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所変わってイベント会場。

大きな水槽をぐるっと囲うようにして観客席が並ぶそこは、プールのあの塩素くさい感じと魚の生臭さが融合したなんとも言えないフレーバーが漂っている。




『うわ、べっちゃべちゃ。』




前の一列目と二列目は、バケツで水をかぶったようなびしょ濡れ加減。

人が座っていたらしき部分だけが丸く乾いていて、人知れず眉根を寄せつつも “カップルならメシウマだなぁ” なんて考えて、俺は一番後ろの座席に腰を下ろした。


(すごく性格が悪そうに思われるかもしれないけどイルカとかアシカとか泳いだ水槽の水は少なからずクサイと思うし、そんな危険を被ってでも間近でショーを観たいってのはなかなかクレイジーだと思うし、それがカップルだったら最高に飯がウマいよね!)







周りを見回してみるとカップルや家族連ればかりで、それはもうひとりで観に来てんの俺だけなんじゃないかってレベルで。

な、なにこの居た堪れなさ…!

もしかしたら俺、お魚ダイスキで年間パスポートとか買っちゃって毎日足繁くルンルンと水族館に通い詰めてる好き者ヤローと思われているかもしれない…?

違うのッ! 俺だってお前らがヤキモチ妬いちゃうようなスゲーいい男連れて来てんだからァァ!!!





『(まーだちんこヒトデ見てんのかな…)』




開演時間が刻々と迫るにつれて、広い館内に散ってた観光客たちがぞろぞろと集結し始める。

それこそ最前列の席に嬉々としながらカップルが座るもんだから、俺の楽しみはイルカショーからメシウマ現場を押さえる事へと完全にシフトチェンジを遂げた。




俺は知っているぞォ〜〜??

お前らが入ってくる少し前に、スタッフのお姉さんがタオルか雑巾か知れない布で濡れた椅子を拭いていた事をなァッ!!!!

何も知らずに、ただ近くでショーを見たいが為にそこに座ったのであろう… クク、哀れなヤツらよ…






『(こんなに人いたのか。)』




思ったよりみっちり人が入ってる。
これじゃ承太郎がきても発見してもらえないじゃない! 結局ひとりで楽しむ感じじゃないの!!

(かといって俺を探してウロついてくれたりしたらココにいる観客どもが確実にイルカより承太郎に釘付けになった挙句、連れだとバレた瞬間に俺が水槽に沈められるかもしれない)




俺は今更に後悔している…

試すようなマネするんじゃなかったヨォ!!!!










「えらい思い詰めた顔だな。
何かあったのか?」

『アアアッ!!?』



じょっじょじょジヨジヨ〜〜〜〜ッッ!!?!?

びっくりしたびっくりしたすごい大きい声出しちゃった何どこから湧いたの隣に座られるまで気付かないって俺ぜったい前世は忍者じゃない…!





承太郎の姿に惹かれてか、俺の大声に反応してか、会話に忙しない観客たちの視線はほぼほぼ俺たちに注いでいる。

やめてこっち見ないで…!
びっくりして人前で大声出すなんて幼少期以来だよめちゃくちゃ恥ずかしいよチクショー承太郎テメー!!






『よく見つけられましたね? 俺アリみたいに尻からフェロモン出てんのかな。』



アッ、でもそれで俺を発見してたら承太郎さんもアリ仲間だ。 彼はアリなんかに収まりきれる器じゃないぜ… ふっ…





「あながち出ていなくもねえな。
会場にきて、何故だか一番に目に入った。」

『ンン〜〜?』





ヒィィ〜〜〜!!!

トキメキすぎて脊椎砕け散るところだったヨォ! そんな穏やかな微笑みを称えながら何言ってくれてんの?! ちんこヒトデに癒されてご機嫌なの?!!?




待てよもしかして俺すごい悪目立ちしてる?

一発で発見できるくらい何かしらの悪目立ちをしてる? カップル見下ろして一人でククククとかやってたの全部声に出てたりしてないよね??

それともアレか。 悲しきかな、お一人様オーラがでてるのか。






「得意の百面相の途中に悪いが… スタンド使い同士、互いに引かれ合っちまうモンでな。 テメーが妙な目立ち方してるってワケではねえぜ。」

『惹かれあってるんですか俺たち…!』

「少女漫画みてえな反応をするな。野郎に性的興奮を覚える趣味はねえ。」




ひ、ヒィィィヒ〜〜〜!!!!

承太郎の口から性的興奮なんて単語が…!
いやそうだよな、妻子持ちだし今までだって女に困った事なんてないだろうし、そんな事よりアナタ少女漫画読むの??






もしかしてハンター○ンターのオーラみたいにスタンドの力も目に映るのか、なんて一瞬考えたけれど、承太郎や仗助なんかからそれっぽいものは見受けられなかったから違うんだろう。

単に承太郎の視力がマサイ級で、俺の存在感がハリウッド俳優級だった。 そう、それだけの事さ…






『ありがとうございます。』



見つけてくれて。

そして置いてったのに、文句ひとつ言わないでくれて。






「? 何の礼だ?」

『へへ、諸々です。
ブリスルもありがとね。』

「どういたしましてですの。」





心の靄はすっかり晴れて、なんとも調子のいい俺はゴキゲンに足をパタつかせたりなんかして。

もっと承太郎との時間を大切にしなくっちゃなー。 変に試すようなマネしてバカめ! 俺バカめ!

そんな事してる場合じゃないんだ!








『(あと、4日かぁ…)』




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