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つぶつぶが流れ込んでくる。
魚卵がころころと下の上を転がって、口いっぱいを埋め尽くす溶液。俺の口内を守るヘパリーゼたちに勝ち目はなさそうだ。
「おい、そんな一気に」
『おいしい。』
「あ…?」
なにこれおいしい。
甘酸っぱいどちらかというと甘い。
このつぶつぶ、噛んでも噛んでも弾けやしない。
『オレンジジュースだ。』
「まぁそうだろうな。」
『えっ知ってたんですか?!マリンドリンクマスター!』
あっ顔がうざがってる。
そんな包み隠さないトコロもすてきだけど、おれ今すごくうざがられてる!
いくらだと信じてやまなかったものはただのオレンジ色のタピオカで、奥歯でぐにぐにと噛み潰しながら承太郎を見つめた。あーーー奥歯に挟まる。
「もともとミカン臭かったろう。」
『確かに。でも承太郎さんのこれはなんなんですかね。』
おれは尚もモチャモチャとタピオカを咀嚼しながら勝手に彼のカエルの卵ドリンクをコップに移し替える。
途端に彼のさっきまでの呆れ顔が強張る。
それもそのはず。今度こそ見紛う事なきカエルの卵がそれはもう溢れ出る溢れ出る。コップの中にたっぷりと、細胞分裂を一度終えひとつひとつの塊になった卵たち。
『(あーーやっぱり。)』
カエルの卵って時点でチアシードだろうなと思ってたんだよ!!もう騙されねえ!
たしかスーパーフードとか言って女どもが食ってるやつだ。ビ◯バンに瓶詰めのやつ並んでて日本終わったと思った覚えがある。そして母さんが買ってきたやつ飲んだことある。
『あ、いい匂いしますよ。レモン漬け?』
そう言って彼にコップを差し出すけれど、受け取る兆しはない。
『いくらと違ってここまで再現するの難しくないですか? この黒いの噛んだら何出てくるんですかね。』
「‥‥‥テメー…! 趣味が悪いぜ… 」
『こッ…… 』
こっわああああァァ〜〜〜ッッ!!!!!!ちょ〜〜コエエェェッ!!!!!
普通に泣きそうになったコップを持つ手の震えが止まらない。
そうだよね怒るよね確かに根性捻じ曲がってるよね恩を仇で返しまくってるよね!!ごめんなさい承太郎!!!!!
「っな…!」
『ンぶ、…っぐ、むぐ…!!』
俺は精一杯の謝罪のキモチを込めてカエルの卵ジュースを一気飲み。
ああ、懐かしいよこのヌメヌメした感覚… 二度と飲まないと思ってたヌメヌメのつぶつぶが俺の口の中を支配している。苦痛すぎて鼻から出そう。
「おい止めねえか! 名前ッ!」
『おでっ、いじわる… 承太郎さ…ッ、キライ、なんないで…』
好きなひとにイジワルしたいとか小学生かよ俺は!
イジワルしたい訳じゃないんだよ承太郎の喜怒哀楽をもっとたくさん楽しみたいだけなんだよでもどうせならやっぱり笑顔が一番見たいし俺のやり方が間違ってたよごべんなざい!!!!
コップは空っぽ。
中身は何てことないチアシードのかたまりで、ヌメヌメつぶつぶで噛めばプチプチって事を除けばはちみつレモン味のおいしいジュースだ。
だがしかし俺には何てことあった。
ヌメヌメジュースって時点で大きな苦難だったよ。胃と口の中が気持ち悪すぎてちょっと泣きそうだよ。でもちゃんと全部飲んだよ。飲んだからなんて都合良すぎだけどイジワルしたの許してほしいよ…!
『(ハイイィ〜〜〜ッッ!!?!)』
さ っ き よ り す げ ー 怒 っ て る 。
ほんとは一学者としてカエルの卵食べてみたかったの…?! だったらもっと嬉しそうにしてよガチで嫌がってるんだと思って全部飲んじゃったよ天邪鬼かよ!
『ずびばぜん、全部飲んじゃっ… 』
「バカな真似するんじゃねえ!!!」
ンンンヒィィィ〜〜〜〜!!!!
『ご、ご、ごめごごごめ』
降ってくるのは大きなひとつの深呼吸。
溜め息とも取れる深呼吸。
「いや、すまない…怒ってるんじゃねえんだ、そんなに怯えないでくれ。」
『…は。』
いやいやッッッ!
超〜〜〜ッッ怒ってましたよね?!!?!
これまでにない憤怒でしたよねどの口で怒ってないってアナタ誤魔化しきれませんよそれはアナタ!
むしろ怒ってるなら怒ってるって言ってもらった方が救われる。俺だってバカだけどバカじゃないし、ちゃんと叱ってもらったら反省だってするし!
承太郎のきもち、飲み込まないでちゃんとぶつけてほしいのに。
ああ、もう、また自分の欲がでてきた。
「なんてェ顔してんだ… 」
どんな顔してんだおれ。
承太郎は困った顔してるから、きっと困らせちゃうような顔してんだよな。さっきまで怒ってたのに…なんだよ喜怒哀楽見せてくれてるんじゃん、さっさと気付けよ俺のバカ。でも怒と哀が多いよ俺のバカ。
「頼むから、あまり無茶をしてくれるな… 心臓が幾つあっても足らねえ。」
えっっ( ˙ O ˙ )
エジプト渡り歩いたのに??ディオを探して数々の刺客をメメタァしてきたのに???
俺のたかだかチアシード一気飲みで、その強靭な心臓がバクバクしちゃったっていうの? 花京院の肉の芽抜くときまでも平常運転だったその心臓が??
『そんなまさかッ…数々の死闘を切り抜けてきた承太郎さんですよ?!』
「死闘の話をした覚えはねえが。」
『組を背負えばやっぱり命を狙われることもありますよね!シビれるっすアニキ!』
なんだってこの人はまたこんな不用意に俺を喜ばせるわけだ?
ゆったじゃんかヨォォ〜〜お前を好きな俺に期待させるようなこと言うなってさァ〜〜〜ッ!!!
承太郎にとっちゃ多少気心知れた居候なのかもしれんけど、俺はお前でホモの扉開きかけてるっていうのを少しは自覚して行動していただきたい。
まーご褒美ですけど!
たいッッへんオイシイですけどねェ!!!
「テメーは俺をなんだと思っ」
『好きです、承太郎さん。』
「!! …よさねえか。」
んきゃ〜〜〜〜ッッ!!
あの承太郎が!あの!承太郎が!赤面しているヨォォ〜〜〜!!!
ふいと目を逸らす承太郎をおれ自身釣られ赤面しながらまじまじ見つめていると、どこにいたのやら身を隠すことで面倒事を回避していたブリスルがそっと彼の肩口に現れ…
「チッ…」
表情などないはずなのに、それはそれは鬱陶しげに心の底から蔑むような面持ちを携えて(そう見えたんです)至近距離で舌打ちをかましてきた。
ごめんなさい見たくないですよねこんな片想いホモ。でもさ俺のスタンドなんだからもう少し応援しようとかないの、または黙って見守っててくれるとかないの。
クマヤロウのおかげで途端に冷静だわ。
なんなんだ俺が間違った道に進むのを矯正しようとでもしてるのかお前は俺のお母さんか。お前なんか完全無視セカンドステージだ。
『あ、お土産とか買います?』
「いや、必要ない。この世界のことが知れると厄介だからな。」
『あーーそっか… じゃあおれ母さんにお土産買いたいんで、すこし付き合ってもらっていいですか?』
ああ、と頷いた承太郎の肩口で、尚も解せぬと渋い表情(に見える無表情)を見せつけるクマやろう。
なにポジションなんだお前は。
お黙りと強く念じるとブリスルの姿はすぐに見えなくなったけれど、去り際に捨て台詞さながらの盛大な舌打ちを残していったのだった。
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