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『俺の世界にスタンド使いはいるんでしょうか。』

「さぁな…だが名前が唯一無二と考えるより、どこかで同じ現象が起きてると考えた方が自然ではある。」

『急に日付が進まなくなったのにも関係ありますよね。』




えらい変な感じだ。

このご時世にこの世にスタンド使いなんて生まれたら悪さをするに決まってる。いかに金儲け出来るかとか、考えずには居られんだろう!

実感湧かない分、まだ俺はどうとも思わないけど。





『…あの、ちょっと出してみてもらえますか。承太郎さんのスタンド』




そう言って一個目の最後のひとくちを口の中に放り込んだと同時に、承太郎の後ろにスタープラチナが出現した。

フロントミラーでそれをチラ見すると、何か、何っか違和感がある。普段のスタープラチナとドコか違ってる。
ちょうど進んだ先が赤信号だったので、車を止めて上半身ごと承太郎の背後を向いた。





『何でか、前見た時と違う感じがします。良く解んないですけど…』

「‥‥今、スタープラチナの能力で時を止めた。」





えっ、なんでやねん。
やたらめったら時間止めすぎだろ承太郎。こないだも俺を抱きしめて永遠の愛を誓い合った時にわざわざ照れ隠しでザ・ワールド使っちゃってさぁ!

もうッ!きゃわゆイイイィィ







「俺のこの能力は現時点じゃ三秒が限界だ。
だが…テメーには解らねえだろうが、いま時は少なくとも一時間は動かなかった。」

『1時間は60分で60分が3600秒で3秒の1200倍の長さですよ。』

「やかましい。
前言を撤回するぜ。恐らくこの世界にスタンド使いは存在しねえ、世界事態のスタンド能力に対する抵抗があまりに低すぎる。」






一時間も黙ってそこに座ってたのか。自分独りの世界はさぞかし孤独だったろうに…

ちゃっかりあの横断歩道の女子高生のパンティを確認したりはしなかったんだろうか。
あ、承太郎の分のマックがキレイさっぱり包み紙に変身してる。独りで黙々と食べたのか承太郎…さぞかし寂しかったろうにシクシク…!






でも、自分が唯一のスタンド使いになったなんて信じ難いモンがある。

だとしたらこの日付が変わりませんよ現象も俺の所為になるじゃないか!一日丸々時間を戻すなんてチート過ぎる、そんな能力あっていいハズがない。





「テメーはスタンドのない世界で唯一の特異点だ。常識はずれた能力…時を戻すなんざ出来たって、何ら不思議はねえ。」

『いーえ不思議すぎます。
俺は自分のスタンドすら見た事ないんですから、やっぱり俺の仕業じゃないですよ。』





言葉にしてみればそうだ、俺は自分のスタンドを見た事がない。これでも俺の仕業なんだとしたらスタンドでも何でもなくて俺はただの魔法使いとかだろ。

時魔導士だ!!カックウィー!





「それなんだが、」




スタープラチナがひょいと摘まみ上げて見せたのは全長15cm程度の、クマのぬいぐるみ。

あれ、そんなの車内にあったかしら。





「見ろ。」



そう言って承太郎がクマのぬいぐるみにそっと手を伸ばす。

お前まさかそのクマたんが居ないと落ち着かないとか、小さい頃からの唯一の友達とか言うんじゃないだろうな…!






「自立型のスタンドだ。テメーの意志に反応し、行動してる。」




承太郎の手はスルリとクマたんをすり抜けて、俺はビックリ仰天で目が飛び出しかけていますなう。

そんな可愛いスタンド、頼りなさすぎませんか。パンチもキックも出来やしないじゃない!!!






『…は、初めまして。』

「初めましてなの。離してほしーの!!助けてほしーの!」

『うぜえー…』





なにそのキャラ、捻り潰したい。

とりあえず落ち着いて話をしようとコンビニの駐車場に車を停めて、目を閉じて長ーく深呼吸。



『はふぅ――…』



口から吸い込んだ大気を鼻から出し終えた刹那、急に何かが弾けた音がした。






『‥‥‥へ…、』

「離せなの。」





クマのぬいぐるみを摘まみ上げてたスタープラチナの手は、今の弾けた音と一緒にどっかに吹っ飛ばされたらしい。

と言うことは当然承太郎の手もぐちゃぐちゃで、目の前で絶え間無く鮮血が噴き出す光景は生まれてこの方、初めて見る。






『なななにしてんだよ!!じょっじょ仗助ッ、仗助あああこっちの世界にいねえええ!』




今すぐ向こうの世界に…とは思ったけど、この現状でまで三秒で眠りに就ける神経の図太さは持ち合わせてない。

血生臭いとか、車が汚れただとか、何で平然としてんだ承太郎とか考える余裕はあるのに対処法がまるで浮かばん!!病院でいいのか!ホスピタル!!!





「この世界じゃどんな非力なスタンドも並じゃねえパワーを発揮する…油断したぜ。」

『やっと口開いて解析ですか!!病院行きますから、止血とかッ、方法分かればやってください!』





すぐに車のキーを回して、焦りでギアがDから通り過ぎた事すらイライラして、ぐんとアクセルを踏み締めて走り出す。

途端にナビが“ルートから外れました。リルートします”とかすました声で言い始めて、それこそ交差点を過ぎる度に何度も言い始めて、腹が立ったので電源コードをぶち抜いた。






「病院なの?イタイイタイなの?」

『お前のせいで承太郎さんがイタイイタイなんだよ!!あー信号ウゼェェェ』



「イタ〜イのイタイの飛〜んで〜けなぁの〜。」
『ぶっ飛ば‥‥‥さないよ。』





クマがしょうもねー呪文を唱え俺がいい加減プッツンする寸前。

一瞬のうちに承太郎の手は元に戻った。彼の足元にあった血溜まりも、車内に充満してた錆びた匂いすらキレイさっぱりだ。





『…なにお前治したの。』

「いや戻したんだ。部分的に、手だけの時間を」





そうして目を見張る俺たちを余所にクマ野郎はマックポテトを貪り始めた。マジ舐め腐っとる。

俺はまたしてもコンビニの駐車場を拝借し車を停めて、クマ野郎に向き直った。





『どうしてあんな事したのッ!』







「‥‥‥。」


「だって捕まえられたの!痛かったの!」

『痛くてもダメなの!悪意のない人に報復しちゃダメなの!』

「理不尽なのッ!ヤなの!」
『ヤじゃないのッ!』





コイツは一から教育し直す必要がありそうだな!人情というものを!!

何やら呆れっ面の承太郎を余所に口論は続く。それこそ何でさっさと出てこなかったんだとか勝手に時間戻しやがってとか、これまでの不満もぶつけつつ。





『何なの!名前なんていうの!?』
「ブリスルなのッ!」
『ブリをするって何なの!排便な』
「殺すの。」

『ゴメンね可愛い名前だネ。』




俺を殺したらお前も痛いしお前も死ぬんだぞ!チクショウ!





そんなところで痺れを切らした承太郎がオクターブは低い声色で“おい”と唸った。

な、なんだよキレてんのかよ…言っとくけど突っ込み待ちだったんだからな!出遅れたお前が悪いんだからなッ…!






「水族館に行くんじゃねーのか。」

『クククク…』

「‥‥‥。」




KAWAYYYYYY!!!!

そんなに待ち遠しいんだね水族館!楽しみでうずうずで待ちきれないんだね水族館ッ。
行こう行こう早急に行こう。もうこんなクマ差し置いてさっさと行こ!







「全部食うんだろうな?」

『…食いますよ。』




マックの存在を忘れており、一気に気分滅入ったなう。



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