O2
「…五秒毎に指を一本へし折るぜ。早くスタンドを出した方が、身の為だな」
と言われましても。
これは夢なんだから俺は指折られたって痛くはないけど、痒くはあるんだ。手が使えなくなるなんて痒すぎる!
対応に困ってだんまりだった俺に掛けられた彼の言葉はまさかのカウントダウン。
5…4…3…と、ゆっくり、低い声色で。
『待って待って待て待て!
俺は気付いたらここに居ただけで不法侵入ってんなら謝りますけど、指折るとかあんまりですよ!』
やっぱり折られたくはない!
くっそー…俺の中の空条承太郎と言えば冷静沈着で判断力にも長けてて、人がいきなり現れたからって一概にスタンド使いだなんて決め付けたりしないはずなのに!!
もしや平静を失わせる程の何かでもあったのか。
ハッ!ま、まさかその年で、今朝寝小便しましたとか…
「今、浮いてるか?」
『‥‥へっ…あ、はい。浮いてますね…』
寝小便疑惑で反応が遅れた。バカヤロウ俺、彼はアイドルだぞ小便なんてする訳ないだろう。
今現在、正確にはスタープラチナによって持ち上げられてるんだろう。
けどスタンドの見えない俺には浮いてるという見解の方がしっくりくる。
何故見えないのだ俺!!
夢なんだぞ、スタンドの一つや二つや三つや四つ身に付けてくれよォ!
「…すまない。」
そっと、まるで壊れ物みたいに俺の身体が床に下ろされた。
スタンドの射程距離云々を考えてか俺とある程度の距離をとっていた彼が、それこそ真ん前まで歩み寄ってきて、その迫力に持ち上げられてる時よりも身体が強張る。
「良ければ、ここに来た経緯(いきさつ)を話してくれ。」
存外優しい目で問いかけられると、少しだけ肩の力が抜けた。
白い服着てるって事とこの紳士な対応から、多分四部あたりの承太郎か…
良かった…三部なら寝る前に我慢した尿意をぶちまけるとこだ。
『言っても俺、ほんとに目が覚めたらここに居て…さっき家で寝就いたつもりだったんです。』
こんな素直に答えていいのか俺。キチガイ扱いされやしないか。
おどおどしてると怪しまれるのは解ってるけど、指へし折るぞとか脅された手前平常心とか無理だ!
「‥‥‥‥。」
『あ、の…?』
黙るなよお前!
俺の不安なんてどこ吹く風か!こんな夢の世界じゃ帰る場所もないんだぞ天涯孤独なんだぞ!!うわあああ
「ああ、すまん…
キミが此処に来てしまった理由はおそらく俺のせいだ。」
『‥‥‥。』
「引くな。おそらくと言ったろう、誘拐じゃねえ。」
良かったー焦ったー…
あんまり表情変わらないから何考えてるか解んないんだよ!!
もしかしたら青年趣味とかあって、手ェさすさすしながら「勃起‥‥‥しちまってな。」とか言われるかもヒイイイィィなんて考えたよ。
『ごめんなさい。』
変なこと考えて。
「詳しい事は話せねえが、キミは安全に家まで送り届ける。」
『イイエ自分デ帰レマス!』
「そいつは出来ない。また危険が及ぶかも解らねえんだ、素直に送られてもらうぜ。」
『アメダス!!あっ、ダメデス!ダメデス!!』
動揺なう!
どどどうしよう家なんてありませんなんてオカシイよな…そもそも寝間着で寝てましたとまで言ってるんだから家がない訳ない。
彼の事だから俺の家が例え日本の裏側にあったって送り届けるだろう。SPW財団とかの力で。
『少しだけ、此処に置いてください…!お願いしますッ!!』
THE ジャパニーズ土下座
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