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時刻は昼下がり。
おれは杜王町を宛てもなく闊歩している。
いや違う、宛てはあるんだ。目的地は存在する。
が、しかし……目的地への道順が1ミリたりともわからない。取り敢えず以前に承太郎さんと一緒に街まで出たときの道を思い返しながら歩いている。
そろそろ学生たちが帰宅し出しても良い時間帯じゃない?都合良〜〜く仗助とかがサザエさん弄られて喧嘩とか始めてくれてるとすごく助かるんだけど、なかなか上手くいかないようである。
『ア〜〜〜帰れなくなっても困るしなぁ。』
まぁ道を聞けばホテルには帰れるか。 じゃあもっと遠くまで行ってもまぁ帰れるっちゃ帰れるワケだ!
…がしかし、何とかなる気がしてろくに書き置きもせず出て来たから心配されそうなんだよ。携帯ないって不便よね。
と思った矢先ですがよくよ〜〜く考えて!もう心配される歳でもなかったおれ〜!
一応ブリスルもいるからヤンキーくらいなら撃退できそうだし、やっぱり何とかなる!(生まれてこの方、拳を交えた喧嘩をしたことはない)
『ンァ〜〜〜〜ッッ!!!!!』
※ 街中で大きな声を出す行為は周りの迷惑なるだけでなく、あなたの人格を疑われます。絶対にやめましょう。
『キミ、あのっ、えっと〜〜…』
おれはバス停で学生たちが降りてくるのをじっと見ていた。待てよ仗助はバス通学してなかった気がする…と諦めたその時である。
現れたのだ!この!キーパーソンが!!
しかし困ったことに名前が思い出せない。いや下の名前は分かるんだけど名字がわからない…ひ……平井…なんか違う。ひ…ひ……日番谷……ハハ、おふざけが過ぎるな。
『…康一くん、だよね?』
声を掛けたその子は、おれのターゲットになることによって周りから浴びせられるチクチクとした目線に肩を竦めながら、警戒心MAXに横目でおれを見た。
ごめんね大きい声出したのはおれも恥ずかしかったからそんな危ないヒトじゃないから。
「そうですけど……どちら様ですか?」
『急にごめんね。おれ、苗字って言います。いま空条さんのホテルでお世話になってるんだけど』
「空条さんの?」
そうそうこうして少しずつ安心要素を与えていくのだ。
警戒心の減少を確認!良い調子だ!
ところで康一くんの背丈が予想以上に小さすぎてこのまま前屈みで話すの結構腰にクるんだけど、屈むってのも小さい子相手にしてるみたいで失礼だよね??
体幹の弱さには自信がありますッ!
『露伴先生に用事があって出てきたんだけど、地図を忘れちゃって……場所、教えてもらえないかな?』
「…………。」
『…康一く』
「怪しい。」
ンンン〜〜〜〜ッッ?!!?!
昨今の現役高校生警戒心強め〜〜ッ!
そうおれは何を隠そう露伴の家に行ってこれからのお話をさせてもらうつもりだった。アイツの好奇心につけ込み良い様に利用させていただく商談を交えにいくつもりだった!
なにが怪しいの?!! 承太郎っていうパワーワードがあれば信じるって思ってたのに!そんなにヒトを疑ってたら人生損だよ!損ッ!
「空条さんから露伴先生にアクションを取るのもあまり想像が付かないし、こんな所でタイミング良く僕に声を掛けるのだって不自然だ。」
いや確かにな。
承太郎のとこで世話になってるって言ったらお使いかなって思うよな。それにおれもこんな所にキミが出現するとは予想だにしなかったから言いたいことはわかる。
「アナタ、ただの露伴先生のファンなんじゃないですか? どこで僕が彼の家を知ってるって聞いたのかわからないけど、家を聞き出すなんてストーカーで警察を呼ばれても文句言えないですよ。」
『ホォ……?』
そのしたり顔をヤメロォ!
ちょ〜っとスタンドが使えるからって怖いもの無しにヒトにズバズバ物を言って!
確かにごもっともですよあくまで彼も売れっ子漫画家だしそういったファンがいても変ではないがだがしかしッ……
お前と露伴の出会いも似たようなもんじゃねーーーかッ!!!
自分のことは棚に上げやがって悔しいィィ!アイツのストーカーだと思われたことが何より悔しいウガアアアア!!!!!
『これで少しは納得してくれる?』
おれはブリスルを肩口に具現化して指をさす。
そういえば康一くんのところのエコーズも自我ある系スタンドだよね。ちょっと親近感…もしかしたらこの辛さを分かち合えるかもしれない……
そう思いながら、期待を込めた眼差しで彼を見ると
「な、何なんですかアナタッ……まさかそのテディベアに露伴とでも名付けてるんじゃ…」
しぬっっほどドン引きされている。
もう嫌よ何でそんなファンシーな見た目に生まれてきたのウチの子?!お陰でドヤ顔でスタンドが出してもドン引きされるか和ませるかの二択になっちゃうの!
ドドドドド……や、ヤベェ臭いがするぜ………みたいな顔させたいよぉ〜〜ッ!!!
そして康一くんも康一くんで偏見にも程がある。なにテディベアに露伴て名付けてるってド変態の所業じゃん……
そういう認識ってことかァ〜〜そっか!
「さっさと岸辺露伴の家を教えてほしいんですの。日が暮れますの。」
『えっ』
「ひぇぇ〜〜〜ッ!!!??」
えらい協力的じゃんどうした。
いやその掻き乱しかたを協力的と言っていいのか難しいとこだけど。
「そんな腹話術まで覚えて……」
『気付いてそこはッ!?
この子はおれのスタンド、ブリスル。』
「頭が高いんですの。」
『いやお前だよ。』
おれ見た目はひ弱だし安心感あるつもりだったんだけど、敵のスタンド使いとか出てきちゃうと安易にヒトを信じたら危ないもんなぁ。大変なんだよなキミ等も。
見た目じゃ分からんもんなスタンド使いとか……それは疑心暗鬼にもなるよ!口にはしないが、いけ好かないガキだなんて思ってゴメン!!!
「スタンドなんですか?それ…」
「誰に向かって指を向けてるんですの?!」
『お前キャラぶれっぶれだよどうなりたいの?!承太郎さんみたいに腕吹っ飛ばしたりしないでね!!?』
「う、腕ェ〜〜ッ?!!」
『アアッ違うの!ちゃんと戻したし治ったよぉ!』
いまの決して脅しとかじゃないの!素直に言うこと聞かないと腕吹っ飛ばすぞワレっていう意味じゃないのよ!!
ああ結局拗れるんだこうやって……
いまのはおれが悪いけど……もう全部おれが悪いんだ…うっうっ……
「…わかりました。案内します、露伴先生の家へ。」
おお!心が通じた!
瞳に些か同情を孕んでいる気がするが、おれの気のせいという事にしよう。…それにしても、
案内します、露伴先生の家へ。(そろり…)
ププー!門番かなー?!お待ちしておりました…がないのが少し寂しいが的確におれのツボをついてきた。合格ッ!
「うむ。」
そうしてずんずん町の外れへ外れへと歩くおれたちが辿り着いたのは、ご丁寧に"岸辺"と表札の下がったなんとも立派な洋風の一軒家。
え?実家暮らしなの彼??
待ってくれそれは考えてなかったし実家暮らしなのにおれに一緒に住めとか申したのアイツ?ろくに女も作らず男を住まわすとか親不孝か??(オンナ云々は正直定かではない)
「じゃあボクはこれで……」
『あれ、帰るの?』
「ボクは特別用件もないんで。」
面倒事には巻き込まれたくないって顔だ。
そうだな。数々の面倒事に巻き込まれた挙句スタンド使いになり最終局面には仗助を差し置いて承太郎にキミに出会えてよかったと言われる康一くんだもんなぁ!!!!
誰1人欠けてもさ〜〜!!ダメだったと思うけどォ?!!?!あの局面においてたしかに康一くんの活躍は一際輝くものがあったけどォォ〜〜〜ッ!!!!!!!(収集がつかなくなるのでこの辺りで深呼吸)
そうして彼は踵を返して再び帰路に着く。
おれはそっと木陰に隠れてもう一回深呼吸。
『ブリスル。』
「はいですの。はぁ〜良心が痛みますの〜」
どの口が良心とか言ってんだ!
本当にお前は一言も二言も多いな!たまには静かにおれの望みを遂行してほしいよ!!
「あれっ、ボクどうして露伴先生の家に……… おかしいなぁ用事はなかったはずなんだけど…」
恩を仇で返してごめんよ康一くん…おれが今日ここに来たことが承太郎に伝わることは何としても避けたいのだ…!
おれだって良心が痛むよチクショ〜〜ッ!
そうして彼の後ろ姿を見送ってから岸辺家の玄関先に再臨いたしましたおれ。
お母様とか出て来たらどうしよう…… どんなご両親から産まれたのか多少気になるところではある。そしてもし今後の相談をするとしたら第一印象はバッチリとキメていかなくてはならん!
「あの子と会う前まで戻して、1人でここまで来たら良かったんじゃありませんの?」
『おれもそう思ったけど、予想以上に遠かった。』
もっと近場に住めよ。
そう思いながら岸辺家のインターフォンを押す午後4時の異世界人とテディベアであった。
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