×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

26










自分で言うのもおかしな話だが、おれはそれなりに空気の読める男だ。

しかしまぁ、空気を読むっつーのは自分の中にモラルやら世間の常識やらってェ知識があって可能なことであってヨォ〜〜…






「‥‥‥。」





叔父とこの間紹介されたばかりの若い男が同じベッドで寝ているときは、ど〜〜するのが正解なんだァ?!

思えば腕を組んで外を歩いてた事もあったぜ。
てっきりこの男が一方的に纏わりついてるモンだと思ってたが…




『う、うう… ぐるじい…』




完全に承太郎さんが抱き竦めてる。
ほぼホールドしてる。

何だってこんな時間から寝てんだって疑問はさておき、このクレイジーな状況を打破する方法が分からずに、おれがこの場に立ち尽くしてもう10分が経過しようとしていた。








…〜〜〜♪ 〜〜♪




突如鳴り響く音楽に思わず身体が跳ねる。

音の主は何てことはねェただの小さいテレビのような機械で、静寂の中に容赦なく音色をぶち込む。






『あ〜〜〜さ〜〜〜〜… えっ。』





カーテンから光の漏れる薄暗がりの部屋の中。

目が、合った。






--------------------------









けたたましいアラーム音が聞こえる。

この音を聞くともう身体が覚えちゃってて、否が応でも反射的に目が覚めてくるからヒトって恐ろしい。




それでもやっぱり重たい瞼をゆっくりと引き上げて、ああ承太郎さんのホテルだ、まだ明るいな、仗助やっぱり身長でけーな、なんてポツポツと覚醒しきらない頭がぎこちなく回転してる。



…あ?







『えっなにこれどういう状況。』

「はよッス。」

『あ、おはようございます… は…?』





なんでこいつココに居るんだ。

めちゃめちゃにガッツリ承太郎がおれのこと抱き竦めてくれてるんだけど、なにこれ仗助の仕掛けたドッキリ??

お前は何も知らないだろうけどこんなのおれからしたらご褒美に他ならないからね?






『東方くん。たすけて。』





マイサンが喜び出す前に早急に助けて。

いまでこそ承太郎相手にボッキしたことはないけど、これからおれの脳みそが彼のことを下半身と直結する可能性がゼロとは言い切れない。

おれはそれが心底恐ろしいから一刻も早く助けてくれ頼む。







「承太郎さん起こした方が早ェっすよ。」

『そうなんだけど…こんなにぐっすりなのも珍しいから、ちょっと気後れするよね。』





そうだ、人一倍気配に敏感な彼がこれだけ会話のキャッチボールが行われている中で目を覚まさないなんておかしい。まさか息を引き取ってるんじゃないだろうな。

なんて縁起でもない事を考えたけど、すぐに耳許に規則正しい寝息が届いて肩を撫で下ろす。






『キミのクレイジーダイヤモンドでガッてやってサッて出来ないの。』

「それこそ起こしましょーよ…
アレレレェ? なーんでアンタがおれのスタンド知ってるんすかァ?」





気付いちゃいましたァ〜〜みたいなしたり顔をやめろ。

お前は露伴ディナーのとき散々おれに友だちアピールしときながら欠片も信用してないの? 正直おれ相当か弱いオーラ出てるし、承太郎が傍に置いてるってだけでも安心要素それなりにあると思うんだけど??






『ブリスルー。』

「はいですの。この小童に目にもの見せてやりますの。」



『えっ待って急に物騒だけどなに?むしゃくしゃしてる??』






おれが数々の片想いホモアクション起こしてるから?
向こうの世界いた時もめっちゃこっち見ながら舌打ちキメてきたもんね? 普通は舌打ちって相手の顔見ながらするモンじゃないからね??

我がスタンドながらおれのマインドでは思いもよらない事を軽々とやってのけるこやつに、一抹の恐怖すら覚えています。








「しゃ、べった…… アンタのスタンド能力なのか…?」





そう!おれのスタンドはぬいぐるみさんに命を与えられるんだヨォ!

ってバカァ! 見掛けによらず脳内ファンシー構造なのォ?!
たしかにおれの精神パワーだとそれ位がお似合いではあるけど、なにそういうこと? スタンド能力にまで固定観念あるの?こいつ(自称)新型なんだよ??







『いや、おれの能力は』
「アリーヴェデルチですの!」



『精子の真似事はやめなさ……ひぇ…!』






マズイことになった。



いまブリスルは精子スーツの幹部さながらのセリフと共に能力を発動したわけで、目の前にいた小童に目にもの見せてやろうとしたわけで。

だからといって水族館のお魚みたいに時が巻き戻ってショタ仗助登場〜〜!ってこともなく、その姿は今朝のものなのか昨夜のものなのか、はたまた昨日の朝なのか数日前なのか。

(この世界はスタンドの抵抗があるらしいから、巻き戻す力はきっとそんなに大きくないはず)








「テメェ…おれの頭になにしやがったッ……」







へえ〜〜〜ヘアセット前の髪の毛ってそんなに長いんだ。リーゼントスタイルって毛量が必要なんだなぁ。
なんて思いながら見据える彼の額には、いまにもプッツンせんばかりに青筋が浮かび上がってきている。

頭に何したって聞かれてるということは、ブリスルはわざと毛髪だけをセットする前の状態に巻き戻したってことだろうか。どうしてそう的確に地雷を踏み抜くのかこのぬいぐるみ風情は。






『髪下ろしててもカッコいいなぁ〜!』

「いまそっから引っ張り出してやるからよぉ〜〜…面貸してもらうぜカマ野郎ーーーッ!!」




『アアッやっぱり聞こえてない!ぶぶブリスルゥ!助けてッッ!?』






助けてっていうかお前が原因なんだから責任持って処理してくれおれに丸投げとか対応できかねる!!!

カマ野郎とか意外と傷付くから少しキツめに仕返ししてやってほしいけど自称新型は果たして旧型(と言っていいものか)よりパワーアップしてるのか?単に本体に干渉できるようになっただけだったりして??






なんて思考をぐるぐる巡らせてる間にも、おれの姿が目に入っているのかいないのか完全にプッツンした仗助が真ん前まで迫り、遂にはクレイジー・Dを具現化し出した。



けど、







「えーーと…お二人はいつも同じベッドで寝てンすかね…?」






拳が飛んでくると思ったのに、降ってきたのはヒソヒソとしたトーンでこちらを伺うような声。

面を喰らったおれは零れんばかりに目ん玉を丸めてから、一向に把握できそうにない現状を理解すべくブリスルに目線を送る。
否、送りたかったがブリスルの姿は見当たらずに、左右交互に首を捻っただけだった。

(物事にはちゃんと最後まで!最後まで責任を持つべきだと思うぞ!)







「なんでココにおれがいるのかってェーー顔スか?」

『えっ、ああ、うん!びっくり…した……』

「珍しく承太郎さんが電話に出ねェからよぉ〜〜ッ…ちっと心配になって見に来たんスよ。」





おれの声が届かない程に激昂していた彼は何処、普段通りの温厚な仗助が安心したぜと安堵に眉を垂らしている。


やっぱり隔絶された世界にいる間にも本人不在のまま同じように時は流れていたんだ。

承太郎を連れて行くのは控えよう。仮に何かがこの町で起きてしまっても、スタンド抵抗のある世界じゃあ1日まるっと時を戻すなんてできないだろう。(そもそも連れて行ったのもわざとじゃないけどな!)




はてさて、なんてことない顔して状況説明をしてくれてる彼だが、この素振りはもしかすると…






『今日は髪下ろしてるんだ?元がいいと何しても似合うよなー。』





おれは素知らぬ顔をして、垂れた彼の髪をひとつまみ指に乗せる。


これは賭けだ。


そしておれの手を払わんばかりに大仰に身を離した仗助の行動は、おれが賭けに勝利したことを意味するッ!






「ウソだろぉ…… あ、雨に濡れても崩れねぇおれのヘアースタイルが…こいつはヤベーすよぉ〜〜ッ!」





逃げるように部屋を出て行った仗助の顔は絶望と羞恥の入り混じった赤面で、たぶんおれの前で恥部を晒したってあの子はあんな顔を見せはしないだろう。

不謹慎だけれど少し得した気分だ。




きっと拘りのリーゼントスタイルのために30分は余計に早く起きて、何度も何度もクシとハードスプレーで固めたんだろうにと一抹の罪悪感はあるが……

長めの髪にパーマかけてその色男ってさァ!!美しすぎてちょっとドキッとしちゃったし、確かに周りのためにはあの頭でいいのかも!!!!!!人目に触れる前に早く帰っておれのせいだけど!!






『はーーなんかすげーつかれた……』





仗助がとんと大人しくなったのは、脳みその記憶ってヤツを巻き戻したからだろう。
(どこまで戻したのかはわからないが、あの様子だとおれがスタンドの話をするより前だろうな。)

戻した時間は、復元できない。
新しい時間に書き換えられていく。





『(おれは少なからずこの人の負担になってるんだよな。)』




この人にとっての最良は、おれがこの世界に飛ばされる事もなくなって、互いに以前と変わらない生活を送る事かな。

でも承太郎の傍にいられる一週間という期限内にそう都合よくこの現象から解放されるっていうのも、ここまで往来を繰り返して希望が薄くなってきた気がしてる。




欲張りめおれめ。

帰れなくても承太郎なら少しくらい傍に居させてくれるかもなんて気持ちが、いつまでも心の隅っこにいる。
一週間きっかりって決めたくせに、なんて軟弱な意志なのだ。貧弱…貧弱ゥ……うぅ…




『承太郎さん……』




背中にくっついてる彼にそっと声を投げてみても反応はない。でも後ろから確かに彼の匂いがする。



大切なひと。
この思い出よりも何よりも。











『なぁ、ブリスル… 記憶って、何日間まで巻き戻せる?』







.