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それからお土産やさんに寄って、おれは限定のクッキーやらおかきやらを見漁り。

承太郎がなぜか愛らしいチンアナゴのぬいぐるみとにらめっこをしていたのだけれど、徐倫にでも買っていくつもりだったのだろうか。それにしても、普通にペンギンとかイルカで良いんじゃないのか悩めるパパよ。



そうして長いこと難しい顔でチンアナゴと対面した挙句、彼は先にお土産やさんを後にしてしまった。







『お待たせしました。さっきのぬいぐるみ、買わないんですか?』

「(見てたのか…) ああ、この世界の事が知れると厄介だからな。」

『おれ向こうにゲーム機とか免許証とかバリバリ持ち込んでるし、そこまで気を回さなくても平気だと思いますけど…』





それでファンタジーな思考回路の漫画家に軽くバレたけど、あんなプッツンした奴そうそういないはずだ。




『お子さんにあげるんですよね? 手許に残るわけでもないし、大丈夫ですって。』




はい、と彼に突き渡した袋の隙間から白くて憎めないお顔のチンアナゴがはみ出している。

んん〜〜〜ッ!
その鳩が豆鉄砲を食ったような顔ッ! はーー
ベネ。ディ・モ〜〜ルト!ベネッ!





格好つけたかった云々じゃなくて、そういえばこの時代の通貨持ってんのおれだけだし買うに買えなかったのかなって思って。
承太郎も手持ちあるだろうけど札にして札にあらずというか、本物だけど偽物というか。


あと徐倫と繋がりを持ちたい。(核心)







「娘の話はしなかったと思うが…」

『このチンアナゴが個人的に欲しかったとは思いたくなかったので。』



「やれやれだぜ… 鈍いんだか聡いんだかな。」






困ってんだか呆れてんだか分かりにくい表情で承太郎が溜め息をひとつ。

お子さんにあげるんですよね、なんて断定的な訊き方しちゃったから焦ったー… 案の定突っ込まれたけど承太郎もいい年だしサイコーにイケメンだし子供のひとりやふたり居ておかしくないって解釈は間違ってないよな?!

(いい年だしとか言いつつ実際4部の承太郎が何歳だったのか記憶にないので見た目で判断をしています。)







ありがとう、と短くお礼を言ってチンアナゴを受け取る承太郎。その口もとに微笑みを讃えし!承太郎ッ!!

でかしたぞチンアナゴォォ〜〜〜ッ!







『今度娘さんの写真見せてくださいね。』
「生憎持ち歩いていない。」

『ぜったいウソだ! そんなこと言いながら手帳とかに挟んでるんでしょう!」
「‥‥‥‥。」
『あ、図星の顔だ。戻ったら見せてくださいね!ね!?』








気が向いたらな、なんて言っておれを軽くあしらう承太郎は踵を返す。その横にぴったりと付いて歩きながら水族館を後にした。

この短時間で新しい扉をぶち開けてやったぜ…
いつもなら自己嫌悪でお母さんに合わせる顔がないトコロだけど、不思議とそんな感じでもないんだよなぁ。





肩を並べて歩きながら心のまんまに好きですなんて彼に伝えられるこの状況を、悪くないないなんて思ってる自分がいる。

承太郎からすれば迷惑極まりないだろうけどこうして居られるのも残り数日だし、そこはもう我慢してほしい!おれのために!










『まっすぐ戻っていいですか?』

「ああ。付き合わせて悪かったな。」




車に乗り込むと、ヒザにチンアナゴを乗せてる承太郎が愛らしすぎて顔の筋肉がひくひくしてきた。

後部座席に置いたらいいのにお前ってヤツはヨォ〜〜〜!!!






いまは何時で、家に着いたら何時かななんて確認のために、おれはふとポケットに突っ込んでたスマホのディスプレイを明るくする。

そういえば承太郎に連絡先聞いてない。

いやいや聞いたところでこの携帯は向こうじゃ使えないし、そもそも向こうの時代の携帯電話ってまだ進化したポケベルみたいなレベルだよな。そんなオモチャじゃおれとは渡り合えないぜ…







『(あれ、)』




携帯が使えないってやばくないか。

連絡手段がないから承太郎はいつでもホテルに居たんだ、いつ仗助たちから何かしらの信号が届いたっていいように。こんなことしてる間にも杜王町でなんか事件が起こってるかもしれない。

おれは呑気に思い出作りとか考えてたけどきっと承太郎はそんなの端から頭にあって、そのリスクを承知で外に出たっていうのはたぶんこの世界のことを知るためで。





『(このヒトは、おれを)』





完全に元の世界に戻す方法を探ってる。

突然起きたこの不可解すぎる現象がいつ終わるのかも分からないし、露伴の言ってた通り先のことを考えるべきなのかもしれない。





だったらおれ超自分勝手だ!
まだ承太郎と一緒にいたいとか向こうの世界でも遊びたいとか、そんなことばっかり考えてた。あと4日なんて流暢に期限設けてる場合じゃないっつーのに。








「おい、青だぜ。」



彼の言葉と後続車のクラクションが急かされ、慌ててアクセルを踏む。




『すみません、晩ごはんのこと考えてました…』

「なんか食いてえモンでもあるのか?」

『ハンバーガー以外ならなんでも!』




違いないと少し口の端を上げて告げる彼は、いまなにを考えているんだろう。











『(これもきっと、自分勝手だけど)』




あと4日で打開策が見つからなかったら、彼のもとを去ろう。


まるで元の世界におれが無事帰れたってみたいに。
まるで始めから何もなかったみたいに。








『承太郎さん、今日すげー楽しかったです。ありがとうございました。』







それまでは彼と居られる一分一秒に感謝しながら、あなたに忘れてもらうための準備をしよう。





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