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11










『すみません…ッ!!』






事の発端は昨日の夜に逆上る。




二度目ましての豪勢なディナーにビャアアァァァウマイイイィィと相も変わらず騒ぎ立てて、また寝たら面倒だと先に風呂にも入った。

くそデカいジャグジー風呂だったので一時間近くぶくぶくぶくぶく浸かっていたら危うく寝そうになった。元も子もない。







「‥‥‥。」




風呂上がりの彼を待ち構えて、俺はその手にしっかりとドライヤーを構えていて。

多分ないことに気付いて洗面所から出てきたんだろう、無言でドライヤーをガン見してる。






『髪乾かしていいですか!』


「…寝る。」
『えッ、いやいや風邪引きますよ!』
「引かねえ。」





何でだよ髪乾かすくらいいいだろ!ケチかッ!
そう思いながらも、ベッドに直行してしまう彼を見て慌ててソファーにドライヤーを放り投げる。

もしかして普段から自然乾燥派だったんだろうか…昨日は承太郎が風呂を上がるより先に寝たからなぁ。









『電気消しますよー。』




早々にベッドに横になってしまう姿に、今日はお仕事ないのかと今朝あった書類が片付いた机を一瞥した。

立ち上がったついでに部屋の電気のスイッチを一押しして、それから、





『詰めてください。』





承太郎のベッドに潜り込む。

暗くて表情が見えないからまだイケる。これでスゲードスの効いた声が帰ってきたら無言でソファーに戻ろう。






「…何なんだ今日は。」

『これから残り4日間、俺は果敢に攻めますよ。』

「はぁ…やれやれだぜ。」





暗がりの中のシルエットが悩ましげに片手を額に当てた。





露伴に彼が今週限りしかココにはいないのだと言われ、俺はそれでようやっと実感したんだ。

一週間なんてすぐ終わる。ましてや明日なんてバイトもあるし、今日みたいに彼がいない時だってあるだろう。


要をするに、思い出作りというやつだ。








『明日はバイトなんで一日あっちに居ようと思います。時間がまともに進んでたら、ですけど…』

「そうか。」






話聞いてんのかななんて思うほど素っ気なく返ってくる相槌。

でもその時ちょっと身体をベッドの端に寄せてくれたのに気付いて、ゲヘへとよだれが出そうになる。







『承太郎さんもドコか出掛けます?仕事とか。』

「明日は特にねえな…」

『じゃあたまには一日中寝腐るといいですよ。』




「身体が勝手に起きる。」
『あー、歳ですよね。』


「‥‥‥寝ろ。」






思い出作りなんて意気込んだ矢先に、彼は一日オフなのに俺はバイトだなんて。

神は何をお考えなのですかッ!やんなっちゃうよ!!





友達と出勤を交代した手前、別の奴にバイト代わってもらっても気まずい。

そもそも承太郎と過ごしたいからなんて理由でバイトを休むのは、フリーターとは言え一社会人としてディ・モールト宜しくない!



KUAAA!クソッ!!
また時間進んでなかったらいいのに…





『…おやすみなさい。』

「ああ。」





そうして不貞腐れながら承太郎の匂いをクンカクンカしたら、俺は単純なヤツだなぁと思うほどゲヘへってよだれがry




起きたら香水使ってるのか訊いてみよう。

あ、ダメなんだった。明日は一日彼には会えないんだ。
すぐに気付いてまたションボリに逆戻り。クンカクンカでまた復活。











「(嗅がれている…)」





寝就くのに10分かかった。
3秒で眠れるはずの俺が、異例の10分。

これは深刻だ。





























そして朝。

これはもうつい1分前の出来事にございます。






「『 狭ェ… 』」




起きたのも呟いたのもほぼ同時だった。

でも脳ミソが事態を理解したのはきっと若々しい俺よりもデキルオヤジな承太郎が先だったに違いない。






「触れてるモンは移動出来るんだったか…」

『すみません、俺の考えが至りませんで…!』

「いや、それは俺も同じだ。」






そんなこんなで現時点。



携帯ならまだしも俺は人間まで連れ込めるのか。
定義は何なんだ。ソファーで寝てもソファーは連れ込まなかったぞ!!







『二度寝しましょう承太郎さん。俺、寝るの得意ですから!』

「バイトは良いのか。」

『大丈夫ですッ、俺3秒で寝れ…ああそっか、すぐ起きれるか解んないですよね…』





寝る事はすぐできる。
でもすぐに起きるぞなんて意気込んだって寝過ごして生きていく意味を見失うのが人間というもので。(少し言い過ぎたなとは思っていますスミマセン)


――――…♪


ああこんな時に携帯鳴り出したよ空気読めや!!

あッ、そうか携帯か!!
空気読んだなオイ!







『承太郎さん、俺アラームで起きれます!さぁ寝ましょうッ!』

「まず電話に出てやれ。」

『そうでしたァ!!ハイッモシモシ!』










「え?何そのテンション…」




またお前か。

こんな朝っぱらにコイツから電話が掛かってくるなら、もう用件は解りきってる。俺だって予想してなかった訳じゃない。







『おはよう、バイトなら代わってあげるよ。』

「ごッブぁ!!
やっば牛乳吹き出しちゃったッ…なんで解ったの?!」

『汚い。』





やっぱり日付は変わってないみたいです。
念のため今日何日だっけと訊いてみたら、12日だよと。なるほどそうだねと。

今日ばっかりはバイト憂鬱だったからオーライなんだけどね!WRYYYY!







「すごい名前、遂に僕たち想いが通じ合ったね。」

『うんそうだね、マタネ!』
「アッ」






うほwwwwwwwまたアッて言ったww何なんだよアッてアッてwwwwwwwwアッwwwバンバン



携帯のディスプレイを落として、まだ少し心中穏やかじゃいられないけど、それでもなるだけ素知らぬ顔をした。

俺の生まれた世界は何がどうなってこうなった。






『また12日です。日付、変わってませんでした』

「…そうか。この部屋、隠れる場所がねえな」

『隠れんぼ、したいんですか?えーと…好きなんですか、隠れんぼ…』





承太郎、それはたかが二日三日を共に過ごした程度の人間にカミングアウトしていい趣味じゃないぞ。

と純粋に思ったが、途端に彼の眉間にシワができたので趣味じゃあないらしい。
だったら何だ、部屋が狭いと言うイヤミか?






『とりあえず寝ま』
「名前、アンタ今日バイトあったわよね?」


「‥‥‥。」

『…こういう事なら早く言ってください‥‥‥おはよう母さん。』





予想してなかった展開に肩がビクついたけど、別に知り合いだ友達だって言い訳すれば何てことはない。





でも普段友達がきたら床に布団敷いて寝ろって言ってるから、そこを不審がられたら危ないんだ…

いや、バレるバレないの危うさじゃなくて!こんな図体の男とわざわざ狭いベッドを共有して寝る必要はないとかそういう…考えすぎか。






『バイトの先輩。』

「夜に来てたの?言ったら朝ごはん二人分作ったのに。」





母さん頼むよ、ボクの目を見て話してくれ。

解るよそりゃこんな類い稀なるイケてるメンズがいたら凝視したくもなるだろうよ。母さん韓流好きだから筋肉質なのもオイシク頂けるしな。


でもね母さん、俺の知り合いなの!!そんな成人向けコミックスみたいな関係性やめてよッ!







『…既婚者デスヨ。』

「アンタうるさいわね、目の保養にしてただけよ。
お母さん仕事行くけどまだ起きないの?」

『さっき電話きて出勤明日になった。』

「あらそう、じゃあ行くからね。ごゆっくり〜。」







『‥‥‥。』



今のごゆっくり意味深じゃなかったか。俺の考えすぎか。

階段を駆け下りていく音に小さく安堵して、嵐の来襲から黙り込む承太郎に寝ましょうと声を掛けた。








「外に出て構わねえか?」
『はいおやす…え。』




相槌かおやすみが返ってくると思ったら、予想だにしない言葉を耳にした。

なに企んでるの。
どうしよう、ダメデスとぶった切りたい。でもそれって俺が何か隠してるって取れるよな!メンドクサイッ!!









『イイデスヨ。』



仕方ないじゃない。

だってね…少し輝いてたんだもの、こやつの瞳が。





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