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22








空気をリセットしよう。
いつまでもヤベー雰囲気引きずってたら未来永劫この先ずっと気まずい! そうなったら俺はストレスで血を吐く。




『俺は、知らんぷりが得意だ。』




承太郎に初めて会ったときも何にも知らないフリして騙し通したしな!

彼に対しては恨みとか一欠片もないどころか感謝のキモチでいっぱいなんだけど、今は自分さえ欺かなきゃ自我を保っていられないの…!
嗚呼、何もかもが良くない方向に拗れていってる気がする。清くて爽やかな師弟関係が脆く儚く崩れ去っていってる気がする。





ウワアアこんなこと言ってるから持ち直せないのよバカッ! 俺はホモで承太郎がスキ!うんそうだ!!












違うそうじゃなーーーいッッ!!!

…んっ? そういやブリスルどこいった。







「ココですの。」

『…今までどこにいたの。」
「ずっとお傍に居りましたの。四六時中具現化してるワケじゃありませんの」





アッ、そうなの…?
ずっとぬいぐるみの姿で付いて回ってきてたから、てっきりそれがスタンダードなんだと思い込んでたよ。

そうか、完全に俺を試す云々のためにあの姿で居たのか。そしてその必要がなくなったからって!姿消して今までのゴタゴタを全部見て見ぬフリしてたってワケねッ?!!







「責任転嫁はやめてほしいんですの!こっちはキミがチカラを暴走させるのを抑えるので必死でしたの!」

『うわ間髪入れず突っ込んできた俺の思考回路だだ漏れなのコワイそして暴走とか何事。』

「精神不安定にも程がありますの!ボクが抑えていなかったら今頃紀元前ですの!」






そういえばついさっき紀元前まで時間戻したいとか考えたよ。混乱真っ盛りだったからかなりガチで考えたよ。

というか主のチカラの暴走まで食い止めたりしてくれるの?
(スタンドがそこら辺コントロール出来るとなると俺の存在意義が問われてくるけどそこは置いといて)







『お前スゴいね。』
「当然ですの、旧型と一緒にしないで欲しいんですの。」

『わっ!旧型ですって!カンジわる〜い!』





ブリスルが新型って概念ないけどな。

単なる自立型のちょっと面倒くさいスタンドと思ってたブリスルは、承太郎たちの世界から十数年の時を経て少し(自称)進化を遂げているらしい。












「待たせたな。」
『いえ! いま来たところです!』

「… まぁいい、行こうか。」





ツッコミを放棄した承太郎はコツコツと軽快な音を鳴らせて歩を進める。

その背中を追いながら辺りを見回せども、さっきまでドヤ顔で新型がどうだと話していたブリスルの姿はドコにもなくて、俺はそっと確信した。



アイツ面倒事だと思って逃げてるな。









『あ、飲み物買ってっていいですか? なんか飲みます?』




歩行通路の傍らに自販機の存在を確認。

そういえば喉渇いた。
思い返すとここまでよく保ったなってレベルで咽喉が干上がってる。





「ああ、そうだな……… 」

『なに見て…… これがいいんですか…?』


「いやそういう訳では」
『承太郎さんのハングリー精神を尊重して俺もこれにします。』






ガコンガコン!



















『アッ……アアア…!』





“おたのしみ!マリンドリンク!”


そう書かれたパッケージを彼が喰い入るように見ていたものだから、ひと思いにボタンを押したのだった。

手にした缶には軽快なお魚さんたちのイラストの傍らに、明朝体の渋めなフォントで





『 いくら…… 』





そう書かれていた。

もっとマリン感出してカクテル的な青いジュースでも作っておけば良いんじゃないの? どうしてこんな悪戯ゴコロ発揮するの…!





想像を裏切る変化球に震えるなか、彼も俺に倣うようにして受け取り口にひとつ残されたジュース缶をそっと取り出す。

パッケージは俺と変わらない。
中身が全て同じなのか、否か。












「カエルの卵。」

『ひっ…!』





極めて低い声色で、おそらく俺と同じく明朝体で刻まれた文字を彼が呟く。

言葉にはしないが、いくらで良かった…
完全なるゲテモノ思考に圧倒され、俺も承太郎もしばらく言葉を失くしその場に佇んだ。





『…これ、使っていいみたいです。』




自販機の傍らにはプラスチックのコップと蓋、そしてタピオカドリンクでお馴染みの太いストローまでがス○バさながらにテーブルの上に揃えられている。

そしてご丁寧に “アクアドリンクをご購入の方のみご利用ください” との注意書き。





『カエルはキライなんですか?』

「仮にカエルが好きだとして、卵を食いてェと思うか?」
『ごもっともです!はいッ、どうぞ!』




ここまで明け透けと嫌悪を露わにしている承太郎はお初にお目にかかるぞ!

ちょっと楽しくなってきた俺は爽やかな笑顔(のつもり)で彼にカップを差し出した。






『早くしないと細胞分裂始まっちゃいますよ。』

「……… 。」

『顔怖い本当に怖い生まれてきたことを後悔するくらい怖いです本当にゴメンナサイ。』






彼の目線に耐えかね、俺はそそくさと先陣を切って手にしたマリンドリンクのプルタブを引き上げた。

開かれた口に恐る恐る鼻を寄せると、なんとも馴れ親しんだ香りが流れ込む。




『えっこれただの…』

「出さねえのか?」
『いやこれ、』



嗅いでみてと言わんばかりに承太郎の鼻先へ缶を運ぶと、自ら少し顔を寄せて彼がスンと鼻を鳴らす。



『間違いないですよね。』
「間違いねえな。」



顔を見合わせてひとつ頷く。

確信を持てるほどポピュラーなその香りに後押しされ、先刻までの恐怖心は何処。 ひと思いに透明なプラスチックのコップへと缶の中身を注いだ。














『オレンジジュースじゃない!!!』






確かに匂いはオレンジジュースだった。缶を開けた瞬間にぷんぷん香ってたし、承太郎も頷いてたし!

なのに!! なんで!!!





『いくら出てきた!!オレンジジュースじゃない!!!』





ぞろぞろと缶から雪崩れ込んでくるいくらたち。透明の液体に運ばれ流され、ぞろぞろぞろぞろと。

たったの350円で缶ひとつ分のたっぷりのいくらを手に入れて喜ぶべきなの? そもそもこの保存液みたいな透明の液体はなんなの??






『承太郎さん!』
「…なんだ。」


『魚卵はお好きでしょうか!』

「カエルは好きか?」
『いただきまァ〜〜すッッ!』




カエルの卵を食すくらいなら俺は承太郎のスネ毛を食べる。(決して進んで食べたいというワケではない)




コップにたっぷり注がれた透明な液体、そこにたっぷり沈んでいるいくらたち。下部3分の1はいくらだ。

手が震えれば震えるほどいくらがふよふよと漂い、まるで嘲笑っているように思えてくる。




俺は意を決して、いくら汁を口へ運んだ。




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