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21






初めて聞けたその胸の内に、ただ愛しくて堪らなくなった。



込み上げた感情を包み隠さず言葉にすると、彼は困ったように目を細めながらも微笑んでくれた。

そんな表情だって初めて見るものだから、俺はどうしたらいいか分からなくってただ同じように笑い返した。


















バカめ。





バカァァァ〜〜!
俺のバカッ!バカッ!!

人間の感情ってのは何だってこう時に歯止めが効かなくなるのかなァ…






『(我に返るとものすごく)』





恥ずかしくて恥ずかしくて、穴があったら入りたいし穴がなくても掘って承太郎を埋めて逃げたい。

または時間を紀元前まで戻したい。







「顔色が真っ青だぜ…」

『ヒトの顔は青くなりません。ちょっと血圧が急降下し』






ああ、意識が遠ざかってきた。



後ろに倒れかけた俺のカラダは、承太郎が咄嗟に腕を引っ張ってくれたお陰で何とかトイレの床とご挨拶するのを免れる。

が、これはこれでヒジョ〜〜ッにヨロシクない。








『(うわ、)』





必然的に寄り掛からざるを得なかった彼の胸に耳を当てると、その立ち振る舞いからは想像もつかない程に力強く、心臓が血液を送り込んでる。

それこそ胸の筋肉が多少上下するほどで。バカみたいに焦ってんのはお互い様なのかもなんて考えると、幾分気持ちが和らいでいく。








『ドキドキ、してくれてます。』

「大人をからかうんじゃねえ… もう立てんなら離れねえか。」

『あと3秒… いやッ、3分ください。』





「断る、離れろ。」

『減るモンじゃなし〜。スンスン』
「精神が擦り減る。…嗅ぐな。」








ああ、やっぱり。

このドキドキも、俺を諭す声色も、肩に置かれた手のひらの少し高い体温も、嫌悪の色はひとつも見えない。俺は安堵でまた気を失いそうだ。




ムリに引き剥がそうとしないのは、距離感を掴みあぐねてるのかな。

それにつけ込んでフラれた矢先にこんなベタベタ引っ付いて… いつからそんなに性悪になったんだ俺。悔い改めてくれ。









『ンン〜〜〜?』












自分で言葉にするまで気付かなんだ。


おれ、“フラれた” のか。










『( 俺は、……? )』






俺は承太郎のことが好きだ。

伝えた言葉に偽りはなかったし、彼がいないと寂しく思う。一緒にいたい、もっと彼を知りたい。




だけどその感情がラブかライクかって言われたら、よく分からない。

正直、承太郎とセックスしたいかって言われたら微塵もしたくないし、そもそも彼をそんな性的な目で見たことは…









『なっぶぁ…!!!』

「ハァ… 今度は何だ。」





奇声に近しいものを上げて彼の肩口に顔を埋める俺に、反応するのにも疲れたのか溜息交じりの呆れ声が降ってくる。








あ、ありのまま今起こった事を話すぜ…!





何の気なしにそっと承太郎の顔を盗み見たんだ。やましい想いは一切ナシでだ!

そうしたら世にも芸術的なフォルムの口唇が目に飛び込んできて、”あっマックでもこんな瞬間あったな” とか一瞬冷静な俺が降り立ったあと、





無性〜〜ッにキスとかしたくなって。





突然生まれ出たクソみたいな感情にビックリして俺は承太郎の顔を見るまいとこうしてベストオブフレーバーな肩口に埋まり込んでいるってワケだ。








「全く不可解だなテメーは…」

『うっうっ… ゴメンなさい、俺そんなつもりじゃ…』

「さっきまでどういうつもりで居て今がどんなつもりなのか、微塵も分からねえから安心しろ。』







それはよござんした…!

幸い俺のゴミのような欲望は漏れ出していないらしいので、一刻も早くこの状況から脱却したい。




それにしたって彼の匂いをずっと鼻に詰め込まれてたんじゃあ落ち着くものも落ち着かないよ!

立て続けに俺のアイデンティティが崩壊しててもう誰も信じられないの…! 本当の自分さえ分からなくなってきたのォ!
(内なる厨二病が今、目を醒ます。)









『お腹空きません?』

「いや、朝にかなり食べたからな… 腹が減ったのか?」

『ミートゥーです… おなか、いっぱいです…! クゥッ… 』







お昼ごはんでまず腰を落ち着けて我を取り戻そう作戦は失敗に終わった。

そうです俺が浅はかでした!
朝っぱらから数時間じゃ消化しきれないほど致死量のマック食べたし、どうりでこんな急に便意とか催すよチクショー…!







『取り敢えず、移動しましょっか! まだ見てないトコもあるし。』






なんかくちびるばっかり注視しちゃいそうで承太郎の顔をうまく見れない。

言葉を投げかけた俺は、思い立ったように彼から身体を剥がしそそくさと背中を向けてトイレを後にする。



挙動不審なのは自覚してんだヨォ!

でもいっぱいいっぱいなの!!!






















「ッチ、相手は子供だろうが… 何をはしゃいでんだ俺は… 」






そう言いながら胸に手を当ててひとり深呼吸をする彼のコトなんて、先に逃げ出た俺は知る由もないままで。




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