて断ち切った方が良い」

『え。』






今日。

おれは今夜承太郎といつも通りに過ごして、それをぎゅっと噛み締めて、忘れないように噛み締めて、お別れするつもりだった。



でも露伴の言うことも最もで、今生そんな行き場のない恋心を持ち抱えていくのなら、おれはこの気持ちを捨てる道を選んだ方がずっと楽なのかもしれない。

今夜去ろうと明夜去ろうと、きっとあの人にとって大差はないし。








「キミが消えるって決めたんだ。腹を括れよ」





.