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O1








目が覚めた。
気分は最高にローってやつだ。



原因は朝日が眩しいからでも腹が減ったからでも寝過ぎたからでもなくて、悪夢をね、見たんです。

怖がりな俺は暗い夜道に後ろは振り向けないし、正直夜に一人でトイレに行くのも勇気がいるってのに。




ああ、あんな本読むんじゃなかった。






『うわ。』



どうりで悪夢を見るわけだ。

視界の手前には枕の下から単行本が一冊飛び出していた。好きな子の写真と同じ用法である。







不意に尿意に襲われたがこのタイミングでトイレは、ちとキツい。

起きて失禁してましたなんて年齢でもないので、枕の下から本を引き抜いて床に投げ捨て、携帯を掴んでからもぞもぞ布団に潜り込んだ。

ボタン一つで容赦無くブルーライトを浴びせてくる携帯の攻撃を受け、盛大に顔をしかめ即座に閉じる。






『寝る前にジョジョは、二度と読まない。』




決意を言葉にして深呼吸をひとつ。

夢の内容は記憶にないが原因は排除したのだ。もう大丈夫だなんて一人安心して、俺はまた眠りに就く。

























可哀想な俺。


根源を排除したってのにまた夢の中にいる。あろうことか今度は夢を夢だと把握できてる。

ほっぺたをつねってみた。
案の定痛みはない、ただ摘まれてる感覚だけ。




『まぶし、』




真っ暗闇のなかで手にしていた携帯を開くとこれまた眩しくて、直ぐに逆向きに持ち換え辺りを照らした。




そういえば、携帯。

夢の中だってのに寝た時に持ってた携帯電話までそっくり反映されてる。
服もパジャマ代わりのスウェットとTシャツのまんまだ。

なんか夢らしくなくって、やけにリアルで、ちょっと気持ち悪い。








『うぉわ…っ!』




ふわりと足場を離れ身体が浮き上がる。

現実ではあり得ないその現象に感動半分、焦燥半分。
ぱちぱちと二回瞬きをしてから地面に戻りたいなと下に目線を遣ったら暗くて足場がよく見えない。



下に穴でも開いてたらどうしよう。
なんて考えたけど地面に落ちた携帯がわずかに床を照らしていたので、この暗闇に落っこちる心配はないようだ。





『お、降ろして。ゆっくり降ろして…』




ぱたぱた手足を揺らしたその刹那、辺りが馴染みある光に包まれた。

陽の光じゃない。
やたらと目の奥につんとくるこの明かりは恐らく人工的なものだ。

そうして光の源が蛍光灯であり、同時にここがホテルか何かの一室だと把握するのに時間はかからなかった。
















「こんなに近付かれるまで気付かなかったとはな…」




浮いてるとは言え見えない何かに腰が固定されて振り向くことの叶わなかった背後から言葉が投げられる。

たぶん部屋の明かりを点けたのはその人で、暗かったし俺は寝ている間にお邪魔してしまったのかもしれない。
突然ここに放り出された俺には言い逃れの術もなく、ともかくこの奇妙なセキュリティシステムを早く解除してほしい一心です。






『あの、降ろしてくれませんか。逃げないですから…』

「テメェのスタンドが解るまで、その願いは聞けねえ。」

『ええ…俺の行きつけのスタンド、近所のセルフですけど……』





そんな事を知ってどうするつもりなんだろう…
アンケートを取るにしてはやり方が物騒過ぎやしないか!こちとら危うくパンツ濡らすところだよ。







靴の踵が床を叩く。

ゆっくりと近付いてくるその音に、部屋で靴穿くなんて汚いだろと人知れず顔をしかめた。

その二秒遅れて、もしかしてここは日本じゃないのだろうかと思い至って、それでも相手はご丁寧に日本語で話し掛けてきてくれたしと、考えるほど頭がくちゃくちゃになる。






「…もう一度言う。テメェのスタンドが解るまで、俺は降ろしてやるつもりはねえ」

『だから‥‥ぶうぅッ!!
あっ…あー!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!』





そろそろ宙ぶらりんにも慣れてガックリ項垂れていた頭を持ち上げ、正面に来てくれた彼を…見なければ良かった。

動揺のあまり顔面目掛けて吹き出した俺の行為は彼からすれば故意に映る他なく、血の気がサーッと引いていく。



だって仕方ないのだ!
俺の反応は妥当なのだ!











「…五秒毎に指を一本へし折るぜ。早くスタンドを出した方が、身の為だな」






えげつないよ、空条承太郎。


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